眼科の検査は視力検査だけではない? 眼科の検査について視能訓練士が解説
目に異常を感じた時、多くの方は眼科を利用しているのではないでしょうか。眼科では様々な検査を行いますが、一つひとつ詳細に説明された経験がある方は少ないと思います。一体、眼科で行っている検査には、どのような意味があるのでしょうか。今回は眼科専門の検査技師ともいえる「視能訓練士」の原さんに眼科で行なう検査についてわかりやすく解説していただきました。
監修視能訓練士:
原 りえ(視能訓練士)
眼科で行われる「視力検査」は何が違う?
編集部
眼科に行ったことがなくても学校などで視力検査を受けたことがある人は多いと思います。学校で行う視力検査と眼科で行なう視力検査に違いはありますか?
原さん
学校などで行う視力検査は、おもに裸眼視力のみ、メガネをかけている方はメガネをかけた視力を検査しますが、眼科では必ず「矯正視力」も検査をします。眼科に行くと目盛りのような数字が入った不思議な形のメガネをかけて、患者さんの最高視力がわかるまで、レンズを入れ替えながら検査していきます。裸眼視力はその日の体調や環境の違いで変化するので、眼科では矯正視力の方を重要視していることが多いですね。よく誤解されていることは、裸眼視力が悪くても矯正視力で1.5程度であれば視力に関しては問題ありません。つまりメガネをかけて視力が1.5であれば、眼科医や視能訓練士から考えると“視力は悪くない”と考えます。
編集部
裸眼視力が良いことが「目がいい」ことだと思っていました。
原さん
その点が眼科と患者さんの常識のズレだなと感じるところの1つです。メガネをかけても視力が良くならない状況のことを「弱視」といいます。私たち視能訓練士がなぜ「訓練士」なのかというのは、実はお子さんが弱視にならないための訓練をするからなのです。
編集部
視力検査をするとき、「なんとなくわかるな」とあやふやな場合で答えていいのですか? ほかにも何か視力検査をするときのコツがあれば教えてください。
原さん
はっきり見えないと答えてはいけない。と思われている方も多いかもしれないですよね。しかし、なんとなく見えていたら見えたとおりに答えた方が良いでしょう。アルファベットのCのようなもの(ランドルト環)を適当に選んで出しているように思われるかもしれませんが、実はきちんとした法則に従って出しています。偶然で正解したのかそうでないのかは検査をしている過程でわかりますので、なんとなくでも、見えたように答えてください。注意点は、目を細めてしまうと正確な結果がだせない可能性があるので、できるだけ目を細めないで答えてもらうと良いと思います。
「これは何の検査?」とよく聞かれる検査とは?
編集部
検査をしていてよく質問されることは何ですか?
原さん
気球がはっきり見えたり、近くに見えたりする検査についてですね。眼科やメガネ店に初めて行かれる方の多くはこの検査を行うので「これは何を検査しているのですか?」とよく質問されます。この検査は患者さんの目が「近視」なのか「遠視」なのか「乱視」なのかがわかるだけでなく、それがどれくらいの強さなのか、ということまでわかります。
編集部
その検査をすると、ランドルト環を使った矯正視力の検査は必要ないのではないでしょうか?
原さん
この気球の検査は、あくまでも目安のデータを取るための検査です。その後、実際に矯正視力を検査することで、患者さんの目がどの程度の近視なのか遠視なのかを確認しています。機械で測定した場合の方が悪い結果になりやすかったり、様々なことが原因で正確な結果がでなかったりする場合もあるので、矯正視力を検査することはとても大切です。
編集部
視力検査にもいろいろあるのですね。やはり視力検査は眼科での診断において大切なのですか?
原さん
正しい診断のためには、様々な検査結果のデータが必要です。眼科には数え切れないほどの検査がありますが、視力検査はその中でも非常に重要な検査の1つです。人の見え方は十人十色なので、見え方を人に伝えることは非常に難しいと思います。「以前よりも見えにくくなった」と言っても、メガネをかけても見えにくいのか、遠くを見る時に見えにくいのか、それとも手元を見る時に見えにくいのか。それを客観的に示すことができるのが視力検査ですが、同時に、最も難しい検査でもあります。患者さんとのコミュニケーション能力も必要になり、簡単なようで実は難しい検査なのです。
目のケア「アイケア」について考える
編集部
自分の目に何か異常を感じた時、眼科に行き、「こんな検査をしてほしい」伝えても良いのですか?
原さん
最近は、インターネットに様々な情報が載っているので自分の症状を事前に調べてから眼科に来られる方も多くなってきています。目の病気は早期発見・早期治療が重要な場合も多いので、事前に調べることはとても良いことだと思います。もちろん、ご自分で「こんな症状が気になるのでこんな検査をしてほしい」というご希望を言って頂けることは大変ありがたいことです。
編集部
その際に気をつけることはありますか?
原さん
眼科に来られた際には必ず「問診」をします。私たちは患者さんが眼科の医師の診察に辿り着く前に、お話を伺って取りまとめる事も仕事の1つです。インターネットで調べて頂くことは良いですが、視能訓練士や医師が客観的に患者さんの状況を伺う中で、何らかの病気が疑われると考えた場合には、その病気の診断に必要な検査を行います。そのために必要な情報として、患者さんの日頃の目の状況や、些細な違和感などがとても大切になります。自分の目の変化は自分自身にしかわからないので、その変化を具体的に言葉にして頂ければ、スタッフが必要な検査を行いますので安心してください。
編集部
毎日の生活の中で、自分の目に関心をもつことは大切なのですね。
原さん
とても大切です。それが最高の「アイケア」だと考えています。「墨汁がたれたようなものが見えたので、びっくりして眼科にきました」という方が多く眼科に来られますが、その言葉を聞いた瞬間に視能訓練士は「網膜剥離」を疑います。そしてすぐに、網膜剥離の診断に必要な検査を行います。大切な目を守るためにも日々の見え方に関心を持つことが大事だと考えます。
編集部まとめ
眼科では様々な検査を行いますが、多くの方が一度は体験したことがある視力検査について詳しくお話を伺いました。一般的な「いい目」と眼科の医療従事者の考える「いい目」には、違いがあることを学ぶことができました。「まずはご自分の目に関心をもつこと。それは自分の目を守ることだけでなく、眼科に行ったときの正しい診断にも繋がる」と仰っていました。この記事を通して、少しでもご自身の「目」に関心を持つきっかけとなりましたら幸いです。