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「時間栄養学」とは? 生体のリズムを食生活でコントロールする方法について解説

 公開日:2024/05/26
「時間栄養学」とは? 生体のリズムを食生活でコントロールする方法について解説

健康を維持するために、野菜を食べる、糖質制限をする、食べすぎない、といった点を意識している方は少なくないと思います。しかし、最近はそのような食事の内容や量だけでなく、「いつ食べるか」といった食事のタイミングによって体への影響が変わってくることに注目が集まっています。食べるタイミングが違うだけで、太りやすかったり、病気のきっかけにもなったりする場合があるようです。そこで今回は、昨今注目されている「時間栄養学」という新しい考え方について、専門家の田原先生・市川先生を取材しました。

田原 優さん

著者
田原 優(広島大学大学院 医系科学研究科公衆衛生学 准教授)

プロフィールをもっと見る
早稲田大学にて博士(理学)取得。その後、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)留学などを経て現職。「食べるタイミング」を考える時間栄養学をメインに、睡眠や運動など日常行動まで取り入れた時間健康科学研究を進めている。著書に「Q&Aですらすらわかる体内時計応用法(杏林書院,編著,2022)」「体を整えるすごい時間割(大和書房,2019)」などがある。
市川 知美さん

共著者
市川 知美(広島女学院大学人間生活学部管理栄養学科 教授)

プロフィールをもっと見る
管理栄養士。大学卒業後、病院の管理栄養士として勤務。県立広島女子大学(現・県立広島大学)大学院 修士(生活科学)取得。広島女学院大学 専任講師・准教授を経て2020年より現職。広島大学大学院 博士(口腔健康科学)取得。疾病予防の観点から、生活リズムおよび生活習慣、食事摂取に関する研究をおこなっている。

時間栄養学について知る

時間栄養学について知る

編集部編集部

はじめに、時間栄養学について教えてください。

田原 優先生田原先生

時間栄養学は、食べるタイミングを考える新しい研究分野です。これまでの栄養学では「なにを、どれだけ」食べるかについて研究が進んできましたが、「いつ」食べるかについてはあまり研究されていませんでした。しかし、「私たちは朝と夜で食べ方や食べる内容も異なり、その食べ方の違いが健康などに影響を与えている可能性がある」ということに着目し研究をしているのが時間栄養学です。

編集部編集部

時間栄養学に基づく食生活で重要な要素はなんですか?

市川 知美先生市川先生

一番は規則正しい食生活です。毎日、朝食・昼食・夕食をしっかりと食べることが重要です。朝食を食べなかったり、夜食を毎日食べてしまったりすることは避けるべきです。

編集部編集部

時間栄養学を知ることで得られるメリットはなんですか?

市川 知美先生市川先生

普段何気なく食べていた食事の内容やタイミングを考えることで、より効果的なダイエットを実践できたり、食後の高血糖を予防したりすることもでき、生活習慣病の予防につながるとされています。

生体リズムと体内時計とは?

生体リズムと体内時計とは?

編集部編集部

時間栄養学のなかでよく「生体リズム」という言葉を目にします。生体リズムについて教えてください。

田原 優先生田原先生

体の中には様々なリズム現象が見られます。例えば、心臓は常に拍動しリズムを刻んでいます。また、体温は朝から夕方にかけて上昇し、就寝と共に低下する日内リズムを示します。血圧や交感神経活動も同様に昼に高く、夜に低いリズムが見られます。これらをまとめて、「生体リズム」と呼びます。

編集部編集部

生体リズムと体内時計の関係について教えてください。

田原 優先生田原先生

1日の周期で変動する生体リズムを制御しているのが、「体内時計」で、専門的には「概日(がいじつ)時計」と呼びます。概日というのは、「約24時間」という意味で、体温や血圧だけでなく、毎日の睡眠・覚醒リズムも、体内時計がコントロールしています。

編集部編集部

体内時計はどのようにコントロールされているのですか?

田原 優先生田原先生

体内時計は、「時計遺伝子」を使って24時間のリズムを刻みます。時計遺伝子は細胞一つひとつで機能しているため、脳や肝臓、腎臓など、あらゆる組織に体内時計が存在しています。脳内の視床下部という場所には、中枢時計があり、体全体の体内時計の時刻を毎日調節する役割があります。

時間栄養学と体内時計の関係とは?

時間栄養学と体内時計の関係とは?

編集部編集部

時間栄養学と体内時計の関係について教えてください。

田原 優先生田原先生

時間栄養学には二つの考え方があります。一つは「体内時計を調節するための食事や栄養」です。体内時計を効果的に調節する朝食内容や、機能性食品の開発が考えられます。もう一つは「体内時計に合った食事、栄養の摂り方」です。例えば「夜食は太る」と昔からいうように、夜の時間帯は体内時計によって脂肪が溜まりやすい時間です。

編集部編集部

食事と体内時計にはどのような関係があるのでしょう?

市川 知美先生市川先生

「朝日を浴びて、朝ご飯を食べて、体内時計をリセットしよう」と昔から言われるように、体内時計は光や食事によって調節されます。特に、朝の光や朝食は、体内時計を早める(朝型化する)効果が期待できます。一方で、夜の光や夜食は、体内時計を遅らせてしまいます。人の体内時計は24時間より少し長く、遅れやすい性質をもっています。なので、朝起きてすぐにカーテンを開け、太陽の光を取り入れ、朝ご飯をしっかりと食べることが重要なのです。

編集部編集部

時間栄養学を知ることは生体リズムにどのような効果が期待できますか?

田原 優先生田原先生

食べるタイミングを考えることで、日々、体内時計を調節し、健康に保つことができます。体内時計の乱れは肥満や高血圧などの生活習慣病、睡眠障害、うつ病などの原因となります。時間栄養学で体内時計を健康に維持することで、ウェルビーイングな精神状態を保つこともできることでしょう。

編集部まとめ

時間栄養学は、「いつ・どんなタイミング」で食べるか、に着目した新しい学問です。概日リズムをコントロールしている体内時計と深く関係しており、食事のタイミングが健康に与える影響が明らかになってきているとのことでした。読者の皆さまも、「いつ」食べるかを考えてみることで、生活習慣病の予防や、健康的な生活を送る一助になるのではないでしょうか。

この記事の監修管理栄養士