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痩せ型でも「糖尿病」になるのはご存知ですか? 予防法・治療法も医師が解説!

 公開日:2023/12/05

糖尿病と聞くと「肥満の人が発症しやすい」というイメージがあるかもしれません。しかし、実際は痩せ型の人でも糖尿病を発症します。特に日本では現在、痩せている若い女性の糖尿病患者が増えています。今回は痩せている人が糖尿病になる原因とその治療法・予防法について、「新緑糖尿病内科クリニック」の佐藤先生に解説していただきました。

佐藤 雄紀

監修医師
佐藤 雄紀(新緑糖尿病内科クリニック)

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信州大学医学部卒業。その後、長野赤十字病院初期研修医、東京都済生会中央病院、慶應義塾大学病院、埼玉メディカルセンターなどで経験を積む。2023年、埼玉県川口市に「新緑糖尿病内科クリニック」を開院。地域のかかりつけ医として、幅広い診療から糖尿病の専門的な治療までおこなう。

肥満体型・普通体型だけじゃない! 糖尿病患者は痩せ型の人も多い? その原因を医師に聞く

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編集部編集部

「糖尿病は太っている人に発症しやすい」というイメージがあります。

佐藤 雄紀先生佐藤先生

たしかに、そういうイメージをもっている人は多いかもしれませんね。しかし実際、痩せ型の人でも糖尿病を発症します。特に、痩せていて筋肉の少ない女性は「前糖尿病」になりやすいことがわかっています。

編集部編集部

なぜ、痩せている人でも糖尿病になってしまうのですか?

佐藤 雄紀先生佐藤先生

痩せた人が糖尿病になるメカニズムには2点あり、1つはインスリン分泌が低いことです。日本人にはインスリン分泌低下型の糖尿病が多いことが示されています。

編集部編集部

もう1つの理由は?

佐藤 雄紀先生佐藤先生

痩せており筋肉量の少ない人は、インスリンが効きづらいインスリン抵抗性が増し、糖尿病発症に関わっています。体格指数(BMI)が18.5未満の日本人の痩せた若年女性は、耐糖能異常が多い」ということが研究で明らかになっています。耐糖能異常とは、食後の高血糖が目立つ状態のことを指します。食前の血糖値が低く、糖尿病と診断されるほどの高血糖ではありませんが、血糖値が正常よりも高い状態です。

編集部編集部

なぜ、耐糖能異常が起きるのですか?

佐藤 雄紀先生佐藤先生

痩せた若い女性の場合、血糖値を下げる働きのあるインスリンが効きにくい状態になっていることが原因として考えられます。これはもともと、肥満の人に起こると考えられていました。しかし、肥満の人だけでなく痩せている若い女性にも同じことが起こると判明しました。

編集部編集部

肥満の人と同じことが、痩せている人にも起きているというのは不思議です。

佐藤 雄紀先生佐藤先生

現代の若い女性の中には、「食事量も運動量も少なくて痩せている」という人が少なくありません。そうした特徴を持つ人は、自ずと骨格筋量も減っています。体内で血糖値が下がるのは、肝臓と筋肉が糖を取り込んでいるためで、筋肉の量が少なければ糖質の取り込み先がなくなってしまいます。そのため、血糖値が上がりやすくなり、糖尿病を発症しやすくなるのです。

編集部編集部

「痩せている=健康的」というイメージがありますが、そういうわけではないのですね。

佐藤 雄紀先生佐藤先生

はい。「痩せた人の方が一般の人より耐糖能異常が7倍多い」ということがわかっています。また、痩せている人の方が死亡率も高く、特に高齢者の場合はその傾向が顕著です。つまり、痩せているというのは健康的ではなく、むしろ命のリスクになる場合もあるのです。

痩せ型の人が糖尿病になった際の治療方法 食事より運動療法・薬・注射が効果的?

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編集部編集部

痩せ型の人が糖尿病になったら、どのような治療をおこなうのですか?

佐藤 雄紀先生佐藤先生

肥満の人が糖尿病を発症した場合は減量が基本ですが、痩せている人の場合には減量よりも、むしろ栄養バランスの良い食事を適量、しっかり摂ることを目指します。痩せ型の若い女性は食事量が少なく、糖質に偏っていることが多いので、そうした食習慣を改めて、特にタンパク質の積極的な摂取を推奨しています。

編集部編集部

そのほかには、どのように治療が進められるのですか?

佐藤 雄紀先生佐藤先生

運動療法と薬物療法も並行しておこないます。肥満の糖尿病患者の場合には、減量を目的として運動療法をすることが多いのですが、痩せている患者の場合には減量ではなく、インスリンの効きをよくすることを目的におこないます。

編集部編集部

なぜ、運動療法が必要なのですか?

佐藤 雄紀先生佐藤先生

そもそも、運動には有酸素運動無酸素運動があります。有酸素運動とはジョギングやウォーキングのように、体内に酸素を取り込みながら、糖質や体脂肪をエネルギー源として燃焼させる運動のことです。一方、無酸素運動とは、酸素を使わずにエネルギーを作り出す運動のことを指します。インスリンの効きをよくするためには、この両方の運動が必要です。

編集部編集部

なぜですか?

