「補聴器」は耳鼻科で買った方がいい理由はご存じですか? つける判断基準やタイミングも医師が解説!
「最近、耳が遠くなったかも……」と感じることはありませんか? 音が聞こえにくい、会話が聞き取りにくいといったことはどうして起こり、どのような治療法があるのでしょうか。今回は、難聴のメカニズムや治療法、補聴器が必要か不要かの判断基準などについて、「狭山ヶ丘駅前耳鼻咽喉科アレルギー科」の丹羽先生に解説していただきました。
監修医師:
丹羽 克樹(狭山ヶ丘耳鼻咽喉科・アレルギー科)
最近耳が遠くなった…これって病気?
編集部
最近、耳が遠くなってきた気がします。
丹羽先生
私たちが聞いた音は、空気の振動として耳の穴から鼓膜に伝わります。鼓膜が震えると、鼓膜→耳小骨→内耳と、耳の奥の方へ振動が伝わり、内耳で電気信号に変換されて、神経を介して脳に伝えられます。この一連の流れのどこかが、うまくいかなくなると難聴となります。
編集部
もう少し詳しく教えてください。
丹羽先生
難聴は、主に3つのタイプがあります。音が伝わる過程に問題が生じ、内耳に十分な音の振動が伝達されない「伝音難聴」、音を感知するセンサーやそれを脳に送る神経に異常が生じる「感音難聴」、そしてこの2つが組み合わさった「混合性難聴」です。
編集部
歳とともに聞こえにくくなってきたのですが、どれに分類されますか?
丹羽先生
加齢に伴って聞こえが悪くなり、検査をしても年齢以外に明らかな原因がない難聴は「老人性難聴」と呼ばれます。発症の目安は、60歳以降ですね。老人性難聴は主に感音難聴の一種として分類されます。
編集部
なぜ、歳とともに聞こえが悪くなるのですか?
丹羽先生
年齢を重ねるにつれて、体内の様々な機能は徐々に衰えていきますが、聴力もその例外ではありません。耳の深部で振動をキャッチする内耳の神経細胞、そこから脳へ信号を送る後迷路、そして音を解釈する脳など、聴覚に関わる部位が全体的に機能低下を起こすことで、感音難聴となってしまうのです。
難聴の治療法
編集部
難聴の治療法について教えてください。
丹羽先生
それぞれの原因を見極め、最適な治療を選択します。 例えば、伝音難聴であれば「耳垢が詰まった」「外耳炎が悪化して耳の穴が狭くなっている」「中耳炎で中耳に液体が溜まった」などの原因が考えられます。
編集部
感音難聴についてはいかがでしょうか?
丹羽先生
こちらも原因を特定してそれぞれの治療をおこないます。例えば、原因として「メニエール病」があった場合にはメニエール病の治療をおこないますし、稀ではありますが脳腫瘍や脳梗塞が原因であればそちらの治療をおこないます。しかし、ほとんどの場合は内耳などの機能低下が原因であり、急性期はステロイドなどの薬物治療が有効な場合もありますが、それ以降の根本治療は困難です。進行を遅らせるための生活指導や、必要に応じて補聴器の装用や人工内耳(手術)が検討されます。
編集部
具体的には、どのような生活指導をするのですか?
丹羽先生
適度な運動や規則正しい睡眠、栄養バランスのとれた食事などを心がけ、騒音をなるべく避けて静かな環境に身を置くことなどをアドバイスしています。特にビタミンの摂取は重要で、ビタミン剤を服用するのであれば、水溶性ビタミン(ビタミンB、C)をおすすめしています。脂溶性ビタミンであるA、D、E、Kなどは、摂取し過ぎると害にもなりますので、気をつける必要があります。
編集部
補聴器についても教えてください。
丹羽先生
補聴器は、文字通り「聴覚を補うための医療機器」です。感音難聴は、空気の振動の一部を電気信号に変えられなくなり、脳に届く電気信号の量や質が悪くなります。したがって、補聴器からいくら自然で良い音が出ても、それを受け止めるセンサーの調子が悪いわけですから、脳に届く音はやはり質の悪い音になります。いわば「音は聞こえるけど言葉の理解ができない」という状態です。質が悪い音で言葉を理解するためには、補聴器を装用してからの聴覚リハビリが重要となります。
編集部
補聴器は、「集音器」とは違うのですか?
