「メタボ」の診断基準をご存じですか? 医師解説、内臓脂肪が蓄積するとどんな病気の危険が?
メタボリックシンドロームを防ぐには、「放置するとどのようなリスクがあるのか」「そもそもメタボとはどのように定義されるのか」など、正しい知識を身につけることが大事です。そこで清水ヶ岡糖尿病内科・皮フ科クリニックの清水先生に、メタボリックシンドロームの診断基準やリスク、予防法などを教えてもらいました。
監修医師:
清水 裕史(清水ヶ岡糖尿病内科・皮フ科クリニック)
目次 -INDEX-
健康診断で判定されるメタボリックシンドローム(メタボリック症候群)とは? メタボの診断基準は腹囲以外にもある?
編集部
メタボリックシンドロームとはなんですか?
清水先生
内臓肥満に高血圧、脂質異常、高血糖などが合わさった状態のことをいいます。一般に「メタボ」という名称でも知られています。
編集部
なぜ、メタボリックシンドロームになるのですか?
清水先生
主に偏った食生活や運動不足、肥満、睡眠不足、喫煙などが原因となって引き起こされるとされています。
編集部
どのようにして診断されるのですか?
清水先生
【メタボリックシンドロームの診断基準】
・必須項目(内臓脂肪蓄積)
ウエスト周囲径 男性 ≥ 85cm
女性 ≥ 90cm
内臓脂肪面積 男女ともに ≥ 100cm2に相当
・選択項目
3項目のうち2項目以上
1、高トリグリセライド血症 ≥ 150mg/dL
かつ/または 低HDLコレステロール血症 < 40mg/dL
2、収縮期(最大)血圧 ≥ 130mmHg
かつ/または拡張期(最小)血圧 ≥ 85mmHg
3、空腹時高血糖 ≥ 110mg/dL
編集部
メタボと肥満は違うのですか?
清水先生
肥満症の場合、一般にBMIが25以上であることが診断基準になります。一方メタボリックシンドロームの場合はBMIではなく、内臓脂肪の蓄積が診断基準となります。
メタボの危険性と「メタボリックドミノ」を医師が解説 メタボリックシンドロームを放置すると糖尿病や高血圧症の危険も?
編集部
メタボリックシンドロームはなぜ、危険なのですか?
清水先生
メタボリックシンドロームを発症すると、ほかの病気を引き起こすリスクが高くなるからです。たとえばメタボリックシンドロームになると、脳梗塞や心筋梗塞を引き起こしやすいとされています。
編集部
なぜ、メタボリックシンドロームになると脳梗塞や心筋梗塞になりやすいのですか?
清水先生
内臓脂肪が蓄積すると、脂肪細胞からPAI-1(パイワン)という物質が多く分泌されます。この物質は血栓を引き起こす性質があるため脳梗塞や心筋梗塞を引き起こしやすくなるのです。
編集部
そのほか、メタボリックシンドロームを放置するとどのようなリスクがありますか?
清水先生
メタボリックシンドロームになると高血圧や糖尿病を発症するリスクもあります。そのほか、メタボリックシンドロームになるとそうでない人に比べ、2型糖尿病になるリスクは約3倍、心血管疾患を起こしたり、死亡したりするリスクは約3倍になるといわれています。
編集部
いろいろな疾患のリスクが上がるのですね。
清水先生
そもそもメタボリックシンドロームは生活習慣の乱れや肥満、遺伝・体質などの要因が重なって起こります。そして、メタボリックシンドロームの状態になると脂肪肝、高血圧、脂質異常症、高尿酸血症、糖尿病、虚血性心疾患、脳血管障害、心不全などさまざまな疾患のリスクが高まります。このようにさまざまな危険因子が時系列に連鎖し、次々とリスクを引き起こすことをドミノ倒しに見立て、「メタボリックドミノ」と呼んでいます。
診断基準以下でも気をつけたいメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の予備軍とは? メタボ予防・改善法・治療も知りたい
編集部
メタボリックシンドロームの基準以下であれば、安心して良いのでしょうか?
清水先生
一般に、腹囲が男性85cm以上、女性が90cm以上で、脂質異常症、高血圧、高血糖のうち1つ該当すると「メタボリックシンドローム予備軍」とされます。予備軍の人が生活習慣を改めなければそのままメタボリックシンドロームへ移行してしまうのは、時間の問題かもしれません。その段階で予防に気をつける必要があります。
編集部
メタボリックシンドロームを予防するにはどうしたら良いのでしょうか?
清水先生
重要なのは運動と食事です。運動習慣を身につける、規則正しい食生活を守る、摂取カロリーを控えて肥満を避けるなどは、メタボ予防の基本。糖質や塩分の取りすぎにも注意しましょう。それから節酒や禁煙を心がけることも大切です。
編集部
メタボリックシンドロームと診断されたら、どうしたら良いのでしょうか?
清水先生
治療でも運動療法と食事療法が基本になります。また、BMIが35以上の人には、場合によってはサノレックスなどの抗肥満薬を用いて食欲を抑える薬物治療が行われることもあります。また最近では、肥満に伴う病気(糖尿病、高血圧など)を発症している場合には、胃を小さくするなど外科手術を行うこともあります。
編集部
最後に、Medical DOC読者へのメッセージがあれば。
清水先生
現在、糖尿病の治療にはGLP-1受容体作動薬などが用いられます。しかし最近では「痩せ薬」として知名度が高まり、糖尿病ではない人がオンライン診療などで簡単に入手し、服用するケースも増えています。特に2023年4月には、さらに強力なGIP/GLP-1受容体作動薬という新薬が登場し、痩身のために利用する人が増加傾向にあります。その結果、薬の数が不足して、本来これらが必要な糖尿病患者に薬がまわってこないケースも起きています。メタボで悩んでいる方、あるいはメタボ予備軍と診断された方が、血液検査など必要な事前検査も行わずにこのような薬を使うと、肝機能障害などの服作用が起きることもありますし、学会も注意を喚起しています。単に肥満を解消したいからといって、容易にこれらの薬に手を出すことは控えるようにしましょう。
編集部まとめ
日本では2000年度より、「21世紀における国⺠健康づくり運動(健康⽇本21)」が展開され、メタボリックシンドロームや糖尿病、脳・心血管疾患などの患者数減少に対する取り組みが進められています。しかし一番大事なのは、一人一人の心構え。生活習慣を見直し、正しい食生活を継続することで、メタボと縁遠い健康的な生活を送りましょう。
医院情報
所在地 | 〒467-0034 愛知県名古屋市瑞穂区彌富町桜ケ岡4-1 |
アクセス | 地下鉄名城線「総合リハビリセンター駅」2番出口 徒歩4分 名古屋市営バス 清水ヶ岡バス停前 |
診療科目 | 内科・皮膚科 |