「産後うつ」「育児困難」にならずに子育てを上手く乗り切るコツを医師が解説
子どもを出産したあと「産後うつ」に陥ったり、「育児困難」になったりすることで、大きなストレスを抱えてしまう人がいます。そうなってしまうと、本人はもちろん、子どもや周囲の人たちもみんな不幸になることもあります。そんなことにならないよう、子育てで事前に知っておくべきことや、やっておいた方がいいことについて、あおきメンタルクリニックの青木先生に教えていただきました。
監修医師:
青木 豊(あおきメンタルクリニック)
「産後うつ」や「育児困難」とは?
編集部
産後うつとはなんですか?
青木先生
産後うつとは文字通り、出産後に感じるうつ症状ですが、重症化すると精神疾患の1つである産後うつ病となります。気分の落ち込みや楽しみの喪失、意欲の低下、焦燥感、自責感や自己評価の低下、希死念慮などを訴える人が多いとされています。
編集部
産後、いつくらいに起きるのですか?
青木先生
産後うつ病は出産した女性のうち、およそ15~20%がかかるとされ、その大半が妊娠前期から産後1か月以内に発症します。
編集部
一方、育児困難とはなんですか?
青木先生
簡単にいうと、育児に伴ってストレスを感じ、「子どもをかわいいと思えない」「子育てがうまくいかなくて自分に自信が持てない、あるいはイライラして仕方ない」というような気持ちにとらわれることを言います。
編集部
具体的にどのような症状が出るのですか?
青木先生
人によってさまざまですが、睡眠障害、食欲の減退、不安、焦燥感、抑うつを感じることがあります。場合によっては虐待や不適切な養育にいたることもあるので、特に注意が必要です。
どうして「産後うつ」や「育児困難」になるのか?
編集部
なぜ、産後うつになるのですか?
青木先生
大きく分けて、2つの原因が考えられます。1つは、出産に伴うホルモンバランスの変化。もう1つは、出産したことによる環境の変化や育児への不安です。
編集部
身体的・精神的な要因が重なっているのですね。
青木先生
そのほかにも家族の理解が足りなかったり、サポートが不足していたり、慢性的に睡眠不足が続いていたりすることも産後うつの要因になるとされています。
編集部
一方、育児困難の原因はなんですか?
青木先生
いろいろな要素があります。まずは本人の性格として、生真面目で几帳面という問題があります。完璧な母親を目指そうとするあまり、大きなストレスを感じてしまうのです。それから周囲のサポートが得られていないことや、産休や育休などにより社会との孤立を感じていることも要因となります。
編集部
いろいろなことが要因として考えられるのですね。
青木先生
はい。それから重要な要因として、自分の生育過程において体験した両親との葛藤もあります。つまり、自分が育児をする立場になり、育児を通してその葛藤が活発になるのです。そのため精神的に混乱したり苦悩したりして、育児困難が生じる場合もあります。
上手に乗り切るコツとは?
編集部
産後うつや育児困難を乗り切るにはどうしたらよいでしょうか?
青木先生
大事なのは適切な治療と周囲のサポートです。不眠や抑うつ感などの症状があれば、ぜひメンタルクリニックを受診してみてください。産後うつに関しては、抗うつ剤の服用が効果的な場合もあります。
編集部
抗うつ剤のほか、どのような治療法があるのですか?
青木先生
精神・心理療法(カウンセリング)という治療法もあります。育児困難やそのストレスによる産後うつの場合、現在もっとも効果のある精神・心理療法として、「乳幼児―親精神・心理療法」というものがあります。また、認知行動療法や対人関係療法などの治療が功を奏すこともあります。
編集部
医療機関における治療のほかには、どのような解決策が考えられますか?
青木先生
夫や親の協力を得て、環境を調整することも必要です。育児や家事の負担を減らす、休憩時間をしっかり取る、いつでも相談できる人を見つけておくといったことで、症状の改善につなげることができるかもしれません。
編集部
周囲に頼る人を見つけるなどして、自分の負担を減らすことが大事なのですね。
青木先生
育児は母親1人でやるべきものではありません。一方で、そのように「人に頼るのが苦手」という方もいますが、それ自体が、自身を苦しめる状況を作ってしまうこともあります。上記のカウンセリングでは、そういったことから解放されるようになることを目標にする場合もあります。
編集部
カウンセリングは子育ての問題だけでなく、生きづらい環境を作り出している自分自身の問題にも踏み込むことがあるのですね。
青木先生
はい。産後うつや育児困難を解決するために大事なのは、「子どもにとって完璧な母でなければならない」という気持ちを手放すよう、努力することです。「子育ては思い通りにいかない」「完璧にできなくても大丈夫」というように、考え方を少しずつシフトしていくことを意識しましょう。実際、この世に完璧な母、父などいないと思います。「ほど良い」母、父であれば大丈夫です。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
青木先生
妊娠、出産、育児は、その方の人生にとってかなり特異的な時期です。多くの喜びと困難が生じえます。そして、人間として大きく成長できる時期でもあります。産後うつや育児困難が生じても乗り越えることはできますし、その方の過去から積み残した葛藤からの解放のチャンスでもあります。育児に関するトラブルや困りごとを専門で扱うメンタルクリニックや医療機関もたくさんありますから、ぜひ困ったことがあればそうした専門機関にご相談ください。
編集部まとめ
多くの人が感じている産後うつや育児困難。でも一人で悩みを抱えていると、やがては乳幼児虐待へ進行してしまう場合もあります。ぜひ困ったことがあったら医療機関に相談したり、周囲の人の手を借りたりして、育児に対してポジティブに取り組めるように自分の心や環境を変えていきましょう。
医院情報
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診療科目 | 心療内科、精神科 |