失語症の人とのコミュニケーションの取り方を言語聴覚士が解説 ポイントや注意点も併せて紹介
失語症は、脳の中の言語を司る部位が障害されて起こる、言語障害です。失語症では「話す」だけではなく、「読む」「聞く」「書く」などの言葉に関わる機能がダメージを受けるので、日常生活で困る場面がたくさんあります。今回は、失語症の症状やリハビリテーション、やりとりするコツなどについて言語聴覚士の大井さんにお話を伺いました。
監修言語聴覚士:
大井 純子(言語聴覚士)
目次 -INDEX-
失語症とはどんな病気?症状や原因、リハビリ方法を解説
編集部
失語症とはどのような病気でしょうか?
大井さん
言語を司る脳の一部がダメージを受けることで起こる、言語障害のことです。原因としては、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害、脳外傷(交通事故などで脳に損傷を受けること)などがあります。障害を受けるのは言語に関する機能だけなので、思考能力などは低下しません。
編集部
失語症はどのような症状でしょうか?
大井さん
・聞く:相手の話が聞こえても意味が理解できない
・話す:言いたい言葉がうまく出てこない、違う言葉などに言い誤る
・読む:文字や文章を読んでも意味がわからない
・書く:文字が思い出せない、書き誤る
不自由になるといっても症状の程度には個人差があるので「名前など身近な言葉も言えない」方から「文章ですらすら話せる」方まで、さまざまです。
編集部
失語症には種類がありますか?
大井さん
・全失語
・ブローカ失語
・ウェルニッケ失語
・失名詞(健忘)失語
編集部
それぞれの特徴について教えてください。
大井さん
全失語は、言語面全般に重篤な症状がある、重度の失語症です。決まった言葉しか言えず、多くの場合言葉による意思の伝達は困難です。ブローカ失語は、なめらかに話すのが難しく、ぎこちない話し方になる傾向があります。ウェルニッケ失語は、なめらかに話せますが、言い間違いが多く、自分では気づきにくいのが特徴です。相手の言葉の理解も難しいために、会話で行き違いが起こりやすくなります。失名詞(健忘)失語は比較的軽度とされていますが、物の名前が出てきにくいので、文章で話せても回りくどい説明になるのが特徴です。大切なのは、その方の状態を把握して、適切なリハビリや、やりとりをすることです。失語症状を分類すること自体は、重要ではありません。
編集部
失語症のリハビリではどのようなことをするのでしょうか?
大井さん
■リハビリの例
・聞く:単語や文を聞いて該当する絵カードを指さす
・読む:単語や文章を読んで該当する絵カードを指さす、文章題を解く
・話す:絵カードを見て名前を言う、内容を説明する
・書く:名前や日付、身近な単語を書く、文章を書く
編集部
失語症の人が日常生活で困ることはなんでしょうか?
大井さん
・日常会話での意思の伝達
・電話応対や留守番
・医療機関の受診や金融機関での手続き
・買い物におけるお金のやりとり
・飲食店での注文
・公共機関での表示の理解
言葉でのやりとり、読み書き、お金の計算などに関わる場面が難しくなります。
失語症の人とやりとりする際のポイント3つを紹介! どのようなことに気をつけるべき?
編集部
失語症の人に話しかける時のポイントを教えてください。
大井さん
失語症の方とコミュニケーションをとる際は、「ゆっくり」「わかりやすく」「簡潔に」「キーワードを紙に書きながら」話しかけることを意識しましょう。長い文で、複数の情報を一度に伝えると、聞き誤りやすくなります。たとえば「お昼ご飯のあとにタクシーで病院に行って薬をもらいましょう」であれば、「お昼ご飯のあと病院に行きましょう。タクシーで行きます。薬をもらいましょう」などと、間をあけながら、分割して伝えるのもよいですね。その際に「病院、車、薬」などのキーワードを紙に書きながら伝えると、さらに理解しやすくなります。ただし、子どもに話しかけるような話し方は避けるべきです。失語症の方は言語のやりとりが難しいだけで、思考力や判断力は保たれています。わかりやすく伝えながらも、礼節を保ち、大人として接することが大切です。
編集部
失語症の人の話を聞く時のポイントはありますか?
大井さん
・ゆっくり、せかさず聞く
・相手の言葉が出てこなくても、先回りしすぎない
・言い誤っても推測できたら指摘しない
言葉が出てくるのに時間がかかりやすく、せかされるとさらに出にくくなります。言葉が出にくいからと先回りして言うと、ご本人の意図とくい違う可能性もあります。まずはゆっくりと時間をかけて、先回りせずにご本人の話を聞きましょう。言いたいことが推測できる誤りは指摘せずに、推測できない場合には「〇〇のこと?」などと質問して、内容を推測していきましょう。
編集部
待っても言いたいことが言えない場合どうしたらいいでしょうか?
大井さん
・「はい/いいえ」で答えられる質問をする(例:「肉が食べたいですか?」)
・選択肢から選べるような質問をする(「どれが食べたいですか?魚?肉?卵?」など)
・絵を指さしてもらう
推測できる範囲で質問して、答えられるようにするとよいでしょう。また、「食べ物」など大まかなくくりがわかっているのであれば、絵や写真を指さしてもらうのも有効です。
非言語でのコミュニケーションはできる? 注意点やコツを言語聴覚士に聞く
編集部
言葉が全く出てこない重度の失語症の人とコミュニケーションを取るコツはありますか?
大井さん
言葉が全く出てこない方の場合には、「コミュニケーションノート」を利用するとよいでしょう。コミュニケーションノートとは、よく使う、日常会話で必要な言葉に関する、絵や写真を一纏めにして作成したノートのことです。インターネットには市販の物、その方に合わせて作成した物などさまざまな物がのっています。参考にしながら、ご本人に合った内容を付け加えていくとよいでしょう。
編集部
失語症の人とジェスチャーでやりとりすることはできますか?
大井さん
失語症の方に話しかける際には、ジェスチャーも交えるとわかりやすくなります。しかし、失語症の方が意思を伝える手段としては、難しい場合も多いのです。重度の失語症だと、言語面だけではなくジェスチャーも障害されることがあります。その場合は言えない言葉の代わりにジェスチャーで伝えるのは困難です。リハビリのコミュニケーション訓練として、ジェスチャーや描画を練習することもあります。
編集部
50音表を使うのはいかがでしょうか?
大井さん
失語症の方に50音表はおすすめできません。失語症状があると、話すだけではなく文字を読むことも障害されるため、50音表を利用して意思を伝えるのは、多くの場合困難です。50音表が有効なのは、唇や舌の麻痺などによって発音がしにくくなる、構音(発音)障害の方です。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
大井さん
失語症の方は、言語に関してさまざまな困りごとが想定されて、日常のやりとりにも支障が出ます。周囲の方が症状について理解してやりとりを工夫することで、意思が伝わりやすくなり、会話する喜びにつながるでしょう。また、会話自体が話す練習につながります。失語症の方とのコミュニケーションにお役立てください。
編集部まとめ
失語症は脳のダメージが原因で起こる言語障害で、言語に関するさまざまな症状が出ます。リハビリについて知りたい場合には、主治医や医療機関、ケアマネジャーなどに確認して、言語聴覚士に相談しましょう。