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肩の痛みで腕が上がらない… 「四十肩・五十肩」の原因と治療法を医師が解説

 更新日:2024/05/16
肩の痛みで腕が上がらない「四十肩・五十肩」の原因と治療法を医師が解説

手が後ろに回らない、洋服を着替えるにも苦労するなど、さまざまな支障をもたらす肩の痛み。特に四十肩五十肩と呼ばれる症状は長引くことが多く、辛い痛みに悩んでいる人も多いのでは? そんな痛みをどう治療したら良いのか、オクノクリニック東京表参道の奥野先生に聞きました。

≫ 四十肩や五十肩を治すための「モヤモヤ血管」を減らす注射の治療風景

奥野 祐次

監修医師
奥野 祐次(オクノクリニック東京表参道)

プロフィールをもっと見る
2006年3月、慶應義塾大学医学部卒業。放射線科医として血管内治療に従事したのち、大学院にて「病的血管新生」の研究を行い、博士号を取得。その後、江戸川病院で運動器疾患に対する血管内治療を専門とし、2014年4月に運動器カテーテルセンター センター長に就任。2017年10月に横浜にてOKUNO CLINICを開院。オクノクリニックの総院長就任。現在東京を中心に全国10院を運営。年間30回以上の講演に登壇。治療の認知と普及、指導のために、さまざまなメディア出演、論文執筆などの活動を展開。ヨーロッパの学会(CIRSE2023)にてインターベンショナル・ラジオロジーの進歩へ貢献した医師に贈られるAward of Excellence and Innovation in IR 2023を受賞。

なぜ、肩の痛みが起きる? 腕が上がらないのはなぜ?

なぜ、肩の痛みが起きる? 腕が上がらないのはなぜ?

編集部編集部

肩の痛みに悩んでいる人は多いと思います。主な原因はなんですか?

奥野 祐次先生奥野先生

いろいろな原因が考えられますが、代表的なものは四十肩や五十肩です。名称は異なりますがどちらも同じ疾患で、一般的には40代で症状が出たら四十肩、50代で症状が出たら五十肩と呼ばれています。医学的には「肩関節周囲炎」といいます。

編集部編集部

それはどのような疾患ですか?

奥野 祐次先生奥野先生

特に骨折などの大きなきっかけがなく、急に肩の痛みが発生し、その後数週間から数ヶ月かけて緩徐に、あるいは急速に痛みが増していくという特徴があります。場合によっては痛みのために眠れないこともありますし、重症の場合には1年半~3年程度痛みが持続することがあります。

編集部編集部

どのような症状が出現するのですか?

奥野 祐次先生奥野先生

はじめは「肩に違和感がある」という程度ですが、その後「少し動かすだけで痛い」「安静にしていても痛みが出る」といった症状が出現します。そのほか、以下のような症状が見られます。

  • 手が後ろに回らない
  • つり革が持てない
  • 夜にジンジンと痛む
  • 反対の脇の下に手が届かない
  • 服を着替えるのが一苦労
  • 夜、痛みで目が覚める
  • 腕のほうもしびれる、痛みが走る

など

四十肩や五十肩の原因は? 肩関節に炎症が起きているとはどういうこと?

四十肩や五十肩の原因は? 肩関節に炎症が起きているとはどういうこと?

編集部編集部

四十肩や五十肩はなぜ、発症するのですか?

奥野 祐次先生奥野先生

四十肩や五十肩の原因は、肩の炎症です。しかしなぜ、これほど強い炎症が発生するのかについてはまだ解明されていません。ただ、転んで手をついたなど、ちょっとした小さな負担や軽微な外傷がきっかけとなり、しばらくしてから四十肩や五十肩を発症することが多いとされています。

編集部編集部

「肩関節に炎症が起きている」とはどういうことですか?

奥野 祐次先生奥野先生

造影剤を使ったMRIの研究によると、五十肩の患者さんのほぼ100%の方には、肩関節の前方にある腱板疎部(けんばんそぶ)という部分に炎症が起きていることがわかっています。そして、この炎症部分には「異常な血管」が増えています。つまり、この「異常な血管」が痛みの原因であり、痛みを取り除くにはこの血管を減らすことが必要です。

編集部編集部

なぜ、異常な血管があると痛みが生じるのですか?

奥野 祐次先生奥野先生

人間の身体には、「血管と神経が一緒に伸びる」というルールがあり、このルールは「血管と神経のワイヤリング」と呼ばれています。つまり血管が増えているところは神経も一緒に増えており、余計に増えてしまった神経から痛みの信号が脳へ送られるため、症状が出現するのです。

編集部編集部

なぜ、異常な血管ができるのですか?

