白内障手術の眼内レンズの選び方を眼科医が解説 多焦点・単焦点どちらが良い?
水晶体の白濁を人工レンズによって解決する白内障手術では、埋入するレンズの種類が問われます。Medical DOC編集部が、後悔しないレンズ選びのコツを、眼科医の佐藤先生(アイケアクリニック東京)に取材しました。
監修医師:
佐藤 香(アイケアクリニック本院・アイケアクリニック東京 院長)
獨協医科大学医学部卒業。同大越谷病院眼科入局。眼科勤務を経た2012年、首都圏を中心に5院展開する「アイケアクリニック」のうち「アイケアクリニック本院」「アイケアクリニック東京」の院長に就任。日々、患者の望む見え方を実現できるようにするための手術を心がけている。医療法人トータルアイケアの理事も務める。
白内障手術の流れと眼内レンズについて教えてください
編集部
まずは、日帰りが主流となってきた白内障手術の流れからお願いします。
佐藤先生
最初におこなうのは、手術全体の説明と、眼内レンズ選びも含めたカウンセリングです。「日帰り」といっても、初診の日に手術をするわけではありません。また、「両目を同時に手術するケース」と「片目ずつ別日程で手術するケース」があります。手術そのもののリスクは片目でも両目でも変わりませんが、手術に対する不安を両目同時に抱えるか、分散させるかをどう判断するかですね。ただ、両目同時のほうが、患者さんにとって手術日程調整が難しくなく、コストも抑えられます。そこはご都合に合わせて検討していきましょう。手術時間は片目で5~10分ほどなので、仮に両目同時でも、時間的なご負担にならないと思います。
編集部
眼内レンズは、コンタクトレンズのように、目の表面にかぶせるのですか?
佐藤先生
いいえ。濁った水晶体を削った後のスペースに挿入します。眼内レンズには“特殊な脚”のようなパーツがあり、これによってズレることのないように安定を図っています。このような挿入するレンズを「IOL」(アイオーエル)と呼んでいます。他方、視力矯正を目的としたレンズの中には、目の表面近くに固定する眼内コンタクトレンズ「ICL」(アイシーエル)もありますが、これらは別物です。後者の「ICL」は、白内障が出ていない若い方の近視対策として用いられています。
編集部
日帰り手術の場合、手術後のリカバリーはどうしているのでしょう?
佐藤先生
手術後で最も怖いのは感染症リスクです。そこで、目の保護ができるゴーグルの着用をお願いしています。かつては「眼帯」で感染症予防をしていましたが、手術の技術が向上して感染リスクを低減できたこともあり、昨今の主流はゴーグルという印象ですね。また、帰宅後の洗顔や入浴時の注意点などは、医師やスタッフから説明があるはずです。
編集部
職場復帰の目安についても知りたいです。
佐藤先生
お仕事の中身によりますね。やはり怖いのは感染症です。土やほこりの多い環境、あるいは漁師さんや水泳のインストラクターといった水に接する機会の多い環境では、1カ月ほどかかるかもしれません。一方、空調の効いた室内環境なら、数日間といったところでしょうか。
編集部
ところで、眼内レンズに寿命はあるのでしょうか?
佐藤先生
「白内障のレンズは何年もつ?」といった問い合わせを受けますが、「半永久的にもつ」と言っていいと思います。実際、先天性の白内障で赤ちゃんに手術するようなケースでも、人工レンズの交換は不要です。また、「眼内レンズはなにでできているの?」という質問も多いですが、主にアクリルを使用しています。ですから、レンズのズレといった不具合や見え方の不満といったケースを除けば、基本的に一生、交換不要です。もちろんご希望があれば、交換や再手術をおこないます。
白内障手術の眼内レンズで多焦点と単焦点レンズはどう違う?
編集部
眼内レンズの種類で良く聞くのが「多焦点や単焦点」です。
佐藤先生
そうですね。レンズ選びは手術後の見え方に関係してきます。単焦点レンズはピントの合う箇所が1箇所になり、好みに応じ、近くや遠く、中間などが選べます。そもそも白内障の患者さんは、年代的にもピント合わせの機能が落ちてきているはずです。したがって、今使っているメガネや老眼鏡を併用してもいいので、手術前の見え方から「ガラッと変わるのは嫌だ」という方には、単焦点レンズが有力な選択肢となるでしょう。
編集部
一方で「メガネ要らず」を希望するなら多焦点ということですか?
佐藤先生
はい。近くから遠くまで眼鏡なしで見えることが期待できるレンズです。ただし、多焦点レンズでは一部、自由診療になることもあります。単焦点レンズなら全ての費用が保険適用になります。なお、多焦点レンズの構造は複雑ということもあり、夜間などに光がチラつくハローグレア現象が問題となってきました。しかし、今では改良がかなり進んでいます。ぜひ、最新情報を担当医師に確認してみてください。
編集部
多焦点レンズの中には「3焦点」もあるそうですが?
佐藤先生
はい。「遠近」の2焦点ではなく「遠中近」の3焦点、さらに5焦点タイプのレンズも登場しています。これと並行して、レンズの見る場所によって焦点距離を変える「屈折型」は少数派になってきました。遠近両用のメガネで、変な見え方になったことはありませんか? 遠近のレンズのちょうど境目で見ると、見えの不具合を生じさせることがあります。ですから今の主流は、遠~近のそれぞれが見える“線状のレンズ”をいくつもの同心円状に配した「回折型」です。
眼科医が勧める自分に合った眼内レンズの選び方
編集部
最後に本題です。多種多彩な人工レンズをどうやって選べばいいでしょう?
佐藤先生
一番のネックは、保険適用も含めた「費用」になるでしょうか。見えにくさ、つまり「濁りを取れば良くて、メガネなどの使用は以前と変わらなくていい」のであれば、単焦点レンズが第一選択肢になってきます。老眼鏡などが自分の一部になっていて、見た目にも気に入っているのであれば、わざわざその環境を変える必要もないでしょう。一方で、メガネ要らずの恩恵を受けられる多焦点レンズを求める声もあります。繰り返しになりますが、多焦点レンズは「夜間の光のちらつき」はかなり改善されてきましたから、患者さんの考え方に加え、お仕事や趣味での「目の使い方」をよく吟味して選んでもらいたいですね。
編集部
つまり、一律に「眼科医が勧める」「どちらが良い」というより、仕事や生活スタイルに合ったレンズ選びということですか。
佐藤先生
そう思います。ですから、白内障手術になにを望むのか、事前に整理しておきましょう。そのイメージが細かければ細かいほど、私たち眼科医はリクエストに応じられるでしょう。もちろんできないこともありますが、それに近いご提案をさせていただきます。
編集部
最後に、MedicalDOC読者へのメッセージがあれば。
佐藤先生
白内障手術は人工レンズ選びにより、「近視・乱視・老眼を治す手術」にもなりえます。少しくらいの目の濁りなら気にならないかもしれませんが、「近視・乱視・老眼を治す手術」と考えれば、印象が違ってくると思います。ぜひ、見え方全般が解決できる手段として、白内障手術をご検討ください。
編集部まとめ
白内障手術を多焦点レンズと単焦点レンズのどちらで受けるべきか。この問いに、一律な正解はないとのことでした。また、多焦点レンズのデメリットとして取りあげられがちな「光のちらつき」も年々、改良されているようです。であれば、「手術後の見え方をどうしたいか」という主観で決めてもいいのではないでしょうか。
医院情報
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診療科目 | 眼科 |