クレアチニンが高いと体にどんな影響がある? 日常生活で気をつけるべきことを紹介
健康診断結果に記載される各項目の一つが、腎機能の状態を示す「クレアチニン」です。そして、腎臓病は「一度悪くなると良くならない病気」で、初期の自覚症状に乏しいため、数値でリスクを追うことが重要になります。今回は、詳しい話を「赤羽もり内科・腎臓内科」の森先生にお願いしました。
監修医師:
森 維久郎(赤羽もり内科・腎臓内科 院長)
三重大学医学部医学科卒業。主に救急医療や腎臓内科の診療を積んだ後の2020年、東京都北区に「赤羽もり内科・腎臓内科」を開院。生活習慣病に注力した看護師、管理栄養士、理学療法士とのチームワークで地域医療に貢献している。日本腎臓学会、日本透析医学会、日本腎臓リハビリテーション学会、日本禁煙学会、日本内科学会、日本糖尿病協会、日本腎臓病協会の各会員。
クレアチニンとは?
編集部
血液検査で見かける「クレアチニン」ってなんでしょうか?
森先生
クレアチニンは、「筋肉を動かすためのエネルギーを使った後に出てくる老廃物」の一種です。腎機能が低下すると尿からクレアチニンが排出できなくなり、血液に溜まるため、腎機能低下の指標として使われます。なお、最近では腎機能の評価として、クレアチニン・年齢・性別の要素を組み込んだ「eGFR」という値が使われます。
編集部
「クレアチニン」以外にも見ている検査項目はありますか?
森先生
もう一つ大切なのが、尿検査で測定する「尿タンパク」です。尿タンパクは、腎臓のSOSのような役割を果たす検査項目となっています。わかりやすく整理すると、クレアチニンは「現在の腎臓の状態」、尿タンパクが「未来の腎臓の状態」を反映していると考えることができます。
編集部
「腎臓病」と言える基準はあるのでしょうか?
森先生
先ほど触れた「eGFR」が低下していたり、「尿タンパク」が出ていたりする状態が持続していると、腎臓病と診断されます。そのほか、画像検査などで腎臓の異常があっても、腎臓病と診断される可能性があります。そのため、腎臓の評価をするときは「eGFR」だけでなく「尿タンパク」にも注目する必要があります。たとえeGFRが正常値でも、尿タンパクの数値が高ければ、将来的に腎機能が悪くなる可能性があるということです。
編集部
腎機能低下による自覚症状はありますか?
森先生
クレアチニンが少しだけ高い場合、自覚症状はほとんどありません。腎機能低下が中等症~重症になると、「むくみ、貧血、倦怠感」などの症状が出ます。実際に私も、「診療をしていてクレアチニンが高いのに医療機関を受診せず放置していて、最近症状が出たため調べてみたところ、かなり腎臓が悪くなっていた」というケースに遭遇します。
腎臓病の治療について
編集部
もし腎臓病だった場合、どのような治療をしていくのでしょうか?
森先生
まず大前提として、腎臓病は「結果」であり、背景に腎臓病になってしまった「原因」があります。原因として多いのは、糖尿病や高血圧のような生活習慣病です。ただし、免疫や遺伝の病気が原因となっている場合もあります。治療は原因に対する治療、例えば高血圧が原因の場合は血圧を下げる食事や運動、薬の治療が必要になります。
編集部
生活習慣病には「運動」が有効と聞きますが、かえってクレアチニン値は高くなりませんか?
森先生
たしかに筋力トレーニングで増えた筋肉により、クレアチニンが高くなることもありますが、実際に腎機能が低下しているわけではありません。高血圧や糖尿病には運動が効果的なので、積極的に取り入れましょう。また、腎臓病になると身体機能が健常な人の7割ほどに低下するため、腎臓病における運動療法は大変に注目されており、「腎臓リハビリテーション」という治療も積極的に取り入れられています。なお、運動中は水分補給も忘れずにおこなってください。
編集部
必要によっては薬も併用するのですよね?
森先生
はい。とくに血圧や血糖は腎機能の低下の原因となるので、高い場合は投薬が必要になります。また、血圧や血糖の薬の中には「無理して働いている腎臓を休める」効果がある薬もあります。腎臓病の中には腎臓に過剰な負担がかかっている病態のものもあるので、そのようなときはこれらの薬を使用します。
編集部
腎臓病で「初の治療薬」が登場したそうですが?
森先生
「フォシーガ」のことですね。SGLT2阻害薬と呼ばれる薬の一種で、尿から糖分を出す作用があり、糖尿病の治療で使われている薬です。新聞記事などを読んで、「フォシーガ」を名指しで希望する患者さんもいらっしゃいます。ただし、処方は病態によるので、全症例に対して有効とは限りません。例えば、腎機能が中等度~高度になっている場合や高齢者で痩せ型の場合などは、デメリットがメリットを上回る可能性もあります。
腎臓病をチーム医療で支える時代
編集部
運動や食事のほかに、気をつけることはありますか?
森先生
腎臓病といってもその中身は様々なので、血液検査の結果を照らし合わせて主治医と相談しながら対策を立てるのがいいでしょう。例えば、腎臓病の食事療法でおこなわれるタンパク質の制限は、正しくおこなわないと身体機能を低下させたり、死亡率を増やしたりと、逆効果になることもあります。本当におこなうべきなのかを主治医と確認して、専門の管理栄養士と協議しながら治療することをおすすめします。
編集部
受診の必要性はわかりますが、「怒られるために行く」ような気がして後ろめたいです。
森先生
そうかもしれないですね。ただ、ご自身の「現在の腎臓の状態」と「未来の腎臓の状態」を把握し、今後におこなうべき治療を主治医と協議するのが得策だと考えます。
編集部
自己変容できるかどうかも自信がないです。
森先生
そこは医師に限らず、看護師や管理栄養士などの「コメディカル」と呼ばれるスタッフの力を活用することが大切です。私を含め、医師は何かとコミュニケーションが上手でなく、じつのところ食事や運動療法などの細かいところは専門家には敵いません。医師は「判断と投薬」、スタッフは「実際の運用」というように、それぞれの得意分野を活かしてチームで診療をしているため、積極的にコメディカルを活用しましょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
森先生
腎臓病は、腎臓だけでなく全身に影響を与える病気です。いきなり「〇〇を食べれば腎臓が良くなる」という情報に飛びつくのではなく、eGFRと尿タンパクで腎臓の現在の状態や未来の予想を把握して、原因を特定するという広い視点で評価して治療をおこなう必要があります。そのうえで必要な生活習慣の取り組みについては、ぜひチーム医療を活用してください。一人で抱え込み我流で治療をおこなうよりは、専門家と一度相談をすることをおすすめします。
編集部まとめ
クレアチニンの値は「eGFR」の算定基準になり、このeGFRが腎臓病のリスク評価として用いられています。ただし、尿タンパクと合わせた2軸評価が必須ということでした。腎臓病は原則として治らず、自覚症状や身体疾患が現れたら、ずっと抱えていくことになります。なおのこと、「数値が示してくれること」を重要視しましょう。自覚症状を待つのはNGです。
医院情報
所在地 | 〒115-0045 東京都北区赤羽2-4-5 |
アクセス | JR「赤羽駅」 徒歩4分 |
診療科目 | 腎臓内科、糖尿病内科 |