「変形性膝関節症」の治療法・原因を医師が解説 放置すると命にかかわる可能性もある?
膝の痛みは、多くの人が経験する身体の不調の一つです。しかし、膝の痛みにはさまざまな原因があり、症状や対処方法も異なります。今回は、足立慶友整形外科の野本先生に、膝の痛みの原因や症状、そして適切な対処方法について取材しました。自分自身や身近な人が膝の痛みに悩んでいる場合は、ぜひ参考にしてみてください。
監修医師:
野本 聡(足立慶友整形外科)
1982年:慶應義塾大学医学部整形外科学教室入局
1999年:済生会神奈川県病院整形外科リウマチ科部長
2013年:慶應義塾大学医学部客員講師
2014年:東邦大学薬学部客員教授
2013年:済生会横浜市東部病院運動器センター長/整形外科部長
2018年:プライムコースとみなとみらいクリニック院長/理事長
2020年:足立慶友整形外科リウマチ科副院長
2021年:足立慶友整形外科リウマチ科院長
目次 -INDEX-
年をとるとリスクの上がる「変形性膝関節症」とは
編集部
年齢を重ねると膝が痛いという人が多いと思うのですが、変形性膝関節症なのでしょうか?
野本先生
全てではないのですが、最も多いのが「変形性膝関節症」ですね。それ以外のものだと、膝の関節リウマチや骨の腫瘍といった疾患、それから膝に感染が起こる関節炎のようなものがあります。しかし、それはレアケースで、多くは変形性膝関節症と言って問題ありません。
編集部
女性に多い疾患だと思うのですが、どのような原因があるのでしょうか?
野本先生
実際のビッグデータの統計によっても、女性に多いことがわかっています。原因としては、一般的に女性の筋力が弱いということが一つの原因として考えられます。また、女性ホルモンの減少によって軟骨がすり減りやすくなることが原因とも言われています。そのため、女性の平均閉経年齢である50歳代に発症が多く見られます。
編集部
変形性膝関節症は痛み以外にどのような症状が出るのですか?
野本先生
痛みが最も多いのは間違いないのですが、ほかには膝のぐらつきがあります。ぐらつきがあると、転びやすくなったり歩行が不安定になったりすることがあります。また、膝の関節液が増えて腫れると、膝の曲がりが悪くなり、可動域が低下することも特徴的な症状の一つです。
編集部
変形性膝関節症の症状を我慢し続けると、生活にはどのような影響が出るのでしょうか?
野本先生
膝の痛みを我慢し続けると、その後膝の可動域が下がり、筋力が落ちて歩行能力が低下します。最悪の場合、家から出られなくなり、いわゆる寝たきりの状態になってしまいます。その結果、健康寿命を縮め、寝たきりの状態になることから、健康寿命のみならず、その方の真の寿命までも縮めてしまう可能性があります。たかが膝の痛みと馬鹿にはできません。
変形性膝関節症の治療法を解説 保存的治療・手術治療・再生医療はどのように行われる?
編集部
変形性膝関節症の治療はいくつかあると思うのですが、保存的に管理する場合はどのような治療になるのでしょうか?
野本先生
保存的治療には、“薬を使う治療”と“薬を使わない治療”があります。薬を使わない治療には、変形性膝関節症という病気を患者さんに教育する方法や、膝の筋力を保つための運動療法があります。この方法は、エビデンスによって実証されており、非常に効果的とされています。また、装具療法として、膝に直接付けるサポーター的なものや、靴にインソールのようなものを入れる方法があります。一方、薬を使う方法には、鎮痛薬を使う方法と、関節に直接ヒアルロン酸を注射する方法があります。一般的に、鎮痛薬といえば飲み薬を想像されることが多いですが、膝関節痛の場合には、貼り薬として使用される鎮痛薬も非常に効果的です。この貼り薬は、副作用が少なく、薬を使う治療としても強く推奨されています。
編集部
手術という選択肢もあると思うのですが、どのような手術がなされるのですか?
野本先生
変形性膝関節症において手術が必要となるのは、保存的治療を試みたにもかかわらず、どの治療法も有効ではなかった場合です。医師は患者さんの骨や軟骨の状態を調べ、比較的軽度の場合には骨を切って変形を正す「骨切り術」を選択します。しかし、重度の変形性膝関節症の場合、単に形を正すだけでは十分ではなく、人工膝関節置換術が選択されます。人工膝関節置換術は、自分自身の骨を人工のものに置き換えるという悪いイメージを持たれがちですが、実際には世界的に最も一般的に行われている手術であり、最も推奨されている手法になります。
編集部
変形が起こる前に早めに手術をして治したほうが良いという場合もあるのですか?
