【整形外科医に聞く】医学的に「肩こり」はどんな疾患かご存知ですか?
「肩こり」とは体感することはできても目に見える症状ではないため、体のなかでどんなことが起きているのかわからない、という人も多いと思います。医学的に肩こりとはどのように定義されるのでしょうか? 知っているようで知らない「肩こり」について、井出整形外科クリニックの井出先生に教えていただきました。
監修医師:
井出 学(井出整形外科クリニック)
肩こりの定義について整形外科医が解説!
編集部
肩こりとはどのように定義されますか?
井出先生
肩こりとは、首筋から肩甲部、背中などの筋肉に生じるこわばった感じや張り、不快感、痛み、重苦しい感じなどの総称のことをいいます。
編集部
そもそも肩こりとは病気なのですか?
井出先生
いえ、肩こり自体は病気のひとつではなく、症状とされています。医学的には、頸肩腕(けいけんわん)症候群、または頸肩腕(けいけんわん)障害と呼ばれます。ただし、何らかの病気の症状として肩こりが発生していることもあります。
編集部
肩こりを引き起こす疾患とはなんですか?
井出先生
たとえば、変形性頸椎症や頸椎椎間板ヘルニアなど整形外科的疾患が原因で起きることもありますし、高血圧症や狭心症などの内科的疾患で肩こりが起きる場合もあります。
編集部
肩こりの原因にはいろいろなものがあるのですね。
井出先生
そのほかにも、首や背中が緊張するような姿勢での長時間の作業や、日常的な猫背、運動不足なども肩こりの原因になります。また、ストレスや冷房の当たり過ぎも肩こりの原因として知られています。
編集部
運動不足でも肩こりが起きるのですね。
井出先生
はい、特に首から背中にかけて大きく広がっている僧帽筋の筋力が落ちると肩こりになりやすいことがわかっています。
肩こりはどうやって起こる? 肩こりのメカニズムを解説
編集部
では、具体的に肩こりになった時は肩で何が起きているのでしょうか?
井出先生
簡単にいえば血行が悪くなってしまっています。例えば首から肩にかけて緊張した姿勢を長時間続けると、首や肩周りの筋肉が緊張し、血行が悪くなってしまいます。すると筋肉の老廃物が蓄積して血管を圧迫し、痛みや筋肉の張りなどを引き起こすのです。
編集部
筋肉の緊張と血行不良が原因なのですね。
井出先生
特に肩周りの筋肉は、常に肩甲骨や腕を吊り下げているため日頃から負荷がかかりがちです。肩こりが生じると痛みに発展することもあり、そうなるとますます筋肉が緊張して血行不良を起こし、肩こりがひどくなるという悪循環を招くのです。
編集部
肩がこっているときに触るとゴリゴリするものがありますが、あれはなんですか?
井出先生
硬くなり、縮こまった筋肉がゴリゴリの正体。つまり、触ってゴリゴリと硬くなっている部分が感じられたら、筋肉が硬くなっている証拠であり、これが肩こりの原因と考えられます。
編集部
具体的に、肩こりにはどんな筋肉が関係しているのですか?
井出先生
肩こりに関係する筋肉はいろいろな種類がありますが、主に関係しているのは「僧帽筋」です。これは先ほどお話ししたように、首の後ろから背中にかけて広がっている筋肉で、三角形の形をしています。それから、肩甲骨を引き上げる役割をする肩甲挙筋や、肩甲骨を寄せる菱形筋なども肩こりと深く関係しています。
肩こりの治療法にはどんなものがある?
編集部
肩こりはどのようにして治療するのですか?
井出先生
痛みや不快感がひどい場合にはマッサージや温熱療法などを行います。マッサージでは筋肉の血流を改善し、筋肉の緊張を和らげるのが目的。また温熱療法も筋肉を温め血行を改善することで、筋肉の緊張を和らげます。
編集部
そのほかの治療法は?
井出先生
肩こり治療で重要なのは運動療法です。特に重要なのは、僧帽筋の筋力アップです。
編集部
なぜ、僧帽筋を鍛えると肩こりが改善されるのですか?
井出先生
僧帽筋は肩甲骨の動きを安定させる働きを担っているため、この筋力が衰えると肩甲骨の動きが不安定になり、肩こりを発症させてしまいます。そのため肩こりの改善や予防には僧帽筋を鍛え、筋力をアップするとともに、正しく僧帽筋を使えるようになるために機能訓練を行うことが必要です。
編集部
具体的に、どのような運動が適していますか?
井出先生
まずは、コブラエクササイズがおすすめです。これは、うつ伏せになり、肩甲骨を寄せるような意識で、胸を反らすエクササイズ。両腕は体から45度くらいの角度で開き、肩甲骨を中央に寄せることを意識して行うと、僧帽筋をしっかり働かせることができます。
編集部
そのほかにはどのような動きが良いでしょうか?
井出先生
ウォールスライドというエクササイズも、僧帽筋下部を意識的に使うことができ、筋力アップにも役立ちます。これは壁の前に座り、壁に手の甲をつけたまま両手を上げ下げするというものです。僧帽筋の下部を意識しながらこのエクササイズを行うと、普段から無意識に僧帽筋を使うくせがつき、肩こりの改善が期待できます。
編集部
普段からそうした運動を行うことで、肩こりの改善や予防ができるのですね。
井出先生
はい、それから正しい姿勢を維持することも肩こりの改善や予防には重要。そのためには、体幹を鍛えることが必要です。たとえばドローインといって、深呼吸しながらお腹を凹ませたり膨らませたりする運動は体幹を鍛えるのに役立ちます。
編集部
体幹トレーニングも重要なのですね。
井出先生
はい、またハンドニーエクササイズといって、四つ這いで対角線に腕や脚を交互に上げ下げするエクササイズも体幹トレーニングとして有効です。
編集部
なるほど、肩こりに悩んでいる人はそうしたエクササイズを習慣化すると良いのですね。
井出先生
現在、肩こりはさまざまな年代の人にとって悩みの種となっていて、特に20~40代の女性にとって困っている症状の第一位という調査結果もあります。ただ、肩こりがあっても生活に困ることがほとんどないので、あきらめて肩こりをそのままにしているという人も多いのが現状です。しかしながら、肩こりが続くと生活の質が下がりますし、仕事にも影響が出ることもあります。整形外科では肩こりに対し、運動療法や漢方薬の処方、ハイドロリリースなどの治療を行うことができますから、ぜひ気軽に相談してほしいですね。
編集部
ありがとうございます。最後に、読者へのメッセージをお願いします。
井出先生
肩こりで整形外科を受診したけれど、「痛み止めを飲んでください」としか言われず、がっかりした経験がある人もいるのではないでしょうか? 治療をあきらめて「うまく付き合っていくしかない」と考えている人も多いと思います。しかし、肩こりに対してはさまざまなアプローチが可能です。特にハイドロリリースや運動療法は効果が高く、適切に治療を行えば大体症状は改善できると思うので、もし困っていることがあったら、ぜひ整形外科を受診してみてください。
編集部まとめ
特にデスクワークの人など、肩こりに悩んでいる人も多いと思います。しかし、肩こりがひどくなると頭痛や吐き気などにつながることや集中力が低下して仕事や勉強のパフォーマンスが落ちることもあります。困っていることがあったら、ぜひ整形外科に相談してみましょう。
医院情報
所在地 | 〒220−0042 神奈川県横浜市西区久保町43−11 |
アクセス | 相鉄本線 西横浜駅 徒歩7分 |
診療科目 | 整形外科、リハビリテーション科、内科 |