食中毒対策は加熱するだけではだめ? 熱に強い食中毒菌「セレウス菌」を管理栄養士が解説
夏が終わり、冬が近づいてくると警戒が薄れる「食中毒」。ある程度加熱すれば大丈夫と思っている方も多いと思います。しかし、食中毒菌の中には熱に強い菌「セレウス菌」があることをご存知でしょうか。この記事では、セレウス菌食中毒の症状や予防策、対処法まで管理栄養士の河原さんに解説していただきました。夏場が終わったからといって慢心せず、食中毒に関する知見を増やしましょう。
監修管理栄養士:
河原あい(管理栄養士)
セレウス菌とは? 菌の特徴やどのような食材に潜んでいるのか解説
編集部
はじめに「セレウス菌」について教えてください。
河原さん
「セレウス菌」とは、正式名称をBacillus cereusといい、主に土壌や河川などの自然環境に生息する芽胞形成菌(がほうけいせいきん)です。熱に強いので、食中毒細菌としても有名です。
編集部
なぜ「芽胞」を作る菌が熱に強いのでしょうか?
河原さん
セレウス菌は、生育に適さない環境で「芽胞」とよばれる殻のようなものを菌体の周りに形成し、いわゆる休眠状態となります。芽胞に包まれた状態のセレウス菌は、熱や乾燥など生育に適さない環境でも死滅しません。また、芽胞を形成した状態では、30℃前後の環境になれば最も活発な状態になり、90℃・60分の加熱にも耐えられます。そのため、冷めた調理済食品中で急激に増殖するなどの食中毒例がよく報告されます。
編集部
セレウス菌が潜んでいる可能性がある食品にはどんなものがありますか?
河原さん
セレウス菌は米や麦などの農産物だけでなく、炊飯後のお米や焼飯、ピラフ、オムライス、パエリア、ドライカレ-などお米を使った調理済み食品に多く見られます。また、米飯以外ではスパゲッティなどの麺類にも潜んでいます。
セレウス菌による食中毒の症状は?
編集部
セレウス菌に感染した場合、どのような症状が現れますか?
河原さん
セレウス菌の症状は、嘔吐型と下痢型に分けられます。嘔吐型の場合、嘔吐だけでなく下痢や腹痛も起こりますが、いずれも軽症です。他方、下痢型の場合は下痢症状が起こるだけでなく、免疫力が低下している場合は急性肝不全を招く場合があります。
編集部
症状が現れるまでの期間について教えてください。
河原さん
症状が現れるまでの期間は、嘔吐型と下痢型で異なります。嘔吐型は、食後1~5時間(平均2~3時間)で現れ、吐き気や嘔吐が起こります。まれに、下痢が伴うことがあり、発熱はしません。他方、下痢型は食後8~16時間とやや長く、腹痛および下痢が主な症状として現れます。嘔吐型、下痢型ともに重症化することは稀であり、大半の事例は軽症で報告されます。
編集部
症状が悪化した場合、どのような処置が必要ですか?
河原さん
嘔吐や下痢の症状が続くと、体内の水分を大量に失うのでしっかりと水分補給をしましょう。吐き気がある場合は横になり、吐いてしまった場合は感染予防のために直接触らない、アルコール消毒をするなどの適切な処理をしてください。また、下痢が1日10回以上続く、血便がある、激しい嘔吐や呼吸困難、意識障害などの重い症状がみられる場合は、医療機関受診を速やかに受診しましょう。
編集部
医療機関ではどのような治療をおこなうのでしょうか?
河原さん
感染原因を早く特定するために、まず心当たりのある食事を医師に報告し、原因物質を特定します。それから、点滴による脱水防止と感染原因であるウイルスを死滅させるための抗生物質投与(服薬治療)が施されます。しばらく吐き気が続く場合は横になり、吐き気が収まったらおかゆやバナナのような味の強くない、消化に良いものを食べます。味の濃いものや揚げ物のような脂質の高い食事、乳製品はしばらく避けてください。
セレウス菌食中毒を防ぐポイントは?
編集部
食中毒に気を付けるのは、外食時などでしょうか?
河原さん
確かに食中毒と聞くと、レストランなどの飲食店で提供される料理が原因と思われがちです。もちろん外食時も気を付けてほしいですが、家庭内の食事でも食中毒は発生していて、どこにでも危険はたくさん潜んでいます。家庭で発生する食中毒の場合は症状が軽く、発症する人も1~2人のことが多いので、風邪と間違われやすくなります。しかし、食中毒と気づかないまま放置してしまうと、ひどい場合は重症化や死亡する例もあるので気を付ける必要があります。
編集部
家庭でのセレウス菌による食中毒に対して気を付けるポイントはありますか?
河原さん
食中毒の予防の三原則は菌を「付けない」「増やさない」「やっつける」ですので、これに則って調理をしましょう。まず、購入する食材は新鮮なものを選んでください。購入後はすぐに冷蔵・冷凍庫にいれることで、菌の増殖を抑制することができます。調理スペースは清潔にして、生ごみはこまめに捨ててください。調理前は必ず手指を洗い、タオルも新しいものを使いましょう。食材はよく洗い、加熱後はすみやかに食べるようにして常温放置を避けてください。手作り料理はなるべくその日のうちに食べ、食べない場合は必ず冷蔵庫で保存しましょう。米飯料理やパスタ料理の作り置きは避け、酸っぱい匂いやいつもと違う匂いを感じたら、食べずに処分してください。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
河原さん
細菌は目に見えない生き物なので、適切な保存・調理方法で食中毒を起こさないように気を付けるしかありません。ですが、正しい方法で調理をおこなえば、さまざまな食中毒を防ぐことができます。また、食中毒が起こった際にも、適切な方法で処置をおこなえば軽傷で済みます。ただし、症状がおさまらない場合は、放置せずに早急に医療機関を受診するようにしてください。
編集部まとめ
夏場や外食で発生するイメージのある食中毒ですが、季節や発生場所は関係なく、いつ・どこでも起きる可能性はあります。なかでも今回は、芽胞を形成することで熱でも死滅せず、日本人の主食でもあるお米を使った料理で発生しやすい「セレウス菌」による食中毒について解説しました。過程で調理をする場合は購入から保存、調理、食後まで気を付け、いつもと違う見た目や匂いを感じたら食べないようにしましょう。