白内障手術で視力を回復させることはできる? 治療法や術後の注意点を眼科医が解説
白内障とは、カメラでいうレンズにあたる目の水晶体が白く濁る病気です。治療方法として、手術が一般的ですが、手術による治療を受けた場合、見え方はどの程度回復するのでしょうか。老眼と併発することもある白内障の予後について、うえだ眼科クリニックの上田先生から、解説いただきました。
監修医師:
上田 至亮(うえだ眼科クリニック)
近視が治るわけではないが、クリアな視界を取り戻せる
編集部
白内障と診断された場合、手術すれば、視力を取り戻せるのでしょうか?
上田先生
「視力」が何を指しているかにもよりますね。我々眼科医が言うところの視力は、わかりやすく言うと「最適なレンズを入れて得られるクリアな視界」のことで、近視や遠視とは関係ありません。「クリアな視界」という意味であれば、白内障の手術によって、若かったころと同程度くらいまでは視力の回復は可能と考えます。
編集部
詳しく教えてください。
上田先生
白内障とは、眼内でレンズの役割をする水晶体が濁ってしまうことで、視界がかすむ病気です。こちらを手術して治すことにより、「クリアな視界」を取り戻します。他方、近視や遠視は近く、もしくは遠くのモノにピントが合わなくなる状態を指します。なので、白内障治療を行い、視界のかすみを取り除いたとしても、ピント調節機能が良くなるわけではないので、近視や遠視が治るわけではありません。
編集部
ちなみに手術では、どんな方法で行うのですか?
上田先生
白内障の手術では、濁った水晶体の代わりに、眼内レンズを移植します。眼内レンズの厚みは一定なので、ピント調節が効きません。なので、近視の方が、「遠くにピントを合わせた眼内レンズ」を埋め込めば、遠方の視力は出せます。しかし、今度は、手元が見えにくくなってしまいます。
編集部
白内障の手術をしたら近くか遠くのどちらかしか見えなくなってしまうのでしょうか?
上田先生
そういうわけではありません。遠近両方に対応している多焦点眼内レンズや、遠近に限らず中距離にも対応している「三焦点レンズ」、「EDOF(イードフ)」と呼ばれる焦点距離の長いレンズもあります。ただし、一つの光を多焦点に振り分けますので、「光のにじみ」や「コントラスト感度の低下」などが報告されています。
編集部
光のにじみやコントラスト感度は、個人差があるのですよね?
上田先生
もちろんです。また、脳の画像処理能力によって、慣れてくる方もいらっしゃるようです。とはいえ、夜間に乗車されるドライバーさんや、細かな色を使い分けるアーティストさんなどは要注意ですね。場合によっては、単焦点レンズとメガネを組み合わせたほうがいいかもしれません。
編集部
ほか、注意したい年代や患者層はありますか?
上田先生
白内障は高齢者に多い病気ですが、若い方でも白内障を発症することがあります。老眼が始まる前は、ピント調節が十分に機能していますよね。このため、早期に手術を受けると、ピント調節機能の喪失により違和感が生じるようです。「クリアな視界」を優先するのか、「裸眼での生活」を優先するのか、慎重に見極めていく必要があるでしょう。
若いうちから見えるようにしておくことが大切
編集部
白内障は自覚できるのですか?
上田先生
自覚のない方が多いですね。白内障は長い年月をかけて徐々に進行するため、日々の変化に気づきにくいのです。また、脳には、ぼやけた画像を鮮明に補正する機能が備わっています。ですから、視力を測っても、そこそこの数値が出ます。医師からしたら、「心眼で見ているのか」と思うくらいの場合もあります(笑)。
編集部
でも、白内障は治すべき病気ですよね?
上田先生
そうですね。見え方の個人差もありますが、白内障の手術を受けると、「家の中がこんなに汚かったのか」「いつもは平気だった道路がこんなに危険だったのか」などと気づかれる方が少なくありません。また、白内障のまま足腰が弱くなっていくと、治療の機会を得にくくなります。転倒事故などがきっかけで、寝たきりの生活を余儀なくさせられることも考えられるでしょう。
編集部
なるほど、見え方は人生に直結しているのですね。
上田先生
元気なうちから「ある程度見えるようにしておく」ことが大切で、これを「QOV(クオリティ・オブ・ビジョン = 視覚の質)」と言います。白内障は、自覚がなくても緩やかに進行していきますので、QOVを保つようにしてください。
編集部
ちなみに、白内障の手術費用は、どれくらいなのでしょうか?
