「風邪に“葛根湯”」はリスク!? 漢方薬を服用する際の注意点を医師が解説!
自然由来の成分を使った生薬からできていて、様々な症状や体調不良に効果がある「漢方薬」。しかし、自分で漢方薬を選んで飲むのは、本当に安全なのでしょうか。今回は、漢方薬のセルフメディケーションがもたらす健康へのリスクについて、「なのはな耳鼻咽喉科」の境先生に解説していただきました。
監修医師:
境 修平(なのはな耳鼻咽喉科)
漢方薬の効果
編集部
まず、漢方薬について教えてください。
境先生
普段、みなさん病院で処方される多くの薬は西洋医学に基づいた、いわゆる「西洋薬」です。その一方で、自然界に存在する植物や動物、鉱物などの薬効となる部分を「生薬(しょうやく)」と言い、この生薬を基本的に2つ以上組み合わせて作られた薬を漢方薬と呼んでいます。
編集部
漢方薬は病院では処方されないのですか?
境先生
そんなことはありません。およそ130種類以上のエキス剤が処方可能で、漢方薬局で処方される煎じ薬とは違い保険適用です。
編集部
漢方薬には、どのようなメリットがあるのでしょうか?
境先生
西洋薬は病気の原因となる物質(例:アレルギー性鼻炎ならヒスタミン)を同定して、それをブロックする、または補充するという薬です。一方で漢方薬は、患者さん自体の調子を整えることに重きをおいている薬です。個人的な見解ですが、西洋医学的に診断がつかなくても漢方的には診断がついて治療が可能となることがあるので、それが最大のメリットだと感じています。
漢方薬はどのような疾患に有効?
編集部
どんなときに漢方薬が使われるのでしょうか?
境先生
- めまい、耳鳴などの難治性疾患
- 治りづらい滲出性中耳炎、慢性副鼻腔炎(蓄膿症)、アレルギー性鼻炎
- 喉の違和感、逆流性食道炎、長引く咳
編集部
ほかにも、漢方薬が有効な症状はありますか?
境先生
耳鼻咽喉科疾患以外にも、「疲れやすい」「体が冷える」といった、西洋医学では治療が難しい症候にも有効です。また、「不眠」や「更年期障害」などにも効果があるとされています。
編集部
幅広い症状に効果があるのですね。
境先生
そうですね。さらに「この症状にはこの漢方薬」というだけでなく、原因となる体の状態や体質によって最適な薬を処方することができる点も漢方薬の特徴です。
漢方薬は副作用もなく安心!? セルフメディケーションの注意点
編集部
少し漢方薬が身近に感じてきました。
境先生
そうですね。元々は自然由来のものなので、難しく考えずに上手く利用していただけたらと思います。
編集部
薬局やドラッグストアなどで買える漢方薬もありますよね。
境先生
はい。ただし、可能な限り薬剤師さんなどのアドバイスや説明をきちんと聞いた上で購入することをおすすめします。漢方薬は副作用が少ないものの、もちろんゼロではありません。ご自身の体質とは合わないものを服用してしまうと、場合によっては体調が悪くなることもあります。やはり、医療機関で処方してもらった漢方薬を服用するのがベストだと思います。
編集部
漢方薬は自分で入手するより、医師に処方してもらった方が安心なのですね。
境先生
ここ数年で「セルフメディケーション」という言葉が一般的になっている印象です。例えば、「痩せたいなら“防風通聖散”」といった情報も目にします。たしかに、防風通聖散には代謝を上げたり、便通を改善したりする効果のある生薬が用いられていますが、全ての人にこの効果が期待できるわけではありません。「痩せた」と謳っている研究でも実際には、重度のメタボリックシンドロームの人が漢方薬と食事療法・運動療法などを組み合わせてアプローチした結果、効果が出たというだけです。
編集部
全ての人に同じ効果があるわけではないということですね。
境先生
そのとおりです。「咳が出ているから“麦門冬湯”」という説も同様です。麦門冬湯は乾いた咳、痰のない咳に対して使われる漢方薬で、粘膜を潤すような生薬が使われているので、痰のある咳には逆効果となります。
編集部
ほかにも、漢方薬で誤解しやすい説はありますか?
境先生
「風邪には“葛根湯”」も有名ですが、飲む人の体質に加えて、飲むタイミングも重要です。症状が出た際、できるだけ早く飲まないと、葛根湯の効果は期待できません。総じて、患者さんご自身が体質や症状、時期を見極めて、どの漢方薬が効くかを判断するのはかなり難しいと思うので、ご自身で判断せず、お近くの漢方専門医に相談することをおすすめします。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
境先生
漢方薬は西洋薬とは違い、「この病気には、この漢方薬」という考え方ではありません。誤った使い方をすると、逆に病状を悪化させることもあるため、そういった意味では服用が難しい薬かもしれませんが、正しく使えば効果が出ます。こうした特徴を理解した上で、漢方薬も上手に活用していただきたいと思います。
編集部まとめ
漢方薬の使い方や誤解しやすい考え方などについて解説していただきました。漢方薬のセルフメディケーションは、自然由来なので安全と思われがちですが、適切な知識と医師の指導がないと健康リスクの可能性があるとのことでした。自己判断での漢方薬の使用は避け、必ず専門家や医師のアドバイスを受けましょう。
医院情報
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診療科目 | 耳鼻咽喉科 |