奥野 祐次先生奥野先生

本来人間の体内では正常な血管がバランスよく配置されています。しかし、ケガなどが原因となって炎症が起きると、その炎症を治癒しようとして血液を送り込むため、余分な血管が作られてしまいます。通常は2週間ほどで血管は減っていきますが、まれにその血管が残ってしまうことがあります。これが「異常な血管」です。異常な血管は栄養を運ばず、それどころか正常な血液の流れから栄養を奪ってしまいます。こうして異常な血管がどんどん作られ、痛みが増幅していくのです。

編集部編集部

通常だと、異常な血管は減っていくのですね。

奥野 祐次先生奥野先生

そうです。しかし、50代に近くなると異常な血管を減らす能力が少なくなって、増える一方になります。そのため、その年代になると痛みが出やすくなるのです。

編集部編集部

痛みが出る仕組みはよくわかりました。一方、四十肩や五十肩になると肩の動きが悪くなるのはなぜですか?

奥野 祐次先生奥野先生

異常な血管からは線維がもれて、周囲に溜まりやすく、普通なら柔らかくて伸びのある関節の袋が硬くなってしまいます。四十肩や五十肩になると肩の動きが悪くなるのはそのためです。

四十肩や五十肩を治すにはどうすればいい? 治療方法を解説

四十肩や五十肩を治すにはどうすればいい? 治療方法を解説

編集部編集部

四十肩や五十肩を治すにはどうしたら良いのですか?

奥野 祐次先生奥野先生

一般的に異常な血管は構造がぐちゃぐちゃしていることからモヤモヤ血管と言われていて、治療するにはこのモヤモヤ血管を減らすことが必要になります。具体的には「モヤモヤ血管を減らす注射」と「運動器カテーテル治療」があります。

編集部編集部

注射はどのようなものですか?

奥野 祐次先生奥野先生

モヤモヤ血管(異常な血管)を減らす作用のあるステロイドを、モヤモヤ血管ができている場所にピンポイントで注射することで、痛みの改善を目指します。ペインクリニックや整形外科でも神経ブロック注射やヒアルロン酸注射が行われていますが、それ以上に高い徐痛効果が期待できます。

編集部編集部

運動器カテーテル治療とは?

奥野 祐次先生奥野先生

簡単にいうと、カテーテルという医療用の細いチューブを手首や足の付け根から血管の中に挿入し、モヤモヤ血管に対して薬剤を注入することで、血管の内側からモヤモヤ血管を撃退する方法です。

編集部編集部

1度で効果が期待できるのですか?

奥野 祐次先生奥野先生

当院の例を挙げると、運動器カテーテル治療を行った場合、95%以上の方は一度の治療で満足いく結果が得られています。入院ではなく日帰り治療で、時間も40分から1時間程度なので、忙しい方でも気軽に受けられるというのもメリットです。

編集部編集部

運動器カテーテル治療は保険適用ですか?

奥野 祐次先生奥野先生

いいえ、ドイツやアメリカではすでに保険適用になっていますが、日本では残念ながらまだ保険が適用されていません。そのため現在では自由診療となりますが、近いうち、日本でも保険が適用になるのではないかとみられています。

編集部編集部

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

奥野 祐次先生奥野先生

四十肩や五十肩を治療する方法はなく、「放置するしかない」と考えている人も少なくないと思います。確かに以前はそのような考え方が一般的で、マッサージや整体などに通院して痛みを凌いでいる人も少なくありませんでした。しかし近年では研究が進み、有効な治療法が開発されています。特に、四十肩や五十肩は軽症例から重症例まで幅広く、数カ月や半年程度で自然と治ったという場合には軽症例に該当しますが、なかには痛みがおさまるまで2~3年程度かかる重症例の人もいます。専門の医療機関で治療を受ければ痛みを我慢することなく、根治することもできるので、もし痛みで悩んでいる場合には早めに専門医へご相談ください。

編集部まとめ

「四十肩や五十肩は治らない」というのは一昔前の常識となりつつあります。最新の医療技術を用いればこれらの痛みから解放されることができますし、そうなれば痛みのためにあきらめていたスポーツや活動などを自由に行うこともできます。痛みに悩んでいる人は専門医に相談してみることをおすすめします。

医院情報

オクノクリニック東京表参道

オクノクリニック東京表参道
所在地 〒107-0062 東京都港区南青山5-6-26 青山246ビル3F
アクセス 東京メトロ半蔵門線・銀座線・千代田線「表参道」駅より徒歩1分
診療科目 外科、放射線科、整形外科

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