「てんかん」の症状をてんかん専門医が解説 原因や症状、発作の誘因になるものとは?
突然、けいれんや意識障害などの発作を起こすてんかん。発作の症状にはさまざまあり、発作を正確に理解することがてんかん治療の鍵になります。てんかん発作の具体的な内容や原因などについて、スガノ脳神経外科クリニックの菅野先生にMedical DOC編集部が聞きました。
監修医師:
菅野 秀宣(スガノ脳神経外科クリニック)
目次 -INDEX-
てんかんとは脳のどんな病気? けいれんやてんかん発作が起きる原因も知りたい ストレスも良くないって本当?
編集部
てんかんとは脳の病気なのですか?
菅野先生
はい。てんかんとは脳の慢性疾患と定義されており、簡単にいうと、脳の機能が乱れた状態となります。
編集部
もう少し詳しく教えてください。
菅野先生
脳にはさまざまな神経細胞が集まっており、電気信号を発して体を動かす働きをしています。しかし、何らかの原因で脳内の電気信号が乱れると、適切に情報を受け取れなくなったり、体の動きをコントロールできなくなったりします。これがてんかんの状態です。
編集部
なぜ、脳の機能が乱れてしまうのですか?
菅野先生
てんかんが起きる原因はさまざまあり、脳の一部の形態の異常、脳外傷、脳炎や髄膜炎、脳梗塞などの脳疾患がてんかんの原因になります。
編集部
「てんかんは原因不明」と聞いたことがありますが、解明されているのですね。
菅野先生
以前は原因不明とされることも多かったのですが、現在は研究が進み、「なぜてんかんが起きるのか」が明らかにされつつあります。しかしながら、依然として原因不明なものもあります。
編集部
ストレスもてんかんの原因になりうるのですか?
菅野先生
はい。ストレスがてんかん発作を引き起こす誘因となることは明らかになっています。しかし、それとは別に、てんかん発作に似ているけれど、真のてんかん発作ではない「心因性非てんかん性発作」というものもあります。意識混濁やけいれんなど、てんかんと似た症状を呈するため間違われることもあります。
てんかんとは発作を起こす病気の総称 発作の誘因にはどのようなものがある?
編集部
てんかんの発作にはどのような症状があるのですか?
菅野先生
てんかんの発作で見られる症状は、非常に多岐になります。なかでもよく知られるものに、体のピクツキやけいれん、記憶の脱出があります。
編集部
「てんかん=けいれん」と理解していいのでしょうか?
菅野先生
いいえ。正確に言えば、てんかんとは発作性の神経症状をおこし、それが神経細胞の過剰な興奮による病気の総称のことなのです。ひとくちに「てんかん」といっても、脳の奇形や遺伝子異常、脳の外傷などさまざまな原因となる病気があります。それらの病気は一過性の神経症状を呈することがあり、それを「てんかん発作」と呼びます。
編集部
てんかん発作の前には前兆があるのですか?
菅野先生
場合によります。たとえば脳の機能異常がどこで起きているかによっても、前兆の有無や症状は異なります。
編集部
てんかんの誘因としてはどんなことがありますか?
菅野先生
睡眠不足や疲労、ストレスなどが重なったときにも、てんかんの発作が起きやすくなるので注意が必要です。そのほか、女性なら月経にあわせて発作が起きることもあります。
編集部
誘因にもさまざまなものがあるのですね。
菅野先生
はい。そのほかにも体温上昇や過呼吸、光の点滅などが誘因になることもあります。お薬で治療されている患者さんの場合には、飲み忘れが最も多い発作の原因になってしまうので、そこは注意が必要です。
編集部
発作はどれくらいの頻度で起きるのですか?
菅野先生
発作の頻度は人によってさまざまで、毎日起こる場合もありますし、年に1回程度の人もいます。ただし、気をつけたいのが、てんかん発作は繰り返すということ。たまたま一度だけけいれん発作が起こった場合などは、てんかんとは言わず、その場合は急性症候性発作と呼び、てんかんと区別しています。
「全般性てんかん」と「焦点性てんかん」では発作の症状や原因が異なる てんかんに治療法はある?
編集部
てんかん発作と一口にいっても、さまざまなものがあるのですね。区分することはできるのですか?
