「双極性障害」を医師が徹底解説 診断基準や症状、うつ病との違いは?
ここ数年、「うつ病」という言葉を耳にする機会は増えてきましたが、じつはうつ病と思われている人の中にも、隠れ「双極性障害」がいることをご存じでしょうか? うつ病と双極性障害は同じ精神疾患ではありますが、はたしてどのような違いがあるのか。今回はうつ病と間違われやすい双極性障害について、「Baseクリニック赤坂」の吉岡先生に解説していただきました。
監修医師:
吉岡 鉱平(Baseクリニック赤坂)
目次 -INDEX-
双極性障害(躁うつ病)の症状や診断基準を精神科医が解説 うつ病との違いは?
編集部
まず、うつ病について教えてください。
吉岡先生
「うつ(うつ状態・抑うつ状態)」とは、抑うつ気分、興味や喜びの消失など、うつ病の診断基準としての「抑うつエピソード」を部分的に満たす状態を指します。抑うつエピソードの複数項目を満たし、それらが2週間以上、ほとんど毎日、1日中持続し、日常生活に支障が生じるような場合はうつ病の可能性があります。
編集部
双極性障害についてはいかがでしょうか?
吉岡先生
双極性障害は、うつ病と同じ気分障害に分類されますが、うつ病とは似て非なる病気です。うつ病は「うつ状態」だけが生じる一方、双極性障害はうつ状態と気分が高揚する「躁状態」または「軽躁状態」を周期的に繰り返すのが特徴です。一般的には「躁うつ病」と言われることもあります。
編集部
躁状態と軽躁状態があるのですか?
吉岡先生
はい。躁状態の程度によって、双極性障害もⅠ型とⅡ型に分けられます。激しい気分の高揚により、仕事やプライベートで明らかな問題を生じてしまうレベルの躁状態を呈するのが「双極Ⅰ型障害」で、より軽度な気分の高揚(軽躁状態)を呈するのが「双極Ⅱ型障害」です。
編集部
なるほど。
吉岡先生
「うつ病だと思って治療を続けても改善せず、じつは双極性障害だった」ということも意外と多いのです。とくに、うつ病として治療されている患者さんの中には、隠れた双極Ⅱ型障害が多いと言われています。その理由として、軽躁状態のときは気分が良い状態だと感じる程度で自身の軽躁状態に気づかず、単に「うつ病が改善した」「元気になった」と思い込んで受診を中断してしまったり、調子が上がっている時期があったことを医師に報告しなかったりする人も多く、医療者側も軽躁状態があることに気づくのが遅れてしまうのです。
双極性障害(躁うつ病)の原因と不安障害・依存症など主な合併症
編集部
双極性障害の原因はなんでしょうか?
吉岡先生
現時点では、いくつかの原因があるとされていますが、遺伝的要素が強いとされています。また、養育環境や社会的ストレス、睡眠などとの関係も報告されています。ほかにも双極性障害の人は、うつ病の患者さんと比べて、脳の「前頭葉」を呼ばれる部分の一部が痩せている(萎縮)ことなどが指摘されていますが、そのメカニズムについては、今のところよくわかっていません。
編集部
双極性障害には、合併症も多いと聞きました。
吉岡先生
そうですね。双極性障害では不安障害や依存症など、ほかの精神疾患を併存することが多いと言われています。併存疾患の症状が強い場合、双極性障害の診断が遅れたり、治療方針が決まりにくかったりすることもあります。実際、「不安障害や依存症などを訴えて受診してきた人が、じつはベースに双極性障害があった」というケースも多いですね。
双極性障害と診断されたら治療法はある? 薬物療法で用いられる薬の種類
編集部
双極性障害の治療は、どのようにおこなわれるのですか?
吉岡先生
薬物療法と心理・社会的療法が主な治療法です。双極性障害の治療においては、うつ病治療で一般的に用いられる抗うつ薬や抗不安薬の内服で症状が増悪するリスクがあり、うつ病の治療で症状が改善しない場合は、漫然と治療を継続するべきではありません。薬物療法では、気分安定薬である「炭酸リチウム」や「バルプロ酸ナトリウム」、非定型抗精神病薬の「オランザピン」や「クエチアピン」などが状態に応じて処方されることが多いですね。
編集部
薬物療法は副作用が心配です……。
吉岡先生
双極性障害の治療薬には、定期的な血中濃度の定期的な測定や用法・容量を厳密に守る必要がある薬も含まれます。また、体重増加などの副作用が出る薬剤もあり、きちんとした診断のもとに症状と副作用のバランスを見ながら、どのように治療をおこなっていくか、医師とコミュニケーションを取りつつ薬を適切に選んでいくことが大切です。
編集部
心理・社会的療法についても知りたいです。
吉岡先生
軽症例の場合、薬物治療よりも、心理・社会的療法だけである程度改善することもあります。具体的には、食事や栄養素の見直し、睡眠や生活リズムの調整、無理のない範囲で運動習慣などの生活スタイルの改善と共に病気についての理解を深め、対処法を学びます。また、陥りやすい考え方のクセや行動パターンなどをある程度自覚できるように練習していきます。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
吉岡先生
うつ病の治療を継続しているのに中々良くならない場合や、状態が良くなったり悪くなったりを周期的に繰り返しているような場合、双極Ⅱ型障害の可能性も含めて治療を再検討してみることが大切です。双極性障害の場合、うつ病の治療薬の漫然投与で症状が増悪してしまっているリスクもあります。丁寧に経過を追っていかなければ正しい診断に辿り着けない疾患なので、ちょっとした変化でも医師に報告することが大切です。
編集部まとめ
今回は、うつ病と双極性障害の違いや治療法について、解説していただきました。双極性障害はⅠ型とⅡ型があり、Ⅱ型の場合はうつ病との鑑別が難しいとのことでした。実際に「うつ病だと思って治療しても治らず、しばらく経ってから双極性障害だったことが発覚した」というケースも多いのだそうです。メンタルの不調を感じたら、近くの精神科や心療内科に相談してみてはいかがでしょうか。
医院情報
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アクセス | 東京メトロ「溜池山王駅」 徒歩1分 東京メトロ「赤坂駅」 徒歩5分 |
診療科目 | 心療内科、精神科、アレルギー科、麻酔科 |