花粉症治療の「舌下免疫療法」は効果がない人もいる? 医師がダニやスギなどのアレルギー物質との関係を解説
花粉症をはじめとするアレルギー性鼻炎に悩む人が、ここ10年ほどで大幅に増えているそうです。対策としての抗アレルギー薬はアレルギーそのものを改善するわけではなく、アレルギーに対する根治療法は現在のところ「舌下免疫療法」しかないそうです。今回は、舌下免疫療法の仕組みや効果について、「渡部クリニック」の渡部先生にお話を伺いました。
監修医師:
渡部 顕(渡部クリニック)
目次 -INDEX-
花粉症治療で「舌下免疫療法」は効果なし? 医師が舌下免疫療法の仕組みを解説
編集部
そもそも、花粉症はなぜ起こるのですか?
渡部先生
花粉症はアレルギーの一種で、花粉(主にスギ花粉)に対して、体が「異物を排除しよう」と攻撃を始めてしまい、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目の痒みなどが表れます。この「異物を排除しよう」という働きを「免疫」と言います。花粉そのものが悪いわけではなく、体内に入ってきた花粉を排除しようとして、体が過剰に反応してしまうことで花粉症の症状が出るのです。
編集部
それらを和らげるのが、「舌下免疫療法」ということですか?
渡部先生
そのとおりです。舌下免疫療法は、花粉症やダニによるアレルギー性鼻炎に対する唯一の根治療法です。アレルギーの原因物質である「アレルゲン」を少しずつ体に取り入れることで、体を徐々にアレルゲンに慣らしていきます。アレルゲンに対する反応を徐々に減らしていくので、「減感作療法」とも呼ばれています。
編集部
抗アレルギー薬は、根治療法ではないのですか?
渡部先生
はい。抗アレルギー薬はアレルゲンが原因で起こる、くしゃみや鼻水、鼻づまり、目の痒みなどの症状を抑える「対症療法」であり、根本的な治療とは異なります。
編集部
舌下免疫療法は、「効果がない」という場合もあるのですか?
渡部先生
たしかに、「舌下免疫療法を受けたのに症状が改善しない」という人がいらっしゃるのは事実です。これは、例えば「治療を始めてから、実際に十分な効果が実感できるまでに3~5年ほどかかる」ことなどが理由として考えられます。治療を開始してから1~2年は効果が出ているものの十分でなく、そういった時期に例えば治療開始前のシーズンよりも多くの花粉が飛散すると、「症状がよくならない」と感じてしまう人もいます。また、それらに当てはまらなくても、効果が感じられないという人が1割程度いらっしゃるようです。
花粉症・アレルギー治療で舌下免疫療法の効果は何割の人にある? 効果がいつから出るのか・持続期間も医師が解説
編集部
舌下免疫療法の実際の効果について、もう少し詳しく教えてください。
渡部先生
舌下免疫療法を含むアレルゲン免疫療法では、「現在、患者さんの約80%以上に有効性がある」と確認されています。くしゃみや鼻水、鼻づまり、目の痒みといった症状が長期にわたって寛解、もしくは軽減されています。「毎年、抗アレルギーの内服薬や点鼻薬などの複数の薬が手放せなかった」という人も、舌下免疫療法を開始することによって「薬なしで花粉症シーズンを過ごせた!」という声もあるほどです。
編集部
どれくらいで効果が出ますか?
渡部先生
治療開始から1年ほどで効果は十分に感じられると思いますが、元に戻りやすい傾向にあります。そのため、先述したとおり最低でも2年間、一般的には3~5年は治療を継続していただきたいので、長期にわたる通院が必要です。通院の頻度は、だいたい1カ月に1回が目安です。
編集部
舌下免疫療法が受けられない人はいるのでしょうか?
渡部先生
多くの人は受けることができます。適応外は重度の気管支喘息がある人です。ほかには、重度の心臓や肺の疾患がある人、がんがある人、高血圧の人、ステロイドを使用している人などや口腔内に傷・炎症がある場合や妊娠中・授乳中の人も注意が必要なので、必ず医師に判断を仰いで舌下免疫療法を受けましょう。
編集部
舌下免疫療法は子どもでも受けられるのですか?
渡部先生
はい。5歳以上であれば、舌下免疫療法を受けることができます。ただし、治療の流れとして舌に薬を乗せた状態で1分ほど待っていただく必要があります。まだそれが難しい子どもは難しいかもしれません。
次の花粉症シーズンの前に! 舌下免疫療法の流れや治療費用、副作用・デメリットを医師が解説
編集部
舌下免疫療法はいつでも受けられるのでしょうか?
渡部先生
ダニ(ハウスダスト)アレルギーの舌下免疫療法は、基本的にいつからでも開始できます。一方でスギ花粉症の場合は、花粉シーズンから逆算して、6~12月までの開始を推奨しています。
編集部
舌下免疫療法の治療の流れを教えてください。
渡部先生
まずはスギ花粉の花粉症、もしくはダニアレルギーであることを確認するために、アレルギー検査をおこないます。舌下免疫療法の流れは、治療薬を舌の下に置き、1分間そのままにした後に飲み込むだけです。初回の治療は、そのまま施設内で30分ほど過ごしていただき、副作用などが出ないか確認します。異常がなければ翌日からは自宅での治療となりますが、最初の1週間は通常よりも少ない量を処方して様子を見ます。1週間後の外来で、問題ないことが確認できれば、通常の量を飲む治療が開始されます。
編集部
費用はどのくらいかかりますか?
渡部先生
保険適用なので、3割負担で月に1500~2000円です。アレルギー検査を受けていない人は検査費などが上乗せされます。
編集部
治療を受ける際の注意点なども教えてください。
渡部先生
治療後、約5分間は飲食やうがいなどはせず、投与前後2時間ほどは入浴や飲酒、激しい運動は避けていただいています。また、薬なので副作用の可能性もゼロではありません。軽微ではありますが、口の中のかゆみや腫れ、口内炎や喉の刺激感、そして頭痛などが起こる場合もあります。ただ、こちらは数日で改善されます。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
渡部先生
花粉症の人は年々増加しています。発症年齢や症状も多岐にわたり、QOL(生活の質)を大きく低下させているばかりでなく、経済的損失も増えているというデータもあるようです。花粉が飛散するのは1年のうち3カ月程度ですが、1年の約4分の1にあたる期間を、スッキリしない気持ちや薬が手放せない状態で過ごすことを考えると、必要なのは症状を和らげる対症療法ではなく、根治治療であると感じています。来年の花粉シーズンに向けて、ぜひ舌下免疫療法を検討してみてはいかがでしょうか。
編集部まとめ
今回は、舌下免疫療法の効果や治療の流れなどについて、解説していただきました。「花粉に対して、体が過剰に反応してしまうというメカニズムを根本から改善していく」という治療法は、花粉症に悩む人の生活を大きく変えることができるかもしれません。毎年、花粉症で辛い思いをしている人は、舌下免疫療法という選択肢も頭に入れておきましょう。
医院情報
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診療科目 | 内科、小児科、アレルギー科、呼吸器内科、皮膚科、外科 |