野本先生
その場合、手術で治療できる疾患である必要があります。例えば、若い患者さんであっても、変形性膝関節症の初期段階として靭帯や半月板の損傷があります。そのような場合には、将来的に変形性膝関節症が進行するのを防止するために、予防的な意味合いで靭帯や半月板を修復する手術が行われることもあります。
編集部
半月板の修復や靭帯の修復の手術というのは、変形性膝関節症とはまた別の手術になりますか?
野本先生
そうですね。変形性膝関節症に対する手術ではなく、将来的に変形性膝関節症にならないようにする予防的な手術を行います。若い方は、スポーツをやり過ぎたり、重労働をしたりすることによって関節を構成する軟骨や靭帯が損傷することがあります。そういった場合には、半月板の修復や靭帯の修復を早期に行い、将来的な変形性膝関節症の発症を予防することができる可能性があります。
編集部
第3の治療と言われる再生医療についても教えてください。
野本先生
保存的治療と手術治療の橋渡しをするというような位置づけとされています。かつては自身の軟骨を取ってきて、その軟骨を培養して傷んだ部分にその軟骨を移植するというような手術的な治療でした。最近は自身の血液から取った血小板、あるいはお腹の脂肪から取った幹細胞を膝の関節内に注射するだけの治療が行われています。これはメスを入れることも麻酔も必要ないというようなことから、保存的治療と手術のちょうど中間的な治療というふうに考えられ、今盛んに多くの施設で行われ始めています。
編集部
サプリメントなどの代替療法などはあるのでしょうか?
野本先生
サプリメントに関しては、2001年に有名な英文雑誌に「サプリメントは有効」という論文が発表され、一大ブームになりました。しかし、その後世界中で追試が行われ、研究にはサプリメントの会社の利害が絡んでいるということで研究の信憑性が疑われ、再度追試が何度も行われました。結果、サプリメントを投与した群とサプリメントを投与しなかった群では、この変形性膝関節症の治療に関しては、差がなく、有効性は認められないということが最終的に結論づけられました。したがって、日本整形外科学会もサプリメントを患者さんにおすすめしないということになっています。
若年の変形性膝関節症と“注意したほうがいいスポーツ”とは
編集部
50歳代の方が多く発症すると先ほど伺いましたが、若年でも変形性膝関節症になる可能性があるのですか?
野本先生
若年の場合、“怪我からなる場合”と“病気からなる場合”があります。怪我からなる場合は、1回の大きな怪我ということではなく、スポーツの練習をやりすぎて起こる怪我も含まれます。例えば、サッカーやラグビーなどの激しいスポーツをやり過ぎて膝の軟骨が剥がれ、変形性膝関節症が若い時期に始まることもあります。しかし、その段階でいきなり人工関節を入れることは基本的に行いません。軟骨のところをしっかり治療する必要があります。そのため、軟骨を培養して植えるようなバイオ軟骨細胞移植のような手術が現在行われています。
編集部
病気から変形性膝関節症になる場合もあるのですね。
野本先生
病気からなる場合としては、若い方がかかるリウマチが代表的です。現在はリウマチに対する治療法がたくさんありますが、過去にはそうした治療法がなく、変形性関節症が進行し、若い時期に人工関節を入れなければならない方々もいました。
編集部
若年であれば必然的に運動の機会は増えると思うのですが、どのタイミングで受診をするべきなのでしょうか?
野本先生
膝の痛みは必ずしも軟骨から起こるわけではなく、骨や筋肉、腱、皮膚の痛みなど様々な原因があります。一過性の痛みである腱鞘炎や筋肉痛などは、しばらく安静にするかアイシングを繰り返すことで回復します。しかし、回復に向かわない場合や痛みとともに、膝が腫れたり異常な症状が起きたりした場合には、自己診断せずに整形外科を受診することをおすすめします。一流のアスリートは体の変化に敏感で、すぐに相談に来てくれます。痛みや違和感がある場合には、怖がらずに受診することをおすすめします。
編集部まとめ
膝の痛みは身体にとって大きな負担となります。自己判断で放置することは避け、早期の診断と治療が必要です。日常生活やスポーツをしていて支障を感じる場合は、膝の状態を専門家に診てもらいましょう。整形外科で的確なアドバイスを得られることで、将来の健康につながる可能性があります。ぜひ、痛みを無視せず、適切な対処を心がけましょう。
医院情報
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診療科目 | 整形外科 |