「産後うつ」は母親だけじゃない? 父親も抱える“孤独やストレス”原因・対処法を医師が解説

出産後の心身の変化は、女性にとって大きな負担となります。気持ちが沈んだり、涙もろくなったり、さらに長引く場合は「産後うつ」の可能性も。また、近年では、夫やパートナーにも同様の症状が出ることもあると言われています。今回は、産後の心身の変化や産後うつの対処法などについて、「秋葉産婦人科」の秋葉先生に解説していただきました。

監修医師:
秋葉 直也(秋葉産婦人科)
産後の心と体の変化

編集部
産後には、どのような身体的・精神的変化があるのでしょうか?
秋葉先生
出産直後の女性は、今まで高い状態だったホルモンがジェットコースターのように急降下するため、情緒不安定になることがあります。加えて、慣れない育児や授乳による睡眠不足などの身体的な疲労が積み重なることで、精神的にも追い詰められやすくなります。
編集部
産後うつとは、どのような状態ですか?
秋葉先生
産後うつは、出産後数週間〜数カ月以内に発症することが多く、強い不安感や無力感、涙もろさ、不眠、集中力の低下などが特徴です。さらには、赤ちゃんをはじめ周りに対する関心が減ったり、自分を傷つけたい、消えてしまいたいといった思いを抱いたりすることもあり、注意が必要です。
編集部
いわゆる「マタニティブルー」とは違うのですか?
秋葉先生
マタニティブルーは、症状が2週間以内で改善に向かう特徴があり、分娩を経験した女性の3〜5割がなるとされています。家族の理解や支援でマタニティブルーは軽減・改善するのですが、産後うつに関しては医療機関での治療やカウンセリングなどの専門的ケアが必要です。
編集部
産後うつは、どのくらいの頻度で起こるのでしょうか?
秋葉先生
日本では、およそ10〜15%の産後女性にうつ症状が出るとされています。もともとのキャパシティや既往歴、社会的ストレス(環境)などが要因となると言われており、決して珍しいものではありません。
編集部
無理してしまう人も多いと思います。
秋葉先生
そうですね。「子どものために自分が頑張らなければ」と、1人で抱えてしまう人も多いと思いますが、そのようにして悪化してしまっては元も子もありません。「育児がつらい」「笑えない」「眠れない」などの状態が2週間以上続く場合は、迷わず医療機関を受診してください。
産後うつは夫にも起こる?

編集部
「産後うつは夫にも起こる」というのは本当ですか?
秋葉先生
そのように言われていますね。出産後の女性を支えるパートナーにも精神的ストレスがかかることがあり、うつ症状が出ることもあります。特に仕事と育児の両立やパートナーとの視点の違い、無力感などに悩むケースが多いですね。
編集部
具体的に、どのような症状がみられるのでしょうか?
秋葉先生
パートナーに起こる症状も、女性の産後うつと似ています。イライラしやすくなったり、不安感が強くなったり、やる気が出ない、眠れないといった症状が挙げられます。また、気分の落ち込みとは逆に、怒りとなって症状が出ることもあり、自分が産後うつ状態にあるとは気づかない人も多いのが特徴です。
編集部
どちらもなってしまうこともあるのですか?
秋葉先生
そうですね。夫婦それぞれが心身ともに疲弊している場合、互いの変化に気づけないまま症状が悪化することもあります。特にコミュニケーション不足や育児・家事への意識の違いから孤独感が生じ、精神的負担を感じる人も少なくありません。パートナーシップの考え方として「どちらかの精神状態が不安定だと引っ張られる」という報告もあります。
編集部
産後うつの予防法はありますか?
秋葉先生
産後うつの予防の第一歩は、妊娠中から産後の生活を見据え、夫婦で役割分担やサポート体制について話し合っておくことです。また、家族や周囲の協力を得られる環境を整えることや、無理せず自分の時間を持つことも重要です。最近は産後ケア施設なども少しずつ増えているので、利用するのもいいでしょう。些細な不安や心配事でも、ためらわずに相談したり頼ったりする習慣を持つことが、何よりの予防になります。
産後うつの対処法、サポートの選択肢と受診のすすめ

編集部
産後うつの対処法には、どのようなものがありますか?
秋葉先生
軽度の場合であれば、生活習慣の見直しや周囲のサポートで改善することもあります。その一方、中等度以上の症状がある場合には、専門医によるカウンセリングや薬物療法が必要になることもあります。
編集部
どこに相談すればいいのでしょうか?
秋葉先生
まずは、かかりつけの産婦人科や地域の保健センターなどに相談してみてください。必要があれば、心療内科や精神科など、適切な医療機関を紹介してくれます。
編集部
医療機関にかかることに抵抗がある人もいるかと思います。
秋葉先生
お気持ちはよくわかります。しかし、繰り返しになりますが、1人で抱え込むことで症状が悪化するケースも多いため、早めに相談することが大切です。ご自身やパートナーに「笑えない」「眠れない」などの症状が2週間以上続いたときは、迷わず医療機関に相談しましょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
秋葉先生
産後うつが原因で離婚や自死に至ってしまうケースは、日本でも決して珍しくありません。産後のメンタルヘルスは、母親だけでなく家族全体にとっても非常に大切な問題です。妊娠中から、体のことだけでなく心の状態についても、医療機関に相談できる関係をつくっておくことが望ましいでしょう。最近では、国立成育医療研究センターが「自治体向け父親支援マニュアル」を公開するなど、父親やパートナーへの支援も進んでいます。男性の産後うつも重要な課題であり、家族全体の健康に関わることとして社会全体で理解を深めていく必要があります。性別に関係なく、誰もが安心して子育てに向き合える社会を目指していきたいですね。
編集部まとめ
産後うつは、決して珍しいことではなく、誰にでも起こり得る状態です。近年では、夫やパートナーにも同様の症状が現れることが注目されており、夫婦そろって心身のケアが必要とされています。無理をせず、少しでも「おかしいな」と感じたら、まずは医療機関や地域の相談窓口に相談してみることが、予防や改善への第一歩となります。
医院情報

| 所在地 | 〒306-0013 茨城県古河市東本町2-9-2 |
| アクセス | JR「古河駅」 徒歩7分 |
| 診療科目 | 婦人科、産科、乳腺甲状腺科、小児科 |




