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牡蠣による食中毒、原因となる「ノロウイルス」は渡り鳥が由来の可能性 琉球大学らが新発見

 公開日:2024/01/15
カキ食中毒を起こすノロウイルス 沿岸海域の鳥などに由来か

琉球大学らの研究グループは、「食用カキにおけるノロウイルス検出は、カモ類・ハクチョウ類の飛来と同調して起きていることを発見した」と発表しました。この内容について中路医師に伺いました。

中路 幸之助

監修医師
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)

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1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。

琉球大学らが発表した研究内容とは?

今回、琉球大学らによる研究グループが発表した研究内容について教えてください。

中路 幸之助 医師中路先生

今回紹介するのは琉球大学らの研究グループが実施した研究で、成果は学術雑誌「Journal of Freshwater Ecology」に掲載されています。

研究グループは、カキに蓄積するノロウイルスが沿岸海域の動物によってもたらされるという「ノロウイルス動物由来モデル」を提案しており、このモデルを検討するために宮城県・松島湾の食用カキシーズンに海水を採取し、環境DNA分析をおこないました。その結果、食用カキからノロウイルスが検出されるタイミングと同調して、カモ類、ハクチョウ類、カラスなど6種の鳥類と、イエネコのDNAが同定されました。

分析によると、カモ類、ハクチョウ類の飛来からおよそ4~5週間後、カラスやイエネコの出現からおよそ1週間後に、カキからノロウイルスが検出される傾向があることが判明しました。研究グループは、季節性の渡り鳥がノロウイルスの自然宿主であり、それらが排出した糞尿を介してノロウイルスが沿岸海水に混入し、食用カキの一部に蓄積されるという「ノロウイルス動物由来モデル」が支持されたとしています。また、ノロウイルスとの関与が疑われた鳥類の腸管や糞便から、直接ノロウイルスを検出することを今後の課題としています。

このノロウイルスの自然宿主である動物種を特定することで、その動物の細胞を使用したノロウイルスの増殖が可能になるとも期待されています。研究グループは「ノロウイルスの増殖についての研究は、ワクチンや小分子薬剤の開発などといった治療応用への道を切り拓く可能性がある」と述べています。

ノロウイルスとは?

琉球大学らによる研究グループが研究対象にしたノロウイルスについて教えてください。

中路 幸之助 医師中路先生

ノロウイルスは多くの遺伝子の型があり、培養した細胞などでウイルスを増やすことができないことから、分離・特定が困難なウイルスです。特に食品中に含まれるウイルスを検出することが難しく、食中毒の原因究明や感染経路の特定を困難にしています。

2022年の食中毒発生状況によると、ノロウイルスによる食中毒は食中毒事件全体の6.5%の63件で、総患者数31.7%にあたる2175名となっています。ノロウイルスによる食中毒は年間を通して発生していますが、11月頃から発生件数は増加しはじめ、12月~翌年1月が発生のピークになる傾向があります。現在、このウイルスに効果のある抗ウイルス剤はないため、通常は対症療法がおこなわれます。特に、乳幼児や高齢者は脱水症状を起こしたり、体力を消耗したりしないよう要注意です。脱水症状がひどい場合には、病院で輸液をおこなうなどの治療が必要となります。

今回の研究内容への受け止めは?

琉球大学らによる研究グループが発表した研究内容への受け止めを教えてください。

中路 幸之助 医師中路先生

渡り鳥はインフルエンザウイルスにみられるように、ウイルスの運び屋として注目されてきました。今回の研究は、これまで考えられなかった「ノロウイルスと渡り鳥」の関連について注目した大変興味深い研究であると考えられます。さらに、天候の影響(降雨)も考慮されていることや、環境DNA分析という解析手段を用いることで、より信憑性のある結果が得られていることは特筆すべき点でしょう。

まとめ

琉球大学らの研究グループは、「食用カキにおけるノロウイルス検出は、カモ類・ハクチョウ類の飛来と同調して起きていることを発見した」と発表しました。ノロウイルスによる食中毒は毎年発生しているので、今後の研究にも注目が集まりそうです。

この記事の監修医師