上田先生
単焦点の眼内レンズであれば保険の適用が可能で、その費用は、3割負担として片目あたり6万円前後といったところです。遠近に対応した多焦点レンズは自費となりますが、契約している生命保険などによっては、「先進医療」としての補償を受けられる場合もあります。
編集部
眼内レンズって、コンタクトレンズのようなものでしょうか?
上田先生
いいえ。眼内レンズは、水晶体がもともとあった部分に移植します。その直径は6mm程度ですが、丸くたたむことが可能で、2.4mmほどの穴を開けて挿入します。すると、眼内の中で広がって、固定される仕組みです。手術に要する時間は、麻酔が効くまでの時間を除くと、おおむね10分〜20分前後です。
編集部
手術中の意識はしっかりしているのですよね、怖くないですか?
上田先生
皆さん、やはり緊張されるようです。ただし、瞳孔を開く点眼を用いるため、視界が明るく飛んだような状態になります。加えて、目の中にピントは合わないので、「メスなどがはっきり見える」ということもありません。患者さんの中には、「オーロラが見えてきれいだった」という方もいらっしゃいますね。もちろん、手術は怖いものですが、よく見えない状態を一生引きずっているほうが怖いのではないでしょうか。
手術を終えてから注意したいこと
編集部
手術当日は、すぐに帰れるのでしょうか?
上田先生
帰れます。手術後30分ほど安静にしていただいて、何もなければ帰宅可能です。ただし、眼帯を付けますので、患者さんご自身が車で来院することは控えましょう。
編集部
帰宅後、気をつけたいことは?
上田先生
手術直後に目をキョロキョロ動かすと、眼内レンズがズレてしまうかもしれません。その日だけは安静にして、テレビの視聴も控えましょう。入浴は可能ですが、下を向いて行う洗髪は1週間は控えてください。しかし、美容院などで「上を向いて行う」方法であれば、翌日から可能です。これは、目の感染症を予防するためです。
編集部
普段の行動でやってはいけないことについても教えてください。
上田先生
手術後1週間は、目の周辺に何かがぶつかるような場所や行動を避けてください。目を保護するグラスもありますので、必要に応じて使いましょう。目をこするようなことも避けるようにしてください。術後に用いる点眼薬にはステロイドが含まれていますので、花粉症の方でも安心です。
編集部
仕事への復帰はどうでしょう?
上田先生
デスクワークなどは翌日から可能です。体を使うお仕事は、汗やホコリによる感染が怖いので、1週間くらい空けてください。水の中に入る仕事やスポーツなら、1カ月ほど控えましょう。
編集部
何かのきっかけで他院の眼科を受診するとき、「眼内レンズ」であることを伝えたほうがいいのでしょうか?
上田先生
医師が診ればわかりますが、念のため、受付に伝えておくと万全です。また、当院では「眼内レンズカード」を発行していますので、上手にご活用ください。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
上田先生
白内障で怖いのは、よく見えていないことに気づかず、事故に巻きこまれてしまうことです。また、クリアな視界は、認知症予防にも一役買うと思います。手術するかどうかは別にして、一度、将来のビジョンをお話ししてみませんか。白内障手術のメリットやデメリットをしっかりお伝えしますので、ご一緒に決めていきましょう。
編集部まとめ
眼内レンズは、水晶体のような「厚みを変えるピント合わせ」ができないとのこと。白内障手術の目的は、「クリアな視界を保つ」ことにあるのでした。ですから、どのような眼内レンズを選ぶかが、重要になってくるでしょう。元々抱えていた遠視や近視を補正するのか、「光のにじみ」や「コントラスト感度の低下」などのリスクをのんでも多焦点レンズにするのか。医師と十分に打ち合わせしてください。
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診療科目 | 眼科 |