腎臓の病気を早期発見できる検査「アルブミン尿検査」とは 検査内容・検査をするべき人の特徴を医師に聞く
末期慢性腎不全やその予備群といえる慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)の患者は年々増加傾向にあり、いまや日本人成人の7人に1人がCKDと見積もられているとのことです。なかでも糖尿病の重症化とともに発症する糖尿病性腎症は、透析が必要になる原疾患としては最も多く、早期発見・治療が重要です。そして、この糖尿病性腎症の早期発見に欠かせないのが「アルブミン尿検査」です。今回はアルブミン尿検査について筑波大の服部晃久先生にお聞きしました。
著者:
服部 晃久(筑波大学附属病院 腎臓内科)
共著者:
山縣 邦弘(筑波大学 医学医療系腎臓内科学教授)
アルブミン尿とは 尿タンパクと何が違うの?
編集部
はじめに、アルブミンとはどのようなものなのか教えてください。
服部先生
アルブミンは“血液中のタンパク質の半分以上を占めている”タンパク質の一種です。体内で様々な物質と結びついて運搬したり、血管内の水分を保つことで血管の中を循環する血漿(けっしょう)の量を維持したりする作用など、重要な役割を担っています。アルブミンは血液中には多く含まれるものの、本来であれば尿からはほとんど検出されないのですが、腎臓が障害されると尿中に漏れ出て「アルブミン尿」として検出されます。
編集部
なぜ、アルブミンが尿中に漏れてしまうのでしょう?
服部先生
糖尿病で血液中の糖分が増えると、全身の動脈硬化が進行して毛細血管の塊である腎臓の血管が傷みます。その結果、腎臓の中にある「糸球体」という血液をろ過する装置の膜から、本来は通過することのないアルブミンが漏れ出るようになります。最初は尿の中に含まれるアルブミンが極微量ですが、進行すると大量のアルブミンが漏れ出すことで「タンパク尿」として検出されるようになります。
編集部
タンパク尿とアルブミン尿の違い・関係を教えてください。
服部先生
血液中に含まれるタンパク質の60〜70%はアルブミンですが、それ以外にも多くのタンパク質が存在します。腎臓の異常により尿へ漏れ出てきたタンパク質のうち、精密にアルブミンを検出するのがアルブミン尿検査、ざっくりと尿中のタンパク成分を調べるものがタンパク尿検査になります。さらに「微量アルブミン尿」とは、尿に漏れ出るアルブミンの量が30~299㎎/日程度、通常の尿タンパク試験紙法の定性検査では(-)~(+/-)の状態です。このような尿中への少量のアルブミンの漏れを調べるものが、微量アルブミン尿検査で、糖尿病性腎症の早期発見に役立つとされています。
アルブミン尿検査を受けるべき人の特徴は?
編集部
アルブミン尿を検査したほうが良い人はどんな人ですか?
服部先生
アルブミン尿検査は、糖尿病患者で通常検診の尿タンパク検査では陰性の人に対し、「糖尿病性腎症」を早期に発見するために行います。糖尿病と診断された場合に3ヶ月から6ヶ月程度の間隔をあけて検査をすることがすすめられます。また、糖尿病がなく高血圧や動脈硬化などの生活習慣病を患っている方には、「タンパク尿定性検査」あるいは、「尿アルブミン定性検査」を定期的に行うことをおすすめします。
編集部
どこでもできる検査なのでしょうか? 検査の内容についても教えてください。
服部先生
尿検査が可能な医療機関であれば測定できます。アルブミン尿はタイミングによる変動が大きく、活動を始める前の早朝や、できるだけ落ち着いたタイミングで尿を採取してください。外来受診以外でも人間ドックなどでアルブミン尿の検査を実施している場合もあります。一方で、タンパク尿が増加している時期においては、タンパク尿の定量検査と尿中クレアチニン検査を行い、タンパク尿濃度を尿中クレアチニン濃度で除した値(g/gCre)が、尿アルブミン定量検査に代わって用いられます。
アルブミン尿が検出されたらどうなる? 受診のタイミングは?
編集部
アルブミン尿が検出されてしまうのは、どんな原因が考えられるのでしょうか?
服部先生
糖尿病で治療中にアルブミン尿が認められた場合には、糖尿病性腎症の初期と考えられますが、糖尿病の治療中で、尿中にアルブミン尿に代表されるタンパク尿が認められる原因は様々な原因が考えられます。
編集部
糖尿病性腎症のステージ分類について教えてください。
服部先生
アルブミン尿と腎臓の機能を表す「糸球体濾過量(Glomerular Filtration Rate:GFR)」の程度から、糖尿病性腎症は第1期~第5期に分類されます。eGFR>30mL/分/1.73㎡でアルブミン尿30㎎/日未満は第1期(腎症前期)に分類されます。30~299㎎/日の「微量アルブミン尿」は第2期(早期腎症期)に相当し、300㎎/日以上は「顕性アルブミン尿」と呼ばれ、第3期(顕性腎症期)になります。また、尿タンパクを問わずGFR15-29mL/分/1.73㎡の方は第4期(腎不全期)、GFR<15mL/分/1.73㎡の方は第5期(透析療法期)に分類されます。微量アルブミン尿期に治療介入ができれば、アルブミン尿の消失、腎症の改善が期待できます。
編集部
どのような治療を行うのでしょう?
服部先生
腎臓の異常を招いたもとの疾患が糖尿病の場合には、糖尿病のコントロールすなわち血糖コントロールをしっかり行うことが重要です。そのほか、腎症発症要因となりうる、血圧、脂質異常、尿酸異常などのコントロールを行います。アルブミン尿・タンパク尿を抑える治療として、降圧薬の一種であるレニン-アンジオテンシン系阻害薬には、腎臓に働きかけ尿中のタンパク漏出を抑える作用や、心臓・腎臓の臓器保護作用があります。また、抗アルドステロン薬、SGLT2阻害薬、GLP1作動薬などを使用することで微量アルブミン尿改善効果が知られています。
編集部
腎臓内科はどのタイミングで受診するのが良いのでしょう?
服部先生
新規にタンパク尿・アルブミン尿を指摘された場合には、その原因を探るためになるべく早く腎臓内科を受診することをお勧めします。血尿を伴うタンパク尿や著しい腎機能の低下(eGFR<45mL/分/1.73㎡)がある場合にも、腎臓内科を受診して異常の原因を探ることが必要です。また、腎機能の変化時(年間eGFR5以上の低下)や高度のタンパク尿や急性発症のタンパク尿は、即座の受診も検討して下さい。いずれもかかりつけ医の先生と相談の上、判断して下さい。
編集部まとめ
日本には約1480万人のCKD患者がいるといわれています、CKD患者は現在も増え続けており、医療技術の進歩や高齢者人口の増加に伴い今後も増加することが予測されています。服部先生は診療の中で「健診で尿タンパク(+)だったが無症状だったので通院はしていなかった」という方を見かけるとのことで、そのような予防ができるタイミングを逃してしまうことは「もったいなく感じる」とも仰られていました。健康診断では腎臓の機能をチェックして、変化のあるときは早めに専門医の受診を検討したいですね。