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「指の関節ポキポキはダメ」説のウソ・ホント

 更新日:2023/03/27

「これから頑張るぞ」といった際に、ついつい癖でやってしまう指をポキポキと鳴らす行為。頭の中では「好ましくない癖」と思いつつ、独特の気持ちよさがあるのも事実です。ところが、この癖に「長期的なリスクはない」とする医学研究が発表されました。一体、どういうことなのか「矢吹整形外科」の矢吹先生に解説していただきました。

矢吹 尚彦医師

監修医師
矢吹 尚彦(矢吹整形外科 院長)

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東海大学医学部卒業。大学病院や総合病院などで整形外科領域の診療を積んだ後の2004年、神奈川県横浜市に「矢吹整形外科」を開院。治療に限らず、トレーニングマシンを備え、各種運動のアドバイスもおこなっている。日本整形外科学会専門医。日本骨粗鬆症学会、日本抗加齢医学会の各会員。

指を鳴らす行為は体に悪いのか

指を鳴らす行為は体に悪いのか

編集部編集部

「指ポキポキ」は、関節に悪いのでしょうか?

矢吹 尚彦医師矢吹先生

はい。実際、強い力をかけることで「指の関節が変形するリスク」はあります。手の指を動かしている「腱(けん)」は「ベルト」に例えられ、このベルト通しが狭いほど、関節の変形リスクは高まります。そして、指の「ポキッ」という音が、関節の“こすれ”などによって生じると考えられていました。

編集部編集部

「考えられていました」ということは、「誤り」だったということですか?

矢吹 尚彦医師矢吹先生

そうです。「ポキッ」という音は「関節の間に気泡が生じてはじけたときの音」ということが、カナダのアルバータ大学の研究によって示唆されました。同大学は、「頻繁に指ポキポキをしても長期的な悪影響は認められない」と結論づけています。

編集部編集部

体内なのに、気泡が生じるのですか?

矢吹 尚彦医師矢吹先生

はい。まず、関節の間には「潤滑油」のような液体があります。次に、ポキポキしようとして力を加えると関節の間が広がり、「潤滑油の圧力が低下」します。このとき、潤滑油の中に閉じ込められていた空気が生じるらしいのです。

編集部編集部

たしかに「ポキッ」という2音ではなく、どちらかというと「ポン」という1音です。

矢吹 尚彦医師矢吹先生

複数の指から音が生じると2音以上になりますが、根本的な仕組みとしては1音ということなのでしょう。ですから、言うなれば「指ポン」ですよね。アルバータ大学の研究グループは、このような音が「腱や骨などによる接触音ではないこと」を証明しました。

指以外の音の正体

指以外の音の正体

編集部編集部

だとすれば、「指ポン」は安全な行為なのでしょうか?

矢吹 尚彦医師矢吹先生

今回、示されたのは「音の鳴る仕組み」と「空気が生じるエネルギーの影響」についてです。そのため、「関節に力をかけることの影響」は別という気がしています。ベルト通しに長年、強い力をかけていれば、いずれおかしくなってくるのではないでしょうか。実際、「ばね指」という症例もありますしね。

編集部編集部

指以外でも、ポンポンと音がすることがあります。

矢吹 尚彦医師矢吹先生

そうですよね。とくに、重要な神経が通っている背骨は要注意です。首や胸、腰に神経障害を起こすと、脳からの命令が下半身に伝わらなくなるかもしれません。なかでも、脳に近い首を痛めてしまうと一大事です。

編集部編集部

「首のコキコキ」も空気の音なのですか?

矢吹 尚彦医師矢吹先生

先ほど紹介した研究結果は「手の指」に限定しているため、首はわかりません。同じ機序が考えられるにしても、首までは立証されていません。なぜなら、首や腰でテストすることがはばかれるからです。神経が通っている首や背骨を実験のために傷めるなど、あり得ない話だと思います。

編集部編集部

「腰のヘルニア」の原因は、背骨が押されてはみ出たクッション材だと聞きます。

矢吹 尚彦医師矢吹先生

「ヘルニア」という言葉自体が、「はみ出たもの」という意味です。腰のヘルニアによって、患部の痛みや神経障害はもちろん、血行障害も起こりかねません。そもそも背骨は「大切な神経を守っているパイプ」ですから、過度に曲げたり力を入れたりすること自体、避けるべきでしょう。

関節によってはリスクもある

関節によってはリスクもある

編集部編集部

関節への外力による悪影響について、もう少し詳しく教えてください。

矢吹 尚彦医師矢吹先生

力を加えた結果として、あらゆる症状が考えられます。具体的には、手足のしびれや痛み、バランス感覚の喪失、歩行障害や寝たきり生活、めまいなど様々です。また、首なのか胸なのか腰なのか、部位によっても異なります。

編集部編集部

膝の痛みの多くは、変形性関節症だと聞いたことがあります。

矢吹 尚彦医師矢吹先生

膝の関節が鳴る原因の多くは、今回の「指ポン」とは別のメカニズムで、純粋な「軟骨や骨などによる接触音」です。よって、膝の変形性関節症を生じさせる可能性があります。股関節も同様ですね。

編集部編集部

結局、「骨の音説」は説止まりで、骨鳴らしを推奨するものではないと?

矢吹 尚彦医師矢吹先生

手の指に限って言えば、「やってみて気持ちよかったら否定はしない」といったところでしょうか。他方で、痛みなどが生じてきたら、早急に受診してください。音の機序とは別の不具合が生じているかもしれません。

編集部編集部

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

矢吹 尚彦医師矢吹先生

指の関節ポキポキを「ダメ」とは言いません。ただし、「気泡がはじけたエネルギー」と「自分の力で与えたエネルギー」を区別しましょう。「自分の力で与えたエネルギー」による自傷リスクは、それなりにあると思われます。

編集部まとめ

アルバータ大学による「指ポン」の研究は、手の指という比較的危険が少ない箇所に限定された報告とのことでした。つまり、手の指と背骨を同列に扱うことはできません。また、膝関節のように「接触音」と確認の取れている部位もあります。勝手な拡大解釈は避けるべきで、安易な「ウソ・ホント」論へ持ちこまないようにしたいものですね。

医院情報

矢吹整形外科

矢吹整形外科
所在地 〒235-0011 神奈川県横浜市磯子区丸山2丁目3-6
アクセス JR根岸線「磯子駅」 バスで10分
診療科目 整形外科、リハビリテーション科、皮膚科

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