閉経後に骨粗鬆症になりやすくなるのはなぜ? 医師が解説する原因と予防・治療法
女性に多く発症する骨粗鬆(しょう)症。将来的に寝たきりになるリスクが高く、注意が必要な疾患です。特に気をつけたいのが閉敬後。なぜ、閉経後は骨粗しょう症発症のリスクが高まるのでしょうか。予防法も含め、藤沢駅前順リハビリ整形外科の渡邉先生に教えてもらいました。
監修医師:
渡邉 順哉(藤沢駅前順リハビリ整形外科)
目次 -INDEX-
閉経後に骨粗鬆症になりやすくなるメカニズムとは? 女性ホルモン・エストロゲンの低下が骨粗しょう症に関係しているって本当?
編集部
閉経後、骨粗しょう症になる女性が多いと聞きました。それはなぜですか?
渡邉先生
女性は閉経を迎えると、女性ホルモンの分泌が減少します。これにより骨粗しょう症を発症しやすくなるのです。
編集部
骨粗しょう症の発症に、女性ホルモンが関係しているのですか?
渡邉先生
女性ホルモンのひとつ、エストロゲンは骨の健康を保つのに深く関与しています。簡単にいうと人間の骨は、古い骨を取り壊す「破骨細胞」と、新しい骨を作る「骨芽細胞」の働きによって、常に健康な状態に保たれています。通常、エストロゲンはこの2つの細胞に作用しています。
編集部
それが閉経後、エストロゲンの分泌量が低下するとどうなるのですか?
渡邉先生
エストロゲンが減ると破骨細胞の働きが盛んになり、骨芽細胞の働きが追いつかなくなってしまいます。そのため、骨量や骨密度が減って骨がスカスカになってしまいます。この状態を「閉経後骨粗しょう症」といいます。
編集部
骨粗しょう症になると、どうなるのですか?
渡邉先生
骨の強度が低下するため、簡単に骨折しやすくなり、場合によっては何もせずとも折れることがあります。特に高齢者の場合、さらに骨粗しょう症が悪化していくため、背骨や大腿骨を骨折することでかなり高い確率で寝たきりになるリスクが高くなるので、注意が必要な状態です。
編集部
そのほか、骨粗しょう症のリスクにはどのようなものがありますか?
渡邉先生
研究データにより、骨粗しょう症により背骨や大腿骨を骨折すると寿命が短くなることがわかっています。それは、背骨が圧迫骨折を起こしたり、大腿骨を骨折したりすると、健康寿命が縮まるからです。特に骨粗しょう症により大腿骨を骨折すると、がん以上に寿命が短くなるというデータもあります。
女性が閉経後に骨粗鬆症にならないための予防方法は? 閉経前・更年期からカルシウムの摂取や骨密度対策をするべき?
編集部
閉経後、骨粗しょう症にならないためにはどうしたら良いのでしょうか?
渡邉先生
まずは、適度な運動をすることです。運動は筋肉を鍛える効果だけでなく、骨に刺激を与えて強化したり、再生を促したりする効果もあります。元々運動習慣がない方は、無理のない範囲でウォーキングやジョギングなどから始めてみましょう。慣れてきたら、これらの運動は荷重により下肢の骨に適度な物理的な刺激を与えるので、骨を強くするのに適しています。
編集部
ほかに、どのような運動が適していますか?
渡邉先生
有酸素運動に加え、筋力トレーニングを行なうと良いでしょう。腹筋や背筋などの体幹の筋力や大腿四頭筋やハムストリングス、大殿筋などを鍛えるのも良いでしょう。これはフィットネスジムでも良いですが、毎日自宅でやっていただくだけでも効果があります。ポイントは翌日もしくは翌々日に辛くない程度の筋肉痛が出る程度の負荷を与えることで、筋力は向上しやすくなります。筋力を鍛える場合は、タンパク質やビタミンの十分な摂取も大事になります。
編集部
ほかにはどのようなことに気をつければ良いでしょうか?
渡邉先生
骨に必要な栄養素を日々十分摂取することもとても大切です。特に不足しがちで、積極的に摂りたい栄養素はカルシウムと、カルシウムの吸収を助けるビタミンDになります。カルシウムは乳製品や大豆製品に多く含まれているので、積極的に摂りましょう。またビタミンDは魚介類や卵、乳製品などに多く含まれています。そのほか、ビタミンK、タンパク質、ビタミンB群(B6、B12、葉酸)、マグネシウムも骨の健康を守るために必要です。
編集部
そのほかには?
渡邉先生
ビタミンDを増やすために、日光を浴びることも大切です。日光を浴びると体内でビタミンDの生成が促されます。そのため毎日30分程度は散歩をするなど、習慣化すると良いでしょう。ただし、日焼けやシミの防止目的や日中の外出が難しいなどの理由で日光を浴びるのが難しい場合は、毎日魚を食べたり、サプリメントでビタミンDを摂取すると良いでしょう。
編集部
骨密度が改善されたかどうかは、どうやってわかるのですか?