佐藤 雄紀先生佐藤先生

有酸素運動をして筋肉への血流が増えると、どんどんブドウ糖が細胞に取り込まれてインスリンの効果が高まり、細胞がブドウ糖を使えるようになって血糖値が低下します。また、筋力トレーニングによって筋肉を増やすことも、筋肉内に蓄積された異所性脂肪を減少させ、インスリンの働きを高めるのに役立ちます。

編集部編集部

なるほど。有酸素運動と無酸素運動の両方が必要なのですね。

佐藤 雄紀先生佐藤先生

加えて、有酸素運動をすることによって、インスリンとは独立した機序で筋肉にブドウ糖が取り込まれるということもあります。このように、インスリン抵抗性を改善するために、運動療法が必要なのです。

編集部編集部

食事療法と運動療法は、どちらかだけではダメなのですか?

佐藤 雄紀先生佐藤先生

痩せている人の多くは食事の栄養バランスが悪いという現状があります。研究で明らかになったのは、痩せている女性で遊離脂肪酸が増えている人が多いということです。遊離脂肪酸が高すぎると、脂肪毒性を持つと言われています。痩せている人は白色脂肪細胞に脂肪を蓄積させることができず、高遊離脂肪酸により肝臓や筋肉に脂肪が溜まります。これはいわばフォアグラや霜降り肉のような状態で、健康的ではありません。本来肝臓や筋肉は脂肪が蓄積する場所ではないにも関わらず、そこに脂肪が溜まってしまうことで、さらにインスリン抵抗性が増してしまいます。

編集部編集部

すると、遊離脂肪酸を減らすことが必要なのですね。

佐藤 雄紀先生佐藤先生

はい。そのためには食事に気をつけるとともに、しっかり運動をすることが必要です。無酸素運動と有酸素運動の組み合わせで遊離脂肪酸を減らすことができるので、どちらの運動も必要になってきます。

編集部編集部

薬物療法についても教えてください。

佐藤 雄紀先生佐藤先生

薬物療法では、その人に適した薬を用いることが重要です。痩せ型で分泌量が低下している人はインスリン分泌量を増やす薬を使いますし、インスリン分泌が極度に低下している場合にはインスリンを使用することもあります。インスリンの効きが悪くなっている場合には抵抗性を改善する薬を服用していただきます。

糖尿病予備軍で痩せ型の女性・男性も知っておきたい予防方法や食事の注意点

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編集部編集部

痩せ型の人が糖尿病予備軍と診断された場合、どのようなことに注意すればいいのでしょうか?

佐藤 雄紀先生佐藤先生

まずは食生活を見直し、適切な食事量を取るとともに必要な栄養素をしっかり摂取しましょう。また、運動習慣を身につけることも糖尿病の予防に役立ちます。

編集部編集部

ほかにも注意点はありますか?

佐藤 雄紀先生佐藤先生

アルコールとタバコは、どちらも糖尿病を悪化させる原因になります。極力控えることを意識しましょう。また、コーヒーや緑茶を積極的に摂取すると、糖尿病の発症を抑制する効果が期待できるという報告もあります。加えて、脂質に偏った食事をしている人は、魚の油などを積極的に摂るようにしてみてください。

編集部編集部

医療機関での検査は、定期的に受けた方がいいのでしょうか?

佐藤 雄紀先生佐藤先生

血糖、HbA1c(ヘモグロビンA1c)や尿糖の検査を受けることをおすすめします。特に尿糖検査は隠れ糖尿病を発見するのに有用な検査です。これらの検査を定期的に受けるとともに、自宅でも血圧を測ったり、体重を測定したりする習慣をつけましょう。

編集部編集部

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

佐藤 雄紀先生佐藤先生

痩せたいという思いは理解できますが、ただ体重を減らすよりも、ぜひ健康的に美しい体を目指してほしいと思います。特に、食事だけで痩せようとするのは危険です。理想は「バランスの良い食事をしっかり摂って、運動量も多い」という、エネルギーが高回転している状態です。こうすることで余分な脂肪が蓄積することなく、健康的な状態を維持できます。特にBMIが18.5を下回ると健康上のリスクが高まるとされているので気をつけましょう。

編集部まとめ

「痩せているから糖尿病にはならない」という認識を持っているのであれば、すぐにその考えを改める必要がありそうです。特に「食べない」「運動しない」という状態が続いている場合、かえって糖尿病のリスクが高くなっている可能性があります。「食事が糖質に偏っている」など心当たりがある場合には、定期的に血糖値の測定を受けて、糖尿病の発症予防に努めましょう。

医院情報

新緑糖尿病内科クリニック

新緑糖尿病内科クリニック
所在地 〒332-0017 埼玉県川口市栄町3-13-1 樹モールプラザ301-5
アクセス JR「川口駅」 徒歩5分
診療科目 一般内科、糖尿病内科

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