増加する「適応障害」 予防・再発防止で企業に求められるメンタルヘルスケアとは?
適応障害は誰もがかかりうる、一般的な疾患です。そのため企業は、従業員が適応障害になったときにどのようなケアをすれば良いのか、あらかじめ考えておく必要があります。そこで、ペディ汐留こころとからだのクリニックの岩谷先生に、従業員が適応障害と診断されたとき、企業ができるメンタルヘルスケアについて教えてもらいました。
監修医師:
岩谷泰志(ペディ汐留こころとからだクリニック)
適応障害に悩む従業員が増えている
編集部
適応障害の患者数が増えていると聞きました。
岩谷先生
はい。近年適応障害の患者数が増加しており、それを原因に会社を休職する人の数も増えています。
編集部
適応障害はうつ病とは違うのですか?
岩谷先生
はい。ガイドラインでは適応障害とうつ病の診断基準は異なります。適応障害とは自分の置かれた環境にうまく適応することができず、病的な心理状態が生じることであり、症状としては抑うつが中心です。しかし、場所が変わると元気になったり、医師とは明るく話ができたりすることが、うつ病との相違点です。
編集部
適応障害は環境に適応できない、ということなのですね。
岩谷先生
はい。近年よく見られる心の病気には、新型うつ病や双極性障害などさまざまなものがありますが、それらと適応障害が異なるのは、「あきらかに適応しにくい環境が想定できる」ということです。たとえば同じ環境でも、「ほかの人は大丈夫なのに、自分だけが強いストレスを感じる」ということがあるでしょう。そのような場合には、環境が原因となって心身のトラブルを引き起こすことがあります。そのようなケースを適応障害といいます。
編集部
抑うつという症状はうつ病と同じでも、厳密には異なるのですね。
岩谷先生
はい。うつ病は生物学的変化ですが、適応障害は心理的原因で生じるものであって、違うものです。適応障害が憎悪するとうつ病や社会不安障害、依存症などさまざまな障害を合併・併存するようになるというのが最近の精神医学の一般的な理解の仕方です。
編集部
どのようなことが原因で発症するのですか?
岩谷先生
研究により、興味深いことがわかっています。諸外国では、夫婦間の問題や新たな環境への転居、経済問題が適応障害の原因となることが多いのですが、日本では職場の業務や対人関係が原因となって発症することが多いのです。そのため職場に不適応となって出社拒否にいたる人が少なくありません。
編集部
企業が原因になることが多いのですね。
岩谷先生
はい。そのため企業は従業員に対し、適応障害などの発症を予防するためのメンタルヘルスケアを行うことが求められています。
企業に求められる、従業員へのメンタルヘルスケアとは
編集部
企業がメンタルヘルスケアを行うことの意義を教えてください。
岩谷先生
メンタルヘルスの問題があると仕事の効率が悪くなったり、注意力が散漫になったりして、生産性の低下や事故につながることがあります。さらに従業員が休職したり、離職したりすれば、人材の損失にもつながります。つまりメンタルヘルスの不調は単に個人の話ではなく、企業全体にも大きな影響を及ぼすのです。
編集部
メンタルヘルスの不調は個人の問題だけではなく、企業の問題でもあるということですね。
岩谷先生
そうです。従業員が自分で健康を管理することと、企業側や監督者側が従業員の健康を管理することの、2つの視点が必要です。
編集部
具体的に、企業はどのようなことを行えば良いのでしょうか?
岩谷先生
一般に、企業が行うべきメンタルヘルスケアは3つのステップがあります。1つ目が一次予防としてメンタルヘルスの不調を未然に防止する、2つ目が二次予防としてメンタルヘルスの不調を早期に発見し、適切な措置を行う、3つ目が三次予防としてメンタルヘルス不調で休職した従業員の職場復帰を支援する、ということです。
編集部
それぞれの段階に応じて進めることが必要なのですね。
岩谷先生
はい。メンタルヘルスケアの対象となるのはすでにメンタルヘルスが障害されている人だけでなく、勤務はしているけれど過剰なストレスがかかっている人や精神疾患の一歩手前という人も含まれています。さらに、いま健康に働いている人でも、いつかメンタルヘルスの問題が生じるかもしれません。厚生労働省は、メンタルヘルスケアの対象をすべての従業員としており、それぞれの状態に合ったケアをするために、段階を追って対策を進め、とりこぼしのないようにすることが必要です。
メンタルヘルスケアの3ステップ
編集部
3ステップの内容を簡単に教えてください。
岩谷先生
一次予防ではメンタルヘルス不調を未然に予防することを目的に、職場環境の改善や従業員が自分自身で行うストレス緩和ケアを行います。二次予防では、従業員のための相談窓口を設置したり、産業医との相談の機会を設けたりします。三次予防はメンタルヘルス不調で休職した従業員への職場復帰をサポートします。安心して職場復帰できるように精神面でフォローしたり、業務量を調整したりするほか、専門家による職場復帰支援プログラムの実施などが挙げられます。
編集部
特に適応障害の従業員に対しては、どのような取り組みが必要でしょうか?
岩谷先生
適応障害は自分の置かれた環境に適応することができずに発症します。そのため、個人の環境に問題がないか、必要に応じて配置転換をしたり業務内容を配慮したりするほか、人間関係や職場の文化・風土などを改善することも必要です。
編集部
適応障害を再発させないためにはどのようなことに注意が必要でしょうか?
岩谷先生
大切なのは復職のタイミングです。休職しているときは早く職場復帰しなければいけないと、焦りが出るかもしれませんが、再発をしないためにも担当医師の意見も考慮しながら、ゆとりを持って復職することが必要です。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
岩谷先生
個人の特性によって、同じ環境にあっても適応障害になる人とならない人がいます。適応障害を発症しないためには、まず、自分がどういう性格か、能力適性があるのかなどを自覚することが重要です。ほかの人にとってはなんてことのない環境でも、自分にとっては大事に感じられることもありますし、心身の調子が悪くなって適応障害にならないとは限りません。もし自力で自分の適性を知ることが難しい場合には、産業医や精神科医などの手助けを借りながら、自分に対して理解を深めるのも良いと思います。
編集部まとめ
近年、適応障害の患者数が増加しています。そんななか、企業と社員の両方にメンタルヘルスをケアすることが求められています。企業だけでなく、社員一人ひとりが自分をよく理解し、健康なメンタルを維持する姿勢が大事。困ったことがあれば早めに医師に相談し、適応障害の予防に努めることも必要です。
医院情報
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診療科目 | 精神科、心療内科 |