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「白内障」で気になる眼内レンズの寿命を眼科医が解説 人生100年時代に向けて上手なレンズ選びを

 更新日:2023/05/19
白内障で気になる眼内レンズの寿命を眼科医が解説 人生100年時代に向けて上手なレンズ選びを

白内障の手術では、水晶体の濁りを吸引した後に眼内レンズを挿入します。そこで気になるのがレンズの寿命だと思います。できるだけ長持ちさせて、再手術をしたくないと考える人も多いのではないでしょうか。今回は、白内障手術における上手なレンズの選び方について、「水天宮藤田眼科」の藤田先生に解説していただきました。

藤田 浩司

監修医師
藤田 浩司(水天宮藤田眼科)

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獨協医科大学卒業。東京医科大学眼科入局。その後、船橋市立医療センター眼科医長、日本通運健康保険組合東京病院眼科部長などを務める。2000年、東京都中央区に「水天宮藤田眼科」を開院。医学博士。日本眼科学会認定眼科専門医、公益社団法人日本眼科医会代議員。日本眼科手術学会、日本白内障学会、日本白内障屈折矯正手術学会、日本コンタクトレンズ学会、日本眼感染症学会。

白内障手術の眼内レンズには寿命がある? 単焦点・多焦点眼内レンズは手術後何年持つ?

白内障手術の眼内レンズには寿命がある? 単焦点・多焦点眼内レンズは手術後何年持つ?

編集部編集部

白内障の手術に使う眼内レンズには、どのような種類があるのですか?

藤田 浩司先生藤田先生

大きく分けて、「単焦点眼内レンズ」と「多焦点眼内レンズ」があります。単焦点眼内レンズは文字通り1カ所に焦点が当たるもので、遠くまたは近くのどちらか一方がよく見えるレンズです。他方、多焦点眼内レンズは遠くと近くの両方が見えるレンズのことを言います。

編集部編集部

まずは、単焦点か多焦点どちらかの眼内レンズを選択するのですね。

藤田 浩司先生藤田先生

いいえ。その前の大前提として、「近視の人は近視をゼロに近づける」「遠視の人は遠視をゼロに近づける」というのが白内障手術における根本的な考え方になります。例えば、遠視の人が「手元が見えなくて困っているので、遠くは見えなくてもいいから手元をよく見えるようにしたい」という場合は、遠視を近視に改造することになり、視力が下がった感覚を引き起こすため、私はおすすめしていません。

編集部編集部

なるほど。まずはその人の今の状態を把握した上で、近視や遠視をゼロに近づけるというのが治療の基本になるのですね。

藤田 浩司先生藤田先生

そうです。その前提のもと、単焦点または多焦点のどちらかの眼内レンズを選ぶのかを考えます。

編集部編集部

眼内レンズはどうやって選べばいいのですか?

藤田 浩司先生藤田先生

術後、どんな生活を望んでいるのかによって異なります。例えば、「メガネをかけることに不都合を感じない」「手元の細かい作業をすることが多い」というのであれば、近くがよく見える単焦点眼内レンズがいいでしょう。一方、「なるべくメガネをかけたくない」「裸眼でゴルフなどのスポーツを楽しみたい」というのであれば多焦点眼内レンズがいいと思います。

編集部編集部

眼内レンズには寿命があるのですか? 一度手術したら一生もつのでしょうか?

藤田 浩司先生藤田先生

近年、眼内レンズは著しく進化しており、柔らかいアクリル素材が主流となっています。使用するうち少しずつ劣化が進んでいきますが、一般には半永久的に使用できると言われています。というのも、正式な認可を受けた眼内レンズであれば、人間の寿命よりも長いとされているからです。

編集部編集部

そんなに長持ちするものなのですね。

藤田 浩司先生藤田先生

以前はレンズの表面が白濁するなど、劣化が見られる眼内レンズもありました。しかし、それでも視力に影響がないことが多かったので、わざわざ眼内レンズを取り出して新しいものと取り替えるケースはそれほど多くありませんでした。現在は以前に増して眼内レンズの性能が上がっているので劣化も少なくなりましたし、新しいものと入れ替える必要はほとんどないと思います。

編集部編集部

ということは、40代など若いうちに白内障の手術を受けても、再手術する必要はないのですか?

