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認知症治療、漢方薬の力でケアに新たな視点を どのような症状を改善できるのか

 公開日:2023/08/05
認知症治療、漢方薬の力でケアに新たな視点を どのような症状を改善できるのか

認知症治療の一環として漢方薬が使われているのはご存知でしょうか。認知症の薬が体にあわずに悩んでいるという方もいらっしゃいますが、認知症のケアは患者本人だけでなく、その周囲にも深く影響を及ぼします。今回はあまり知られていない認知症の漢方を使った治療について、あゆみ野クリニック岩崎先生にお話しを伺いました。認知症に向き合う新しい選択肢としてぜひ参考にしていただけると幸いです。

岩崎 鋼

監修医師
岩崎 鋼(あゆみ野クリニック)

プロフィールをもっと見る
宮城県石巻市あゆみ野クリニック院長。体調に合わせた保険診療内での煎じ薬治療を実践。元東北大学附属病院漢方内科臨床教授。元日本東洋医学会東北地区専門医制度委員長。元日本老年医学会評議員。東北大学医学部出身、老年内科で医学博士取得。その後漢方内科に移籍。

「漢方薬が効く認知症」とは

「漢方薬が効く認知症」とは

編集部編集部

認知症の方に漢方薬は効くのでしょうか?

岩崎 鋼先生岩崎先生

認知症といっても原因は様々で、アルツハイマー型認知症レビー小体型認知症脳血管性認知症前頭側頭型認知症などがあり、さらに重症度や症状の出方には個人差があります。すべての方に効く万能薬のような漢方薬はありませんが、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症の治療には漢方薬が使われています。

編集部編集部

認知症の重症度も関係するのですね。

岩崎 鋼先生岩崎先生

そうですね。認知症の初期は「もの忘れ」から始まり、中等度に進むと多くのケースで「もの取られ妄想」や「暴言」など心理行動学的症状(BPSD)が出現します。BPSDは、以前「周辺症状」と呼ばれており、認知症の方やご家族の生活が困難になるのは、健忘症状そのものよりもBPSDによることが多いのです。

「認知症に効く漢方薬」とは

「認知症に効く漢方薬」とは

編集部編集部

どのような漢方薬が認知症に効くのでしょうか?

岩崎 鋼先生岩崎先生

もっとも医学的エビデンスが豊富で代表的な漢方薬は抑肝散(ヨクカンサン)です。抑肝散は明の時代の中国において「小児の不眠、精神不穏」に対して開発された漢方薬です。

編集部編集部

抑肝散にはどのような効果が期待されるのでしょうか?

岩崎 鋼先生岩崎先生

抑肝散は怒りっぽい人に効く漢方薬です。暴言など認知症の「陽性症状」に効果的であるため、最近は認知症の方が入院したときに混乱してしまう入院時せん妄でも使用されることが増えてきました。その一方で、認知症には抑うつ・食欲不振・無気力といった「陰性症状」が出現する場合があります。抑肝散は陰性症状に対しては効果が無いため、そのような点に注意が必要だと思います。

編集部編集部

抑肝散の効果を裏付けるエビデンスがありましたら、教えてください。

岩崎 鋼先生岩崎先生

山形の療養型病院において、BPSDが酷く職員が対応に困っていた方52名を、通常治療群と抑肝散服用群の2群にランダムに分けた結果、抑肝散群ではBPSDが約半分になっただけでなく、日常生活動作(ADL)が改善するという結果が得られました。

編集部編集部

抑肝散のほかにもよく使われる漢方薬はありますか?

岩崎 鋼先生岩崎先生

今年になって「加味帰脾湯(カミキヒトウ)」という漢方薬の効果を示す論文が出ました。加味帰脾湯の特徴はBPSDが改善するだけでなく、挨拶する、介護に感謝する、笑顔を見せるなど介護現場で望ましい感情表現を改善したことです。更にこの加味帰脾湯は韓国のグループから、まだ認知症には至らないが、正常よりは認知機能が落ちている、「軽度認知障害(MCI)」の人の認知機能そのものを改善させたという報告も出ています。

漢方薬が認知症に効果を示した具体的例

漢方薬が認知症に効果を示した具体的例

編集部編集部

漢方薬が認知症の方に効果を示した具体的な事例はありますか?

岩崎 鋼先生岩崎先生

訪問診療をしている時、暴言などのBPSDが強く出ている100歳代の患者さんがいて、お嫁さんが困り果てていました。1日2包の抑肝散を処方して様子をみたところ、1ヶ月もしないうちに変化が起こり「穏やかでニコニコして助かっています」とコメントされるようになりました。

編集部編集部

お嫁さんも救われた思いがしていそうですね。

岩崎 鋼先生岩崎先生

認知症は当事者だけの問題ではなく、当人と関わるご家族や医療・介護スタッフにとっての心理的負担という観点からの配慮も必要です。実はこの事例には話の続きがありまして、あまりの変化に感動したお嫁さんが「最近は私も飲んでいます」と、抑肝散を自ら内服されるようになったのです。

編集部編集部

お嫁さんも抑肝散を飲んで大丈夫なのでしょうか?

岩崎 鋼先生岩崎先生

認知症のBPSD改善に抑肝散を使う時、介護者にも飲んで貰うというのは時々やる治療です。元々抑肝散が作られたのは子どもの情緒不穏に対してだったと話しましたが、そこには「母子同服」とあります。子どもと母親の両方を治療しないと上手く行かないというわけです。認知症でも「介護者同服」はしばしば効果があります。

編集部まとめ

今回の記事では漢方薬での認知症の治療についてご紹介しました。実際の治療事例を知って、漢方を試してみたいと思われた方もいるかと思います。認知症に使われる漢方薬は多くの実績もあり症状によっては高い効果が期待できます。現在行われている治療法があわず、悩まれている方はぜひ漢方を扱うクリニックで医師に相談してみてはいかがでしょうか?

医院情報

あゆみ野クリニック

あゆみ野クリニック
所在地 〒986-0850 宮城県石巻市あゆみ野2丁目14-1
アクセス JR「石巻あゆみ野」駅より徒歩1分
診療科目 漢方内科・老年内科・心療内科・一般内科

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