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将来の寝たきりを防ぐ!「フレイル」と「整形外科疾患」の相互関係を理学療法士に聞く

 公開日:2023/12/18
将来の寝たきりを防ぐ!「フレイル」と「整形外科疾患」の相互関係を理学療法士に聞く

骨折や変形性膝関節症の発症リスクは年齢を重ねるにつれて上昇しますが、加齢により生じる虚弱状態「フレイル」と関係があるのでしょうか。また、「ロコモティブシンドローム」とはどのような状態のことを言うのかも気になるところです。それぞれを予防することで、健康寿命を延ばすことができるのか、また、実際にはどのような予防行動が必要なのでしょうか。鹿児島大学教授で理学療法士の牧迫飛雄馬さんに教えていただきました。

牧迫 飛雄馬

監修理学療法士
牧迫 飛雄馬(理学療法士)

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2001年国際医療福祉大学理学療法学科卒業、2009年早稲田大学スポーツ科学学術院博士後期課程修了。国際医療福祉大学病院、リハビリ推進センター株式会社、札幌医科大学特任助教、日本学術振興会特別研究員(PD)、ブリティッシュコロンビア大学(Research Fellow)、国立長寿医療研究センター予防老年学研究部健康増進室長を経て、2017年より現職。日本老年療法学会副理事長、日本転倒予防学会理事など。

ロコモティブシンドロームと整形外科疾患について学ぶ

ロコモティブシンドロームと整形外科疾患について学ぶ

編集部編集部

フレイルと整形外科疾患の関係について教えてください。

牧迫 飛雄馬さん牧迫さん

フレイルの多面性のなかでも身体的な側面については、その背景に整形外科疾患が関連していることが多くあります。例えば、変形性膝関節症があると、痛みなどで活動量の減少し、これらの症状が長期間に至ると筋肉量の減少も生じてしまい、身体的なフレイルを発生させてしまいます。このように、整形外科的な疾患はフレイルの要因となることも少なくありません。一方、フレイルが進行すると転倒・骨折の危険が高まったり、整形外科的な疾患を発症するリスクを増大させてしまったりすることにもつながります。

編集部編集部

ロコモティブシンドロームとはどのような状態を言うのですか?

牧迫 飛雄馬さん牧迫さん

ロコモティブシンドロームは、加齢に伴う筋力の低下や関節・脊椎の病気、骨粗しょう症などにより運動器の機能が衰えて、要介護や寝たきりのリスクが高い状態を指します。日本整形外科学会が提唱した言葉で、運動器症候群とも言われ、馴染みやすく「ロコモ」と略することも多く、国民への周知も促されています。

編集部編集部

ロコモティブシンドロームとフレイルとの関連や違いは何ですか?

牧迫 飛雄馬さん牧迫さん

ロコモティブシンドロームとフレイルのいずれも、関節や筋肉、骨など、体の動作のために必要な器官である運動器の加齢による機能低下に関わります。また、いずれも高齢期における要介護や寝たきりを招いてしまうリスクのある状態をさします。ロコモティブシンドロームは運動器の衰えを原因とする機能低下を重要視していますが、フレイルは運動器だけでなく、全身状態ならびに精神・心理的な機能の低下や社会的な問題も含む概念として使われます。

整形外科疾患の予防

整形外科疾患の予防

編集部編集部

反対に、フレイルは整形外科疾患のリスクにどのような影響を与えますか?

牧迫 飛雄馬さん牧迫さん

整形外科的な疾患はフレイルの要因となることも少なくありませんが、逆にフレイルが進行すると転倒・骨折の危険が高まったり、整形外科的な疾患を発症するリスクを増大させてしまったりすることにもつながります。つまり、フレイルと整形外科疾患は相互に関係しており、いずれかを有すると併存するリスクが高まりますので、それぞれに対する予防や改善策が重要となります。

編集部編集部

フレイルと関係している整形外科疾患にはどのようなものがありますか?

牧迫 飛雄馬さん牧迫さん

身体的なフレイルと関係する整形外科疾患には、変形性関節症骨粗しょう症などが挙げられます。これらの疾患を有する高齢者では、筋力や歩行などの運動機能の低下が生じ、身体的にフレイル状態となってしまう危険があります。また、脊椎疾患(脊椎変形や椎体骨折など)でも体幹や下肢の筋力低下が生じ、フレイルのリスクが増大します。これらの整形外科疾患を有する高齢者では日常での活動量が制約されてしまい、フレイルにつながる危険があります。

編集部編集部

それぞれを予防するためのおすすめの方法には、どのような方法がありますか?

牧迫 飛雄馬さん牧迫さん

フレイルと関連が強い変形性関節症や骨粗しょう症などの整形外科疾患においては、予防が期待できるものもありますが、疾患そのものに治療が必要な場合は、早期の発見と対処が重要となります。そのため、定期的な健診などで、これらのリスクがないかをチェックすることが推奨されます。その他、習慣的な運動やバランスの良い食生活、良好な睡眠などの規則的な生活リズムを心がけて、肥満やメタボリックシンドロームなどの生活習慣病に気を配ることも大切です。

予防行動のアバイスと注意点

予防行動のアバイスと注意点

編集部編集部

中高年世代からの運動は、フレイルや整形外科疾患の予防に有効ですか?

牧迫 飛雄馬さん牧迫さん

中年期からの運動習慣は高齢期の健康状態にも影響します。フレイルの主たる症状ともなる高齢期における筋力や歩行能力の維持のためにも中年期からの運動の習慣化は役に立ちます。認知症の発症リスクも低減されることが期待されていますので、中年期から運動習慣を身につけることをお勧めします。ただし、骨や関節に負荷のかかりすぎる過剰な運動は関節の変形や摩耗につながる恐れもあるため、休息や栄養にも気を配りましょう。また、運動以外にも余暇活動などの楽しめる活動に取り組むことも推奨されます。

編集部編集部

整形外科疾患を有する人が運動をする際に気をつけるべきことはありますか?

牧迫 飛雄馬さん牧迫さん

ご自身の状態にあった強度の運動から始めることが大切です。過負荷な運動は問題となる整形外科疾患を悪化させることにもつながります。とくに痛みが出る場合は要注意です。痛みが悪化する、または長続きするといった場合は、運動の方法が適していない、もしくは、運動の強度が適していないことが考えられます。治療中の整形外科疾患を有する場合は、かかりつけ医や専門家に相談しながら始めることがお勧めです。

編集部編集部

その他、日常生活での注意点やアドバイスは何かありますか?

牧迫 飛雄馬さん牧迫さん

腰痛や膝痛などの発生は、不活動を招くことにつながり、フレイルの危険を高めることにもなります。そのため、腰痛や膝痛の予防も重要なポイントです。適度なストレッチ運動や普段からの身体活動は疼痛の予防にも有効です。また、ゆったりした気分で身体とこころを休めることも大切です。湯船につかってリラックスしたり、趣味などの好きなことに取り組んだり、精神的にも健康な状態を保持することにも心がけましょう。

編集部まとめ

整形外科的な疾患がフレイルの原因となり、フレイルが進行すると整形外科的な疾患のリスクが増大するという双方向の関係があると教えていただきました。中高年世代からの運動習慣がフレイルや整形外科疾患の予防に大変有効であるようです。一方で、整形外科的な疾患を持つ高齢者が運動をする場合は特に注意が必要で、日常生活の見直しも必要になるかもしれません。本稿が読者の皆様が予防行動を見つけるための一助となりましたら幸いです。

この記事の監修理学療法士