藤田 浩司先生藤田先生

通常、再手術する必要はないと言われていますし、当院でも入れ直しをするケースはほぼありません。ただし、体質的な問題で水晶体の袋を支えている繊維が弱い人は眼内レンズがグラグラするため、一旦取り出して強膜内固定をおこなって別の眼内レンズと付け替えることはあります。

白内障の眼内レンズの交換・再手術の流れや費用は?

白内障の眼内レンズの交換・再手術の流れや費用は?

編集部編集部

では、眼内レンズを再手術する必要はほとんどないのですね。

藤田 浩司先生藤田先生

ただし、稀ですが次のようなときに再手術が必要になる場合もあります。

・度数が合わない
・見え方に不満や違和感がある
・眼内レンズの位置がずれてしまった

編集部編集部

度数が合わない、ということもあるのですか?

藤田 浩司先生藤田先生

手術前に仕上がりの度数をシミュレーションするのですが、その度数から大きくかけ離れてしまった場合には入れ直しをするかもしれません。こうしたケースはほとんどないのですが、あるとしたら多焦点眼内レンズを使用した場合です。単焦点眼内レンズは、「一番見たい部分だけ裸眼で見えるようにして、足りない部分はメガネで補いましょう」という考え方です。しかし、多焦点眼内レンズは「できるだけメガネを使わない生活」を目指すため、このような不具合が生じることもあるのです。

編集部編集部

ほかにも再手術になるケースがあれば教えてください。

藤田 浩司先生藤田先生

「術後に要望が代わったので焦点を変更したい」「やはりメガネなしでも見えるようにしたい」「夜間の見え方が良くない」というような場合も再手術をおこなうことがあります。

編集部編集部

眼内レンズを入れ替える再手術はいつでもできるのですか?

藤田 浩司先生藤田先生

もしレンズを入れ替える場合は、できるだけ早めに眼内レンズを取り出し、入れ替える手術をする必要があります。なぜなら、時間が経つにつれて眼内レンズが眼の中に癒着してしまうため、入れ替え手術をするのが難しくなってしまうからです。場合によっては再手術ができないこともあります。

編集部編集部

眼内レンズの交換ができない場合はどうするのですか?

藤田 浩司先生藤田先生

例えば、近視、遠視、乱視などが残っていて、それらを改善してメガネを使用しなくても見えるようにしたいという場合には、「タッチアップ」という黒目や角膜にレーザーを当てるレーシックの手術をおこないます。

編集部編集部

眼内レンズの入れ替えをおこなわず、見え方を変えるのですね。

藤田 浩司先生藤田先生

そうです。そのほか、白内障手術で入れた眼内レンズはそのままにして、その上に新たな眼内レンズを挿入することで見え方を改善する方法もあります。これを「アドオンレンズ」と言います。白内障手術の際に切開した部分から眼内レンズを挿入するので、新たにメスを入れる必要はありません。しかし、アドオンレンズを使う場合は、白内障手術をおこなってからある程度時間が経過しておこなうことが多いのです。その場合には再びメスを入れる必要があります。

編集部編集部

再手術の場合の費用はどうなるのですか?

藤田 浩司先生藤田先生

医療機関によって異なります。最初の手術費用に術後3カ月のアフターケアを含んでいるケースもあります。ただし、使用する眼内レンズや、保険診療なのか自由診療なのかによって異なりますので、詳しくは、手術をおこなった医療機関に確認してみましょう。

白内障の眼内レンズの特徴・選び方のポイント・おすすめを眼科医が解説

白内障の眼内レンズの特徴・選び方のポイント・おすすめを眼科医が解説

編集部編集部

もう少し詳しく、白内障の眼内レンズの特徴と選び方について教えてください。

藤田 浩司先生藤田先生

眼内レンズには単焦点と多焦点があることはお話ししましたね。単焦点眼内レンズの場合、製作範囲が広く、強い近視や遠視の方にも対応できます。また、光のにじみが出にくく、シャープに見えるという特徴があります。しかし、ピントが合う距離が1つなので、多くの場合、メガネが必要になります。

