運動はリスクになり得る!?「糖尿病神経障害」の人が運動時に気をつけるべきコトとは
糖尿病には、3大合併症と呼ばれる合併症が存在することをご存知でしょうか。その中の1つである「糖尿病神経障害」は、気づかないうちに重症化し、更なる合併症を引き起こしてしまうこともあるようです。今回は、糖尿病神経障害の概要から重症化予防の方法、日常生活での注意点に至るまで、「理学療法士」の相澤先生に詳しく解説して頂きました。
監修理学療法士:
相澤 郁也(理学療法士)
糖尿病神経障害の原因・症状・治療を解説
編集部
糖尿病神経障害の原因と分類について教えてください。
相澤さん
糖尿病神経障害の原因は、主に「高血糖による神経細胞の変化」や「動脈硬化からくる神経細胞への血流不足(栄養不足)」が挙げられます。血糖コントロールが不良であることはもちろん、高血圧や脂質異常症、喫煙、肥満、糖尿病になってからの年数などが関係しています。糖尿病神経障害は、「広汎性左右対称性神経障害」と「単神経障害」の2つに分類されます。さらに、広汎性左右対称性神経障害は「多発性神経障害(感覚神経、運動神経の障害)」と「自律神経障害」に分類されます。
編集部
糖尿病神経障害の主な症状や合併症について教えてください。
相澤さん
異常感覚(しびれ、ジンジンする感じ、冷感)、自発痛、神経痛、感覚鈍麻(特に痛みがわかりづらくなる)、こむらがえりなどが多発性神経障害の症状として挙げられます。左右対称かつ遠位(手の先、足の先)から症状が出現・進行するのが多発性神経障害の特徴です。一方、自律神経障害の症状としては、発汗異常、起立性低血圧、便通異常、無自覚性低血糖などがあります。単神経障害の症状としては、脳神経障害(顔面神経麻痺、外眼筋麻痺など)、四肢の神経障害などが挙げられます。特に重大な合併症としては、感覚鈍麻によって痛みが感じ取りづらくなることに血流の障害が加わることで発症する「糖尿病足病変」があります。糖尿病足病変になると、「足の傷などに気づかず、気づいたときには壊死している」ことがあります。
編集部
糖尿病神経障害の治療について教えてください。
相澤さん
糖尿病神経障害の治療方法は、分類によって異なります。感覚神経障害と自律神経障害は、軽症の場合には血糖コントロールと生活習慣の改善で軽快することが多いとされています。また、それぞれの神経障害の症状の強さや生活に及ぼす影響を考慮して、対症療法が必要となります。一方、単神経障害の場合は、血糖コントロールとは無関係に自然に軽快することが多いとされています。症状の強さなどによって治療方針が変わるので、かかりつけ医に相談し適切な治療を受けられるようにすることをおすすめします。
運動が糖尿病神経障害に与える効果とは
編集部
糖尿病神経障害の人が運動することでどのような効果が得られるのですか?
相澤さん
適切な運動は血糖コントロールを改善するため、糖尿病神経障害の進行を抑えることに効果的だと言えます。さらに、糖尿病神経障害の人は、先ほど挙げた代表的な症状以外にも、筋力、バランス能力、歩行能力といった運動機能を低下させることも報告されています。適切な運動は、これらの運動機能の改善も期待できます。
編集部
運動が糖尿病神経障害に良い効果を与える理由について教えてください。
相澤さん
糖尿病神経障害の進行を抑えさせるためには、血糖コントロール、高血圧や脂質異常症の改善、肥満などの改善が重要ですが、運動はそれらに対して効果的であることが証明されています。また、運動は血流を良くする効果もあるため、原因の1つでもある神経細胞への血流不足(栄養不足)に対しても効果を示します。
編集部
糖尿病神経障害の人に有効な運動はどのような運動がありますか?
相澤さん
筋力トレーニング、バランストレーニング、歩行などをおこなうことで、糖尿病神経障害を持つ人でも、筋力、バランス能力、歩行能力といった運動機能が改善すると言われています。血糖コントロールを良好に保つこと、運動機能を改善することを目的として、有酸素運動(歩行)、筋力トレーニング、バランストレーニングを併せて実施するといいと思います。
運動が糖尿病神経障害に与えるリスクとは
編集部
運動が糖尿病神経障害に悪い影響を与える場合の危険因子や兆候について教えてください。
相澤さん
運動時の危険因子としては、「足の傷・潰瘍」や「転倒」が挙げられます。足に損傷や潰瘍がある場合には、運動方法によっては状態が悪化する可能性があります。また、運動時にフラフラして転びそうになるなどの症状が表れる場合には、運動の方法を検討する必要があります。適切な医療の専門家(かかりつけの医師や理学療法士)と相談し、リスクを考慮した適切な運動のプランを作成することが重要です。
編集部
運動をする際に足の感覚が鈍い場合、どのようなことに注意する必要がありますか?
相澤さん
私たちが歩く時には、無意識に足の感覚でバランスをとるようにしています。足の感覚が鈍っている場合には、バランスがとれずに転倒してしまうこともあります。歩行などの有酸素運動は足の筋力が弱くなっている高齢者では転倒に注意が必要です。また、痛みの感覚が鈍くなっている場合には、足の裏や足の指の間に傷が出来ていても気がつかず、重症化すると切断に至る可能性もあります。そのため、運動の際には傷を作らないよう注意する必要があります。例えば、「自分の足のサイズの合った靴を履いて、靴擦れを起こさないようにする」「靴を履く前に靴の中に何か入っていないか(石や木クズなど)を確認した後に履くようにする」などの点に気をつけましょう。
編集部
そのほか、糖尿病神経障害になった人が気をつけるべき生活習慣はありますか?
相澤さん
生活をしている中で足の甲を見ることはあっても、足の裏や足の指の間をみることはほとんどないと思います。しかし、糖尿病神経障害があると、痛みの感覚が鈍くなりやすいため、足の裏や足趾の間に傷ができていても気がつかない場合があります。そのため、普段の生活の中で裸足になるタイミング(靴下の脱ぎ履きや、お風呂に入ったときなど)で傷はないかを確認する習慣をつけるといいでしょう。傷があればすぐに医療機関を受診して、処置をしてもらうことで自分の足を守ることができます。また、湯たんぽや電気ストーブ、こたつなどによる低温やけどに気がつかずに、やけどから傷になって感染症を起こしてしまう人もいますので、できるだけ使用を避けることをおすすめします。
編集部まとめ
今回は、糖尿病の3大合併症の1つである「糖尿病神経障害」について詳しく解説していただきました。高血糖による神経細胞の変化や血流不足が原因で起こり、しびれや神経痛などの症状に始まり、感覚鈍麻に気づかないでいると「糖尿病足病変」をきたしてしまう可能性もある怖い合併症であるとのことでした。運動は糖尿病神経障害の進行を抑えるのに効果的であるため、日常で定期的におこなっていきたいですね。