多焦点眼内レンズって一体なに? 白内障と同時に老眼も治るって本当なの?
もし、白内障の治療時に、老眼も一緒に治せるなら願ったり叶ったりですよね。「多焦点眼内レンズ」なら、同時に治すことができるのでしょうか。はたして、多焦点眼内レンズとは、一体どういうものなのでしょうか。また、メリットやデメリットも気になるところです。「伊勢ノ海眼科」の伊勢ノ海先生に解説していただきました。
監修医師:
伊勢ノ海 一之(伊勢ノ海眼科 院長)
聖マリアンナ医科大学医学部卒業。聖マリアンナ医科大学大学院を卒業後、板橋中央総合病院眼科部長、聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院眼科医長、川崎市立多摩病院眼科医長として緑内障、眼科手術を中心に研究や臨床経験を積む。その後、2013年、神奈川県横浜市に「伊勢ノ海眼科」を開院。豊富な臨床経験をもとに、患者さんとのコミュニケーションを大切に、地域医療にたずさわっている。医学博士。日本眼科学会眼科専門医。聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院眼科非常勤医師、横浜市瀬谷区医師会理事、瀬谷区各小学校学校医。
2つ以上の距離にピントを合わせられる多焦点眼内レンズ
編集部
多焦点眼内レンズとは、一体なんですか? 白内障と老眼の両方を治すことが可能なのですか?
伊勢ノ海先生
多焦点眼内レンズで老眼は完全には治せません。老眼とは、ピントを合わせる調節機能が加齢とともに低下することです。多焦点眼内レンズには、人間の調節機能に代わるほどの機能はありません。ただ、単焦点レンズに比べると、2つ以上の距離にピントを合わせることができるので、ピントを合わせる機能としては優れている面があります。大きく分けて、2つの距離にピントが合うもの(遠方と近方、遠方と中間)と、3つの距離にピントが合うもの(遠方と中間と近方)があります。他方、単焦点眼内レンズだと、近くか遠くのどちらか1つしか、ピントを合わせることができません。
編集部
多焦点眼内レンズは、一般的にどのような治療で使いますか?
伊勢ノ海先生
白内障手術の際に使います。患者さんが、白内障による視力低下で生活に不自由さを感じている場合に白内障手術をおこない、眼内に人工レンズを挿入します。この人工レンズは、ピント合わせをするためのもので、大きく分けて単焦点レンズと多焦点レンズがあります。患者さんが、手術後に眼鏡をかける機会を減らしたいと強く希望している場合は、多焦点レンズをご紹介させていただきます。また、まだ老眼になっていない若年の方の白内障手術の際も、選択肢としてご説明させていただいています。
多焦点眼内レンズのデメリットを知る
編集部
手術の際、多焦点眼内レンズを入れる手順を教えてください。
伊勢ノ海先生
目にはカメラのレンズのような働きをする「水晶体」という透明な組織があり、ピント合わせをしています。この水晶体が濁ると光が通りにくくなって、見えにくくなります。これが白内障です。手術では濁った水晶体を取り出し、代わりピントを合わせる人工レンズを眼内に挿入します。この人工レンズが、単焦点や多焦点レンズと言われているものです。なお、単焦点レンズも多焦点レンズも、手術時にレンズを入れる手順はほとんど同じです。
編集部
多焦点眼内レンズのメリットはなんですか?
伊勢ノ海先生
ピントが合う距離が複数(2つか3つ)あることです。例えば、3か所に焦点が合うレンズだと、5m先、1m先、手元30cmにピントを合わせることができます。それにより、手術後に眼鏡をかける機会を減らせるのがメリットです。
編集部
多焦点の方が複数のピントが合って、単焦点よりお得な気がしますが、デメリットはありますか?
伊勢ノ海先生
多焦点レンズは、単焦点に比べるとレンズの構造が複雑です。そのため、光がぼやける、眩しく感じるといった「ハロー・グレア現象」、見え方の質の微妙な低下「コントラスト感度の低下」、薄い膜が一枚かかったように見える「waxy vision」という症状が起こる場合があります。すべての人に起こるわけではありませんし、症状には個人差があります。レンズの種類によっても程度は異なりますが、手術前に予想することは難しく、実際にレンズを入れてみないとわかりません。また、夜間に車のヘッドライトが眩しく感じる場合がありますので、夜間運転する機会の多い人は気をつけてください。以上のようなデメリットがあることを十分理解した上で、多焦点レンズを選択するようにしましょう。
若い白内障患者には特におすすめ
編集部
もし多焦点レンズを入れて合わない場合、どうしたらよいのですか?
伊勢ノ海先生
多焦点眼内レンズを入れてみて、前述のような不具合が起こる場合は、再手術をおこなって単焦点眼内レンズに入れ替えます。
編集部
先生はどのような人に対して、特に多焦点レンズをおすすめしていますか?
伊勢ノ海先生
多焦点レンズは、患者さんが白内障手術を受ける際の選択肢の1つと考えています。先ほど申し上げたようなデメリットがありますから、患者さんが十分理解して選択することが大切だと思います。老眼が発症する前の若くして白内障になった人は、距離によってピントが合わない老眼の状況を自覚したことがありませんので、多焦点レンズを選択として考えることをおすすめします。また、眼鏡をかける機会を減らしたいという強い希望がある人は、多焦点レンズの方が機能的には合っていると考えます。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
伊勢ノ海先生
現在、年間100万人以上の人が白内障手術を受けています。手術技術も洗練され、皆さんが安心して受けられる手術です。そういう状況の中で、白内障を治すだけでなく、より快適に術後の視生活がおくれるように多焦点レンズが登場しました。デメリットを軽減するためのレンズ開発も進んでおり、今後も注目される治療だと思います。白内障や老眼で悩んでいる人は、眼科医に一度相談してみてください。
編集部まとめ
老眼や白内障で悩んでいる人にとって、複数のピントを合わせることができる多焦点レンズは、生活の改善につながるもののようです。ただし、多焦点眼内レンズを入れたことにより、ハロー・グレア現象やコントラスト感度の低下が起こる可能性もあります。デメリットを理解した上で、担当医師などに相談してみるとよいでしょう。
まぶしいに関する症状についてもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事を参照してください。
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