糖尿病を放置すると“足を切断する”可能性も…「三大合併症」について医師が解説
糖尿病は自覚症状がないために、血糖値が徐々に高くなっても気づかずどんどん進行してしまいます。気づいた時には、「合併症を引き起こしている」ということも少なくありません。しかし、糖尿病はなぜ合併症を引き起こすのでしょうか。どのような合併症があるのかも気になるところです。今回は、糖尿病を楽しく知るメディア「あおいろサークル」代表の中尾先生に、糖尿病で問題となる「三大合併症」について、詳しく教えていただきました。
監修医師:
中尾 裕(医師)
目次 -INDEX-
糖尿病の三大合併症とは
編集部
はじめに、糖尿病で血糖値が上がると何が起こるのか教えてください。
中尾先生
糖尿病で血糖値が高くなったとしても、すぐに何かが起こるわけではありません。しかし、血糖値が高い状態が数年〜数十年単位で続いてしまうと、それによってさまざまな健康障害が出るようになります。高血糖によって起こるこれらの健康障害を「合併症」といい、これを予防するために糖尿病の治療をする必要があります。
編集部
合併症にはどのような種類があるのでしょうか?
中尾先生
糖尿病の合併症は多岐にわたりますが、主に血管にダメージが蓄積することが知られています。糖尿病に特徴的なのは細い血管に起こる「細小血管障害」で、これは3つの臓器で起こしやすいことから「三大合併症」として有名です。ほかにも、動脈硬化によって太い血管に生じる「大血管障害」も知られていますが、こちらは高血圧や脂質異常症でも発症・進行することがあります。
編集部
三大合併症はどんな臓器で起こすのでしょうか?
中尾先生
三大合併症は、起こす臓器の頭文字をとって「し・め・じ」と覚えることが多いですね。それぞれ「神経」「目」「腎臓」で、正式な名称で言えば「糖尿病性神経障害」「糖尿病網膜症」「糖尿病性腎症」です。合併症が出現する順番も「し・め・じ」の順に早く起こると言われています。
糖尿病の三大合併症①「糖尿病性神経障害」
編集部
糖尿病性神経障害とはどんな合併症ですか?
中尾先生
糖尿病性神経障害は、大きく分けて「末梢神経障害」と「自律神経障害」に分かれます。「末梢神経」は手先や足先などを走る細い神経で、「自律神経」は内臓のはたらきを24時間調節してくれている神経ですね。糖尿病の末梢神経障害では、感覚の異常を起こすことが多いと言われています。具体的には手先や足先のビリビリとした痺れ・痛みや、手袋や靴下を履いているような感覚の鈍さなどがあります。痛覚も鈍るため、怪我や火傷をしたことに気づかなくなることもあります。
編集部
怪我や火傷に気づけないとどうなりますか?
中尾先生
怪我や火傷をしたことに気づけないと、消毒したり絆創膏を貼ったりといった適切な処置がなされず、傷口が不衛生なまま放置されてしまいます。特に足の裏は、自分からは見えない上に、普段から不衛生な環境にさらされていますからね。傷口から細菌が侵入して繁殖してしまうと、ひどい場合には足を切断しないと命が助からない状況に陥ってしまうこともあります。
編集部
おそろしいですね。末梢神経障害だけで足を切断しないといけなくなる方は多いのでしょうか?
中尾先生
足の切断まで至るケースは、末梢神経障害に加えて、動脈硬化で足の血流も悪くなっている方に多く起こります。足の血流が保たれていれば、傷を治すための成分や、侵入してきた細菌を倒す免疫細胞が傷口までちゃんと届くので、そこまで悪化せずに済むことが多いですね。怪我や火傷にいち早く気づいて、適切な処置をおこなうことが重要です。そのため、特に見逃しやすい足については、「日頃から傷ができていないか」「皮膚の異常はないか」などをチェックすること(フットケア)を意識しましょう。
編集部
なるほど。もう一つの自律神経障害ではどのような症状が出ますか?
