花粉症の舌下免疫療法に卒業はないのか「薬の量や副作用を減らせる効果に期待して」
舌下免疫療法で用いるタブレットには、スギやダニのエキスを薄めた成分が含まれています。このタブレットで免疫を適切にトレーニングすれば、過度なアレルギー反応は抑えられるでしょう。しかし、問題は免疫の学習効果の持続時間です。はたして、一生続くものなのかを「深谷耳鼻咽喉科クリニック」の深谷先生が解説します。
監修医師:
深谷 和正(深谷耳鼻咽喉科クリニック)
「スギかダニ」のみの治療方法
編集部
花粉症の舌下免疫療法は、誰でも受けられるのですか?
深谷先生
いいえ。日本国内では「ダニとスギのアレルギー」に限られます。例えば、小麦粉のアレルギー対策で舌下免疫療法を受けたくても、国内ではできません。加えて、保険適用の対象が「5歳以上」となっています。
編集部
まず、「スギかダニのアレルギー」と診断されることが前提なのですね。
深谷先生
はい。診断の付くことが前提で、「おそらくスギだろう、ダニだろう」の段階ではおこなえません。したがって、採血検査やパッチテストなどで確認することも適応条件に含まれます。また、陽性反応であれば、花粉症の症状が現れていない段階での「予防策」としても有効です。
編集部
禁忌や既往歴でひっかかりそうな条件があれば教えてください。
深谷先生
舌下免疫療法は免疫に働きかける治療方法なので、重症な「免疫系の病気」のある方の場合、見送ることになっています。具体的には、ぜんそくなどですね。アナフィラキシーショックのような重篤症状は“ほぼ”みられませんが、「口の中のイガイガ感」程度なら多少なりとも感じるでしょう。しかしそれは、免疫の正常な反応です。
編集部
治療期間はどれくらいになるのでしょうか?
深谷先生
人によりますが、「3~5年間」が平均でしょうか。その間、効き具合を経過観察したいので、定期受診が必須です。そして、肝心なポイントですが「毎日タブレットを服用できること」も適応条件になってきます。もし、引っ越しなどで転院する場合は、医療情報を引き継ぐこともできますので、遠慮なくご相談ください。
効果はすぐに実感できない
編集部
続いて、治療中の注意点についてもお願いします。
深谷先生
繰り返しになりますが、経過観察と処方のための定期受診を続けてください。そして、タブレットは毎日、欠かさず服用していただきます。そのうえで、「舌下免疫療法の効き目は、すぐに現れない」ことをご理解ください。1年くらいは頑張って継続していただきたいですね。
編集部
ということは、花粉症のシーズンになってからはじめても間に合わないということですか?
深谷先生
そういうことになります。加えて、花粉症の時期にタブレットを服用すると、「本物の花粉に疑似的な花粉を重ねる結果」になって怖いですよね。ですから、“春先のスギ”だとしたら、6月くらいのオフシーズンが、舌下免疫療法の一般的な開始時期となります。そこから、来年のハイシーズンの発症を抑えていく流れです。一方“秋に顕著なダニ”だとしたら、冬からのスタートです。スギとダニの舌下免疫療法を同時におこなうことも可能で、その場合は、各タブレットの服用時間を1日の中でずらします。
編集部
舌下免疫療法は「副作用が激しい」とする説も見かけるのですが?
深谷先生
何をもって「激しい」とするかですよね。「免疫が正しく敵を認識する」まで、一定のトレーニング期間を要します。したがってこの間、一時的に「イガイガ感」のような諸症状が出ることもありますが、すぐに引いていくでしょう。舌下免疫療法の本番はここからで、一般に3~5年間かけて免疫をトレーニングしていきます。
編集部
免疫が適切に働きだせば、舌下免疫療法から「卒業」ということですか?
深谷先生
卒業される方もいますが、必ずしもそうとも言えないのです。学校で習ったことって、次第に忘れてしまいますよね。免疫も同様で、人によっては学習効果が次第に弱まっていきます。治療の効果がある程度持続するのは、平均して3~4年程度とお考えください。効き目が弱くなってきたと感じたら、再び、舌下免疫療法を検討しましょう。なお、日本アレルギー学会によると、舌下免疫療法の有効率は「ダニアレルギーで80~90%、スギ花粉アレルギーで約70%」となっています。
治療選択肢は流動的に考える
編集部
舌下免疫療法に卒業がないとすると、「受ける意味」ってなんでしょうか?
深谷先生
舌下免疫療法の意義は、「人生の一定期間、花粉症の薬をなくせる、あるいは減らせる」ことにあると思います。また、薬による眠気などの副作用も同様です。ですから、一般の処方薬・市販薬に抵抗感のない人や副作用が気にならない人なら、「花粉症の薬で症状を抑え続ける」ことも治療選択肢の1つと言えるでしょう。
編集部
なるほど。花粉症の症状そのものというより、「薬の量や副作用」が主眼なのですか?
深谷先生
そこまでは言いきれません。舌下免疫療法だけで症状を抑えられている患者さんもいらっしゃいますよ。ですが、一般には、免疫のトレーニングが済むまで、処方薬・市販薬の併用をしていきます。そして、処方薬・市販薬の量が次第に少なくなっていって、やがて、3年間程度は不要になるイメージです。
編集部
即効性を問うなら、鼻の粘膜のレーザー治療なども治療選択肢に上がってきますよね。
深谷先生
もちろんです。花粉症の治療方法は、患者さんのお悩みの中身や目的によって変わるでしょう。「即効性なのか持続期間なのか」「手術が嫌なのか平気なのか」「通院の手間を省きたいのかしっかり取り組むのか」など、様々ですよね。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
深谷先生
みなさんが花粉症の治療に何を望まれるのか。その点を事前に整理されてからご相談いただけると、花粉症治療の最適解へスムーズに近づけるはずです。周囲の声より「自分の声」に耳を傾けてみてくださいね。
編集部まとめ
舌下免疫療法の適応は、国内を前提にすると、スギとダニに限られます。治療中は、免疫の学習効果を高めるため、“毎日”タブレットの服用が必要です。場合によっては、花粉症の薬を併用することもあるでしょう。しかし、薬の量や副作用は、舌下免疫療法前に比べて少なくなっているはずです。あくまでイメージですが、「タブレットと減った薬の併用時期」と「タブレットも含めた薬いらずの時期」が3~4年ごとに繰り返されるような流れになります。
医院情報
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診療科目 | 耳鼻咽喉科 |