菅野先生
臨床では主に意識障害が「ある・ない」で大きく分かれます。また、「全身の症状を呈しているか」「部分的か」でも分類をします。
編集部
具体的に、どのように分類されるのですか?
菅野先生
わかりやすくいうと、てんかんには「全般性てんかん」と「焦点性てんかん」の2つがあります。「全般性てんかん」とは脳の全体が興奮して起きるもの、「焦点性てんかん」とは脳の一部が興奮して起きるもののことをいいます。正確に区別をするには症状だけでなく、脳波やMRIなどの検査を総合的に判断しなければならず、専門医の診察が必要です。
編集部
それぞれ発作の現れ方も違うのですか?
菅野先生
はい、全般性てんかんの発作では、強直間代(きょうちょくかんだい)発作がよく知られています。これは突然意識をなくし、手足をつっぱらせた後、体がガクガクとなる発作です。
編集部
一方、焦点性てんかんではどのような発作が起きるのですか?
菅野先生
いろいろな種類があります。たとえば「手足がぴくぴくと動く」「意識が混濁していく」「記憶が抜ける」などです。
編集部
発作のときに意識はあるのですか?
菅野先生
それもさまざまです。全般性てんかんの発作の場合には意識を失うことがほとんどですが、焦点性てんかんの場合には完全に意識が保たれているときと意識混濁をするときがあります。
編集部
それぞれ原因も異なるのでしょうか?
菅野先生
全般性てんかんは子どもの時から発症することが多く、完全には解明されていないものの遺伝子異常が原因として考えられています。一方、焦点性てんかんは大人になってから発症することが多く、例えば脳梗塞などで脳の一部が変性することで発症するとされています。
編集部
発作は薬などで抑制することができるのですか?
菅野先生
てんかん患者のうち、70~80%は薬で発作を抑制できると考えられています。しかし残り20〜30%は難治性てんかんとされており、外科治療の必要があるかを考慮します。一方、子どものてんかんは、50%くらいが成長とともに自然治癒します。
編集部
外科治療とはどのようなものですか?
菅野先生
発作を起こす原因となっている脳の一部を切除します。外科治療により 60〜70%のてんかんが治るとされています。従来は開頭して行う大がかりな手術が一般的でしたが、最近では研究が進み、てんかんの手術支援ロボットを導入する医療機関も出てきています。これにより迅速かつ的確に手術を行えるようになり、患者さんの負担も減少しています。
編集部
研究・技術が進んでいるのですね。
菅野先生
そのほか、緩和的治療も大きく進化しています。緩和的治療とは、てんかん発作の程度や頻度の改善を目的とした治療法のこと。首のあたりを走っている迷走神経に刺激電極を巻きつけ、前胸部にジェネレーターを埋め込んで、てんかん発作の頻度を抑制したり、発作の程度を軽くしたりします。
編集部
てんかんというと治りにくい病気というイメージがありました。
菅野先生
確かに難治性のてんかんもありますが、一方で、てんかんの治療法は目覚ましく進化しています。今後は脳を直接刺激する治療法が導入される予定もあり、これまで難治性だったてんかんにも治癒の可能性が見られるようになりました。ですから、「いろいろな治療法を試したけれど治らなかった」という方もぜひあきらめず、専門医に相談してほしいと思います。
編集部
最後に、Medical DOC読者へのメッセージがあれば。
菅野先生
MRIや脳波解析、遺伝子解析が進んだ現代においても、てんかんの診断では症状の観察が最も大切です。症状がてんかんであるか否かはてんかん専門医の知識と経験が必要だと思います。大半のてんかんは適切な抗てんかん薬の選択で抑制でき、ある一定の注意をすれば、普通に日常生活を送ることができます。また、手術で治るてんかんもあり、薬では抑制できなかった発作を手術で完全に止めることも可能です。その判断は脳外科専門医で、かつてんかん専門医であるてんかん外科医が行います。てんかんでお困りの方は、ぜひ、てんかんの専門医にご相談ください。
編集部まとめ
子どもから大人まで、誰もが発症する可能性があるてんかん。これまでどんな治療を試しても治らなかったという人は、セカンドオピニオンやサードオピニオンを活用し、最新の治療法を選択してみるのもよいかもしれません。
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診療科目 | 脳神経外科、小児脳神経外科 |