渡邉先生
骨密度は多くの場合整形外科で測定して判断します。閉経が近くなったら、最低年に1回は整形外科で骨密度を測定してもらうと良いでしょう。ときどき「去年測定して問題なかったらから今年は検査をしなくても大丈夫」という方がいらっしゃるのですが、女性の50代は人生で最も骨密度が急激に落ちやすい時期です。そのため閉経以降は、たとえ昨年は問題なくても、少なくとも年に1回は定期的に測定して数値を比較することが重要です。
編集部
骨密度を測定する時に気をつけることはありますか?
渡邉先生
骨密度を測定するにはいろいろな方法がありますが、できる限り大腿骨と腰椎の骨密度を測定することが大切です。これは、大腿骨や背骨の骨折が寿命に大きく関わってくるからです。骨粗しょう症の診療基準でも原則的に「大腿骨と腰椎の骨密度を測定していずれか低い方の骨密度で診断する」ように決められています。そのため、医療機関のホームページを確認して大腿骨と腰椎の骨密度を測ることができる医療機関を受診することが大切です。
閉経後の骨粗鬆症治療を医師が解説 骨密度改善は薬物治療が第一選択? 食事療法や生活指導の内容は?
編集部
骨粗しょう症と診断された場合には、どのような治療が行われるのですか?
渡邉先生
- 骨吸収を抑制する薬(骨を壊す働きを抑える)
SERM(サーム)製剤、ビスフォスフォネート製剤、デノスマブ製剤など - 骨の形成を促進する薬(骨芽細胞が骨を作る働きを促進する)
テリパラチド製剤、アバロパラチド製剤、ロモソズマブなど - 骨の材料となる薬
ビタミンD3製剤、ビタミンK2製剤、カルシウム製剤、マグネシウム製剤、ビタミンB製剤など
編集部
薬物療法以外には、どのような治療が行われるのですか?
渡邉先生
骨粗しょう症の治療の目的は骨密度や骨質を改善させ、骨折を予防することにあります。しかし、薬による治療だけでは骨密度が上がりにくいことも多く、運動療法や食事療法などを行い、骨への物理的刺激を上げたり、骨が作られるための材料となる栄養素を十分に摂取したりすることでより骨密度が上昇しやすくなります。
編集部
治療効果はどれくらいで現れるのですか?
渡邉先生
骨粗しょう症は、女性ホルモンの減少に伴いほとんどの女性は避けては通れない病気であり、一生治療の継続が必要という場合も少なくありません。せっかく治療を始めても、医師の指示通りに服薬を継続できないという人もいらっしゃいます。しかし、骨粗しょう症の治療は、最低4カ月毎でないと健康保険を使って検査することができないことに加え、やはりそれくらいは検査と検査の期間をあけないと骨密度が上がったのか評価が難しいものです。「なかなか治療効果が見られない」「特に痛みなどの症状がないから治療は必要ない」など自己判断せず、あまり構え過ぎず、早めに検査・治療を始めて、根気よく継続することがとても大事になります。
編集部
薬を使わずに治療することはできませんか?
渡邉先生
「なるべく薬を使わずに治したい」とよく相談を受けます。生活習慣病と呼ばれる糖尿病、高血圧、脂質異常症などは、暴飲暴食や運動不足などが主な原因になるため、原因に対して食事療法や運動療法が最も大事になってきます。しかし、閉経後の女性の場合、骨粗しょう症はエストロゲンという女性ホルモンの分泌量が大幅に減ったことが主な原因となっていますので、食事療法や運動療法だけで治療するのは原則難しいと思ってください。
編集部
最後に、Medical DOC読者へのメッセージがあれば。
渡邉先生
女性は閉経が近くなったら必ず自分の骨密度を調べてください。日本では検査が必要な年齢なのにきちんと検査を受けている方はたったの10%程度と非常に低い状況であり、結果的に高齢者の大腿骨や背骨の骨折を大量に招いています。大腿骨と腰椎の骨密度を最低でも毎年検査することに加え、レントゲン検査でいつの間にか骨折がないか、血液検査で破骨細胞や骨芽細胞の働きやビタミンDやカルシウム、タンパク質が不足していないかまで調べることもとても大事です。糖尿病や脂質異常症などが骨粗しょう症と密接に絡むケースも多いので、必ず血液検査までトータルで行い、骨粗しょう症のリスクを測定するようにしましょう。一方女性だけでなく、男性にも骨粗しょう症は発症するので、60歳を超えたら測定する習慣をつけましょう。「糖尿病などの基礎疾患がある」「両親のどちらかが骨粗しょう症だった」などの場合には、40~50代でも定期的に検査を受けて頂くことをおすすめします。
編集部まとめ
基本的に骨粗しょう症は自覚症状がないため、いつの間にか発症しているものです。しかし骨粗しょう症を放置すると、将来的に大腿骨や背骨を骨折して日常生活での動作能力が大幅に下げるだけでなく、寿命が短くなります。必ず閉経が近くなったら予防として大腿骨と腰椎の骨密度を測定するとともに、食事や運動に気をつけ、予防を意識するようにしましょう。
医院情報
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診療科目 | 整形外科 |