食べ物が飲み込みづらい…「嚥下障害」の原因はご存じですか? 症状や受診の目安も医師が解説!
食事をしているとき、なんとなく「飲み込みづらい」「むせる」ということはありませんか? もしかしたら、「嚥下障害」が起きているのかもしれません。高齢者において特に大きな問題となっている嚥下障害の原因や症状、受診の目安などについて「とだ小林医院」の小林先生に教えていただきました。
監修医師:
小林 隆之(とだ小林医院)
目次 -INDEX-
嚥下障害とは?
編集部
食べ物が飲み込みづらいと感じるときがあります。何か問題があるのでしょうか?
小林先生
もしかすると、嚥下障害が起きているのかもしれません。嚥下とは、食べ物や飲み物を飲み込んで食道から胃へ送る一連の動作のことで、この過程のどこかで障害が起きているのが嚥下障害です。
編集部
そもそも、どのような仕組みで食べ物などを飲み込むのですか?
小林先生
- 先行期(認知期) 目で見て食べ物を認識する
- 準備期(咀嚼期) 食べ物を口腔内に入れる
- 口腔期 歯と舌で食べ物を咽頭へ送る
- 咽頭期 咽頭から食道へ送る
- 食道期 食道から胃へ送り込まれる
なんらかの原因により、これらのプロセスのどこかで問題が生じることを嚥下障害と言います。
編集部
嚥下障害になると、どのような症状がみられるのですか?
小林先生
例えば、「喉や胸がつかえる感じがする」「飲み込みにくく感じる」「食べたり飲んだりしたときにむせる」といった症状が代表的です。また、「食事に時間がかかる」「食事に疲れる」といった症状がみられることもあります。
編集部
様々なトラブルがあるのですね。
小林先生
人間は通常、1日に500~1000回程度、嚥下をするとされています。嚥下は意識しないでもおこなわれる反射的な行動で、脳がその働きを司っています。しかし、なんらかの原因により嚥下のプロセスで障害が起きることがあるのです。
嚥下障害が起きる原因
編集部
なぜ、嚥下障害が起きるのですか?
小林先生
原因の1つとして、加齢が考えられます。加齢とともに、次第に咽頭の位置が下がってきます。通常、嚥下するときには咽頭の位置が持ち上がり、咽頭の入り口が閉じて食べ物が気道へ入るのを防ぎます。しかし、高齢者の場合は咽頭が下がってくるため、飲食物の一部や口腔内の細菌などが気道へ入り込んでしまいます。この状態を「誤嚥」と言います。
編集部
誤嚥について、もう少し詳しく教えてください。
小林先生
誤嚥をすると、細菌が唾液や食べ物と一緒に気管や肺に入り、誤嚥性肺炎を起こすことがあります。誤嚥性肺炎を発症するのは脳梗塞や脳出血などの脳血管障害の患者さんが多いほか、パーキンソン病やアルツハイマー病などの疾患も原因になり得ます。また、誤嚥性肺炎は口の中にいる細菌が原因となることもあり、口腔内が清潔に保たれていない人は発症リスクが高まります。
編集部
誤嚥性肺炎が起きると、どのような症状がみられるのですか?
小林先生
典型的なのは、発熱、せき、痰などの症状です。そのほか、高齢者の場合には、元気がない、ぼんやりしている、食欲不振といった症状がみられることもあります。また、栄養状態が良くないことや免疫機能が低下していることも、誤嚥性肺炎の発症と深い関わりがあることがわかっています。特に高齢者の場合、誤嚥性肺炎が原因で亡くなることも少なくありません。
編集部
そのほか、嚥下障害を招くリスクにはどのようなものがありますか?
小林先生
加齢や脳血管障害のほかにも、喉や食道の粘膜に炎症が起きている咽頭炎、逆流性食道炎、食道潰瘍などの疾患、喉や食道の腫瘍や異物が原因となって、嚥下障害を引き起こすこともあります。そのため、「飲み込みづらい」「むせる」などの症状を自覚している場合には、早めに医療機関を受診することが必要です。
受診の目安は?
編集部
どのような症状がみられたら、受診すればいいのでしょうか?
小林先生
「水を飲んでいるときにむせやすい」「食事が喉につかえる」「食事に時間がかかる」といった症状があれば、まずはお近くのクリニックで相談しましょう。特に高齢者の症状を放置するのは危険であり、嚥下障害が起きると食事に時間がかかるため、食べることに疲れてしまい、食事量の減少につながります。体重も減り、要介護状態の前段階である「フレイル」に陥ってしまうリスクがあります。
編集部
医療機関ではどのような治療をおこなうのですか?
小林先生
まずは、嚥下障害の原因の改善を目指します。また、嚥下機能を改善させる訓練、STによる摂食・嚥下リハビリもおこないます。STとは言語療法士や言語治療士とも呼ばれる職業で、言語障害、聴覚障害、それから嚥下障害を対象にリハビリなどを指導します。
編集部
嚥下障害に対するリハビリとは、どのようなものですか?
小林先生
大きく分けると、食べものを用いない間接訓練(基礎訓練)と、実際に食べものを使った直接訓練(接触訓練)があります。間接訓練は、実際に食べ物を使用しない安全性の高い訓練です。肩や首などのストレッチをしたり、アイスマッサージで口腔内を刺激したりして嚥下に必要な筋肉や器官の運動性を向上させます。直接訓練では、リハビリを受ける人の好みに応じて食品の形状や柔らかさを調整したり、複数回に分けて食べたりすることで、摂食機能を高めていきます。
編集部
普段の生活を送るうえでの注意点はありますか?
小林先生
日常生活で重要なのは、嚥下障害を起こさないために食事の形態を見直すことです。「食べやすいように細かく刻む」「温かいものは温かく、冷たいものは冷たくして飲食する」「適度に辛いものを食べる」「美味しく食べる」といったことも、嚥下をスムーズにするのに役立ちます。
編集部
食事に気をつけることでも改善が期待できるのですね。
小林先生
はい。それから、誤嚥性肺炎を予防するためにも、口腔内を清潔に保つことを意識しましょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
小林先生
年齢とともに嚥下機能は低下し、食事の際にむせることがあります。例えば高齢者の場合、お正月のお餅による窒息は、気をつけなければいけませんよね。しかし、年齢による単純な嚥下機能の低下だけではなく、脳卒中や飲み込みに関連する部位の病気によって、嚥下機能が低下することもあります。嚥下機能の低下でお困りの際には、お近くの医療機関に相談してください。嚥下機能が低下した場合には、食事内容の見直しや口腔ケアなどをおこない、誤嚥性肺炎の予防につとめましょう。
編集部まとめ
誤嚥性肺炎で亡くなる高齢者のニュースを耳にすることもありますが、高齢者だけでなく、若い人にも起きることがあります。特に加齢を原因としていない場合は、何らかの疾患が隠れているかもしれません。念のため、医師の診察を受けるようにしましょう。
医院情報
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診療科目 | 内科、呼吸器内科、整形外科、リハビリテーション科 |