編集部編集部

単焦点眼内レンズだと、どうしてもメガネが必要になることが多いのですね。

藤田 浩司先生藤田先生

そうですね。しかし、最近ではレンズの性能が向上して、単焦点眼内レンズでも多焦点眼内レンズに近い機能を持つ製品が登場しています。例えば、「低加入度数分節眼内レンズ」といって、従来の単焦点眼内レンズよりも焦点が合う距離の範囲が広く、遠方から中間まで見やすいものがあります。

編集部編集部

それだと、メガネを使わなくてもよくなるかもしれないですね。

藤田 浩司先生藤田先生

そのほか球面収差を細かく解析し、レンズに繊細なカーブを加えることで、手元を見やすくした単焦点眼内レンズもあります。本来の見え方と生理的に近く、ピント合わせなどでも非常に有利です。ただ、ただ目の状態によっては適用できない人もいるので注意が必要です。

編集部編集部

多焦点眼内レンズはいかがですか?

藤田 浩司先生藤田先生

手元から遠くまで、だいたいピントが合うため通常の生活ではほとんどメガネを必要としなくなります。ただし、「ハロー」という暗い所でまぶしい光を見ると、光の周りに輪が見えたり、「グレア」という光がにじんで見えたりすることもあります。そのため、夜に車を運転することが多い人は避けた方がいいと考えられています。

編集部編集部

見え方以外に、寿命についても違いはあるのですか?

藤田 浩司先生藤田先生

いいえ。寿命についてはほとんど違いがありませんので、目の状態やライフスタイル、好みに応じて選択するのがいいと思います。なお、単焦点眼内レンズは基本的に保険が適用されますが、多焦点眼内レンズは自由診療となります。また、多焦点眼内レンズのなかにも一部、選定療養といって、国が認めた多焦点眼内レンズを使えば手術代、診療代、検査代、薬代が保険適用となり、多焦点眼内レンズにかかわる費用だけが自己負担となるケースもあります。詳しくは担当医と相談しながら決定していきましょう。

編集部編集部

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

藤田 浩司先生藤田先生

現在、白内障の手術は非常に洗練されており、短時間で安全に終了して仕上がり精度も非常に高くなっています。白内障を発症して視力低下で困っている人は、お早めに眼科へご相談いただくことをおすすめします。人生100年時代、早めに白内障の手術をおこなうことで良好な視力を得られれば、その分アクティブに動ける時間も長くなります。医療の世界では「フレイル」という「病気の一歩手前」を示す概念があります。近年、眼科でも「アイフレイル」という考えが重要視されるようになってきました。アイフレイルは「見えなくなってから治療する」のではなく、「見えづらくならないように、積極的に管理をしていきましょう」という考え方で、日本眼科学会も予防に対して熱心に取り組んでいます。白内障についても、「視力が低下してから手術をする」のではなく、不具合が出始めるかどうかというタイミングで検討することをおすすめします。

編集部まとめ

高齢になればなるほど発症リスクが高まる白内障。眼内レンズの性能は日進月歩の勢いで進化していますし、手術の精度も非常に高まっています。「目にメスを入れるのは怖い」「もう少し様子を見てから……」と考える人も多いと思いますが、早めに手術を受ければ、長く快適な生活を享受することができます。ぜひ、前向きに検討してみてはいかがでしょうか。

医院情報

水天宮藤田眼科

水天宮藤田眼科
所在地 〒103-0014 東京都中央区日本橋蛎殻町 1-39-5 水天宮北辰ビル7階
アクセス 東京メトロ「水天宮前駅」 徒歩0分
東京メトロ「人形町駅」 徒歩2分
都営浅草線「人形町駅」 徒歩5分
診療科目 眼科

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