首や手の痛み・しびれがある人に朗報 新しい「頚椎人工椎間板置換術」はどんな治療?
頚椎椎間板ヘルニアなどの治療で用いられる、頚椎人工椎間板置換術。日本では比較的新しい治療法ですが、海外ではすでに長い歴史を持っており、研究データを見ると良好な成績が報告されています。頚椎人工椎間板置換術とは一体どのような手術なのか、品川志匠会病院の新村先生に教えてもらいました。
監修医師:
新村 学(品川志匠会病院)
頚椎人工椎間板置換術とは?
編集部
頚椎人工椎間板置換術とはなんですか?
新村先生
簡単にいうと、変性した頚椎の椎間板の代わりに人工の椎間板インプラントを埋め込んで、機能の回復をはかる手術のことをいいます。
編集部
どのような疾患に対して適応になるのですか?
新村先生
代表的なものに、頚椎椎間板ヘルニアがあります。これは加齢などが原因で頚椎の椎間板が劣化し、外側に亀裂が入って、中にある髄核が飛び出したもの。髄核が神経を圧迫することで痛みやしびれなどの症状を引き起こす疾患です。
編集部
その手術として、頚椎人工椎間板置換術が用いられることがあるのですね?
新村先生
はい。頚椎人工椎間板置換術では、神経の圧迫を取り除いたあと、人工の椎間板インプラントを設置します。これにより症状が軽減され、また、椎間の可動性も確保されます。
編集部
頚椎椎間板ヘルニアのほか、頚椎人工椎間板置換術はどのような疾患に対して用いられるのでしょうか?
新村先生
そのほかには頚椎症性神経根症の治療にも適応になります。これは、頚椎の変性により神経障害を伴う疾患です。
頚椎人工椎間板置換術の特徴やメリット
編集部
頚椎人工椎間板置換術には、どのようなメリットがあるのですか?
新村先生
まず、「可動性を保持するインプラントを使用できる」というのがメリットになります。従来、頚椎椎間板ヘルニアに対する手術としては、前方固定術というものが一般的でした。これは仰向けの状態で首の前側から切開し、神経を圧迫している椎間板の一部を取り除く手術です。除圧したのち、ケージなどの人工物(インプラント)を挿入して留置します。
編集部
その方法では、可動性の保持が難しいのですか?
新村先生
はい。従来の前方固定術では首の可動性に制限がありました。また、隣接している椎間にも負荷がかかることにより、将来的に、ほかの椎間にも変性が見られることがあり、手術が必要になるケースも少なくありませんでした。しかし、頚椎人工椎間板置換術では、置換した人工椎間板に可動性があるため、首の可動性を広く確保することができるのがメリット。さらに、隣接椎間への影響も少ないというのも特徴です。
編集部
従来の前方固定術に比べて首の可動性が保たれるということと、隣接する椎間への影響が少ないということが、頚椎人工椎間板置換術のメリットなのですね。
新村先生
はい。日本ではまだ歴史の浅い術式ですが、海外ではすでに多くの臨床実績があり、患者の満足度や症状の改善、合併症の有無などにおいて、良好な成績を収めています。
編集部
具体的に、どのようにして手術が行われるのですか?
新村先生
手術は仰向けの状態で行います。まず首を4cm程度切開したあと、変性している椎間板を切除して神経の圧迫を解除します。首の前方には重要な神経や気管、頚動脈、食道などが通っているため、このとき高度な手技が求められます。その後、空いたスペースに人工椎間板インプラントを設置します。
頚椎人工椎間板置換術を受ける際の注意点
編集部
頚椎人工椎間板置換術は、誰でも受けることができるのでしょうか?
新村先生
いいえ。神経の圧迫が起きている位置や、頚椎の変形の程度などによって、なかには適応とならない患者さんもいます。症例によって異なるので、詳しくは医師に相談することをお勧めします。
編集部
頚椎椎間板ヘルニアの患者さんでも、受けられない人もいるのですね。
新村先生
はい。たとえば椎間板の変性が進んでおり、スペースが失われてしまっている方は難しい場合があります。また、もともと頚椎の可動性が少ない方も適応外となることがあります。そのほか、頚椎の不安定性が高い方は人工椎間板置換術ではなく、従来の前方固定術の方が適していることもあります。また、過去に頚椎の手術を受けたことがある方は、頚椎人工椎間板置換術を受けることができません。
編集部
そのほか、手術を考えるにあたって注意すべきことはありますか?
新村先生
日本ではまだ新しい手術のため、「どの医療機関でも行っているわけではない」ということにも注意が必要です。実施施設基準や実施医基準が定められており、その条件を満たした医療機関や医師でなければ手術をすることができません。もし手術を希望する場合には、医療機関の選択に注意する必要があります。
編集部
新しい手術ということですが、手術の成績が良いことは欧米で実証されているのですよね。
新村先生
はい。しかし、日本においては、まだ長期成績が出ておらず、術後10年や20年経過したあとの様子については、確認されていません。また、インプラントが生涯にわたって安全に使えるかどうかも、まだエビデンスがありません。確かに海外では優れた成績をおさめている術式ですが、手術を行うかどうか判断する際にはこれらの点についても慎重に検討する必要があると思います。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
新村先生
頚椎人工椎間板置換術は非常に優れた術式で、前方固定術のデメリットを克服するなど、今後症例数も多くなっていくことが見込まれています。その一方で、手術を行える医師や医療機関が限られているのが現状です。もしこの手術に興味がある場合には、医療機関のウェブサイトを確認したり、医師に直接尋ねたりしてみると良いでしょう。自分ではどうしても見つけられないという場合には、かかりつけ医に紹介してもらうのも良いかもしれません。
編集部まとめ
メリットがたくさんある頚椎人工椎間板置換術。まだ行っている医療機関はそれほど多くありませんが、興味がある場合にはぜひ検索してみてはいかがでしょうか。医療機関を選ぶ際には症例数や実績なども考慮すると良いでしょう。
医院情報
所在地 | 〒140-0001 東京都品川区北品川1丁目29-7 |
アクセス | 京急本線「北品川駅」 徒歩5分 |
診療科目 | 整形外科 |