中尾先生
自律神経障害では内臓のはたらきが悪くなってしまいます。たとえば心臓や血管の動きの調節が悪くなると、立ち上がったときに充分な血液を脳まで送ることができず、起立性低血圧(いわゆる「立ちくらみ」)が起こります。ほかにも、胃や腸の動きが悪くなれば食欲不振や便秘・下痢を起こしたり、膀胱の動きが悪くなれば尿からの感染症を起こしやすくなったりします。男性であれば勃起不全も糖尿病の自律神経障害の代表的な症状の一つです。
糖尿病の三大合併症②「糖尿病網膜症」
編集部
続いて、糖尿病網膜症について教えてください。
中尾先生
目の裏側には、光や色を感じ取る神経細胞が並んでいる「網膜」という膜があります。そこにも、細い血管が酸素や栄養を送り届けていますが、その細い血管に問題を起こしてしまうのが網膜症です。初期であれば、血液が漏れて小さな血だまりを作ったり、血液中の成分が網膜に付着したりします。進行してくると、血管が詰まって部分的に酸素が行き渡らない領域が生まれます。さらに進行すると、目の内側で大きな出血(硝子体出血)を起こしたり、網膜剥離を起こしたりすることがあります。
編集部
網膜症ではどのような症状が出るのでしょうか?
中尾先生
最終段階に来ると、硝子体出血や網膜剥離によって、ある日突然視力が大幅に低下することがあります。しかし、それまでは無症状のことが多いですね。成人が失明する原因となる病気として、糖尿病は常に上位に入っています。
編集部
直前まで無症状なのは怖いですね。網膜症を予防する手段はあるのでしょうか。
中尾先生
「進行させない」という意味では、どの合併症も血糖管理が重要なのは言うまでもありません。特に網膜症について言えるのは、糖尿病がある方は全員、症状がなくても必ず定期的に眼科を受診することが重要です。
糖尿病の三大合併症③「糖尿病性腎症」
編集部
最後は糖尿病性腎症についてお願いします。
中尾先生
腎臓は、体内にたまった毒素や老廃物を、「尿」という形で外に出してくれる臓器です。ここにも細い血管がたくさん使われているため、高血糖で細い血管に問題が生じると、毒素や老廃物を外に出せなくなったり、身体に必要な成分まで一緒に外に出してしまったりします。
編集部
何か特徴的な症状はあるのでしょうか?
中尾先生
かなり進行してこない限り、はっきりとした症状は出ません。かなり進行して腎臓が働けなくなり、命に危険が及ぶくらい毒素や老廃物がたまるようになってしまうと、「透析」という処置が必要になります。
編集部
透析とはどんな処置ですか?
中尾先生
一般的な「血液透析」の話をすると、血液を機械に通して、腎臓の代わりに毒素・老廃物を除去してもらう処置になります。これを週3回、1回4〜5時間かけておこないます。
編集部
大変な処置ですね。腎症が進行しているかはどうやって把握するのですか?
中尾先生
病院の検査で把握することになります。典型的な進行のパターンとしては、まず尿検査でタンパクが出るようになり、進行してくると血液検査で腎臓のはたらきを示す値(eGFR)が徐々に低下していきます。
合併症を進行させないためにできること
編集部
最後に、これらの合併症から身を守るために大事なことを教えてください。
中尾先生
- 合併症を進めさせないこと
- 進行したとしても深刻な事態が起こるのを防ぐこと
の2点が重要です。
編集部
合併症を進めさせないためにはどうすれば良いのですか?
中尾先生
今回紹介した三大合併症は、いずれも血糖値が高い状態が長期間続いた場合に起こるものです。つまり、進行させないためには「血糖管理を心がけること」に尽きます。特に腎臓に関して言えば、高血圧も腎機能を悪化させてしまう要因になるため、血圧管理も重要になります。私はいつも患者さん達にご家庭で血圧測定をしていただき、必要に応じて血圧の治療もおこなっています。
編集部
深刻な事態が起こるのを防ぐ方法についても教えてください。
中尾先生
すでに紹介していますが、足の切断に至らないように日頃からフットケアをすること、硝子体出血を起こさないように定期的に眼科を受診することが重要です。
編集部
最後に読者へメッセージをお願いします。
中尾先生
糖尿病の治療をしていると、血糖値ばかりに目が行きがちです。しかし、血糖管理はあくまで手段であって、糖尿病治療の真の目的は「合併症から身を守ること」。今回紹介したフットケアや眼科通院、家庭血圧の記録などは、ご自身でもできる合併症対策です。合併症から身を守るための習慣も身につけるようにしましょう。
編集部まとめ
糖尿病の三大合併症とその対策について解説していただきました。高血糖が長期間続くと神経・網膜・腎臓が侵され、ひどくなるとそれぞれ足の切断や失明、透析につながってしまうとのことです。進行を抑えるための血糖管理はもちろんのこと、フットケアや眼科通院、血圧の記録など、ご自身でできる合併症対策も意識するようにしましょう。