丹羽先生
補聴器はテレビなどの広告で販売されている集音器とは異なり、一人ひとりの状態に合わせて調整し、悪くなった脳へ届く電気信号の量を増やすことを可能にする医療機器です。また、単なる家電である集音器と異なり耳を守るように設計されています。具体的には、目の前で大きな音がした場合、集音器ではそのまま増幅してしまうため、「音響外傷」という難聴を助長する状況が生まれますが、補聴器は瞬時に大きすぎる音は小さくしてしまうので、耳は守られます。つまり、適切に調整した補聴器で難聴が進行することはありませんが、集音器では集音器による難聴が起こり得ます。
自分には補聴器が必要?判断基準は?
編集部
補聴器を使うかどうかはどのように決められるのですか?
丹羽先生
目安としては、両耳ともに平均聴力が40dBで難聴が生じていれば、補聴器の装用を推奨しています。
編集部
ほかにはありますか?
丹羽先生
語音聴力検査という「言葉の聴力検査」の結果も判断材料です。会話で使用する音圧(小声であれば40dB、普通の声であれば50dB、大声であれば60dB)で言葉の理解度が低くても、70dB、80dBというさらに大きな音圧で理解度が上がる場合は、補聴器による音圧増幅により言葉の理解度が上がることが期待できるため、補聴器をおすすめしています。逆に、軽度の難聴があっても、語音聴力検査で問題ない場合はおすすめしないこともあります。あとは、前提として本当に内耳の機能障害による難聴かどうかを確認する必要もあります。メニエール病や脳梗塞、脳腫瘍など別の原因がある場合、補聴器を装用しても聞こえにくさが改善されない場合もあるからです。
編集部
補聴器を装用しても聞こえにくさが改善されない場合もあるのですね。
丹羽先生
そうですね。脳腫瘍や脳梗塞など、内耳よりさらに中枢側の障害の場合は音をいくら入れても言葉の理解にはつながらないことがほとんどです。通常の純音聴力検査や語音聴力検査を正確に実施できれば、ある程度予想はつけられますし、中枢の病変が疑われる場合は画像検査や脳波検査を実施すれば原因が判明することがあります。末梢性の難聴(中枢性ではない難聴)で、語音聴力検査の結果が悪い人も、補聴器装用による効果が出にくい傾向にあります。
編集部
そうした場合の対処法は?
丹羽先生
末梢性の難聴の人は、適切な聴覚リハビリテーションの指導をおこなうことでかなりの方が改善します。しかし、リハビリですから本人は苦痛を伴うこともあるので、本人の意欲が非常に重要となります。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
丹羽先生
難聴を主訴に受診される場合は、ご家族との受診をおすすめします。「家族が病院に行って来いと言うから来た」という場合には、本人だけに検査結果を説明するなどして対応しますが、ご家族と一緒の方が、ご家族に対するアドバイスができたり、補聴器の装用がスムーズにいったりなど、結果的にうまくいくことが多い傾向にあります。また、じつは補聴器は眼鏡屋さんなどでも購入できますが、きちんとした聴覚検査設備のある耳鼻科で、「補聴器相談医」「補聴器適合判定医」の資格のある先生を受診してください。当院にも、お店で購入した補聴器を持参されて「合わないので何とかしてほしい」という患者さんがよく来られます。安いものではないので、最初からお店ではなく医療機関で作った方がご自身に合ったものができると思いますので、まずは耳鼻科を受診しましょう。
編集部まとめ
補聴器が必要・不要の判断基準について解説していただきました。聴力の低下は放置せず、早めに対応することが大切とのことでした。補聴器の導入は生活の質を向上させるために重要な選択肢なので、作った後も必要に応じて調整や聴覚リハビリをおこないましょう。また、補聴器は医療機器であるため、装用する際は専門の医療機関に相談して、自分に合った最適なものを作ってもらいましょう。
医院情報
所在地 | 〒359-1106 埼玉県所沢市東狭山ヶ丘1-3-1 ソレイユ狭山ヶ丘103 |
アクセス | 西武鉄道「狭山ヶ丘駅」 徒歩1分 |
診療科目 | 耳鼻咽喉科 アレルギー科 |