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食物アレルギーは“食べさせない”から“食べて治す”時代に 専門医が伝えたい「必ず守って欲しい注意点」とは

 更新日:2023/04/14
「食べて治す」食物アレルギーの治療とは

「食物アレルギー」は“食べさせない”時代から、“食べて治す”時代に変化しつつあります。その実際の治療法には、入院しておこなうもの、外来通院でおこなうものなど、アレルギーの重症度などによって様々なようです。一方で、専門医として必ず守って欲しい注意点もあるとのことで、どのような治療があり、その注意点とは何なのか、おやなぎアレルギークリニックの小柳貴人先生にお話を伺いました。

小柳 貴人

監修医師
小柳 貴人(おやなぎアレルギークリニック)

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新潟県加茂市出身。2003年に帝京大学医学部卒業、新潟大学医学部小児科学教室入局。新潟県内の複数の大学関連病院小児科で勤務。2010年よりアレルギー分野の研究に携わる。2016年新潟大学大学院修了、医学博士取得。2022年新潟県長岡市に「おやなぎアレルギークリニック」を開院。日本小児科学会認定小児科専門医、日本アレルギー学会認定アレルギー専門医。日本小児科学会、日本アレルギー学会、日本小児アレルギー学会、日本小児臨床アレルギー学会、日本小児呼吸器学会に所属。

経口免疫療法について知る

経口免疫療法について知る

編集部編集部

経口免疫療法についてお伺いしても良いですか?

小柳 貴人先生小柳先生

一般的には“食べて治す”治療法全てが「経口免疫療法」だと認識されている節がありますが、正式には、この①〜③を満たすものを経口免疫療法と呼びます。最終的には、その食物アレルギーの耐性獲得を目指しておこなう治療法です。

食物経口負荷試験(以下、「負荷試験」)によって「症状が出る抗原食物の最少量」(閾値)を決める
最初は閾値よりも少ない安全な量から抗原食物を食べ始める
徐々に摂取する量を増やして負荷試験で決めた閾値を超えていく

編集部編集部

経口免疫療法に種類はあるのですか?

小柳 貴人先生小柳先生

急速経口免疫療法」と「緩徐経口免疫療法」の2種類があります。急速経口免疫療法とは、主に入院でおこなう治療で、まず負荷試験をおこない症状が出る閾値を決めます。2、3週間の入院で1日に3回程度、抗原食物を摂取し、1日のうちにどんどん抗原食物の摂取する量を増やしていきます。入院2、3日目には入院時に決めた閾値を超えて摂取していき、耐性獲得を目指します。これに対し、緩徐経口免疫療法とは、外来を中心に数ヶ月間かけてゆっくりと耐性獲得を目指す治療です。どちらの治療法も、治療途中で強いアレルギー症状が出る可能性があるため、専門家の指導のもとで厳密におこなう必要があります。

編集部編集部

経口免疫療法以外にもアレルギーを食べて治す治療法はあるのですか?

小柳 貴人先生小柳先生

正式な名称はついていませんが、皆さんがイメージする、ご自宅でアレルギー症状が出ない量を少しずつ摂取させていくものを、最近では“食事療法”と呼ぶ事が多いようです。今までは抗原食物を摂取しない事が基本でしたが、抗原食物を安全な量で少しずつ食べて治す時代に変わってきています。

食事療法の実際

食事療法の実際

編集部編集部

食物アレルギーが“食べることで良くなる”という考えに変化してきたのはいつ頃なのですか?

小柳 貴人先生小柳先生

2008年に食物経口負荷試験が保険適用になった影響が大きいですね。それまでは研究目的におこなわれていましたが、あまり一般的な検査ではありませんでした。また、2010年頃から、完全除去をせずに閾値を超えない量を食べ続けたほうが食物アレルギーの治りが良いという報告が増え、食事療法に対する考え方が変化してきました。

編集部編集部

食事療法をおこなう際の流れについて教えてください。

小柳 貴人先生小柳先生

軽症の方々は、例えば「ゆで卵黄1個」は食べられたが「ゆで卵白2g」を食べると口の周りが真っ赤になったというような経験をします。これは、すでに負荷試験に近いことを自宅でおこなっていると考えることもできます。そのような例で、ある程度の閾値が判断できる場合は、安全面を考えて閾値の半分以下から自宅で食べることが多いですね。

編集部編集部

その後はどうなるのですか?

小柳 貴人先生小柳先生

経過を追いながら徐々に摂取する量を閾値に近づけていきます。数ヶ月経った頃に再度負荷試験をおこない、閾値が上がっている場合は、摂取する量をまた徐々に増やしていくという流れになります。一方で、重症の方はアナフィラキシーを起こすリスクが高いので、最初の段階から厳密な食物経口負荷試験をおこない、より正確に閾値を決めておく必要があります。

編集部編集部

食物アレルギーの重症度はどのように考えられているのですか?

小柳 貴人先生小柳先生

専門医が診て、アナフィラキシーを起こす可能性があると考えられれば重症です。食材にもよりますが、1gにも満たない微量の食物で広範な皮膚症状が出るお子さんは、多量摂取ではアナフィラキシーを起こす可能性も高いだろうと考えて重症と判断します。

食事療法の注意点とは?

食事療法の注意点とは?

編集部編集部

比較的軽症の方が食事療法を進めていく中での注意点はどのようなことがあるのでしょうか?

小柳 貴人先生小柳先生

軽症の方々は、重篤なアレルギー症状を経験しておらず、危機感に乏しい場合が少なくありません。自宅で食事療法をおこなう際に、食べる量を自己流でどんどん増やしてしまうことがあります。これは大変危険な行為であるため、私は「勝手に食べる量を増やしていくと、必ずどこかで症状が出ます。食物アレルギーは下手をすると命に関わる可能性もあるため、絶対にこの量を超えて摂取しないでください」と念を押しています。

編集部編集部

重症な方が食事療法を進める場合の注意点はありますか?

小柳 貴人先生小柳先生

状況にもよりますが、ごく微量でアナフィラキシーが誘発されるような重症な方は、ご自宅でアナフィラキシー症状が出てしまった時に対応できるよう、できる限り「アドレナリン自己注射薬」を処方してから食事療法を始めたいと考えています。アドレナリン自己注射薬は、体重がおよそ15kgに達していないと処方ができないため、重症な方では体重が15kgに達する2歳半〜3歳までは無理に食事療法を進めないという方針が多いですね。

編集部編集部

そのほか、食物アレルギーと向き合う際の注意点はありますか?

小柳 貴人先生小柳先生

食物アレルギーで最も大事なことは「具合が悪くなった時にきちんと対応すること」です。軽症な方は食べる量を勝手にどんどん増やさない、重症な方はアドレナリン自己注射薬が処方されてから専門医の指導のもとで食事療法を開始する、ということも重要です。そして食べる時間帯は、かかりつけの病院が開いている時間にして、基本的に夜間や休日は無理に食べさせないでくださいと私はお伝えしています。

編集部まとめ

食物アレルギーの治療方法とその注意点について詳しく解説していただきました。食物アレルギーは少しずつ食べて免疫を獲得する治療に変化してきているとのことでした。また、軽症であっても安易に食べる量を増やすのは危険なこと、重症な方はアナフィラキシーショックが起きたときの対応策を持ちつつ、徐々に治療を進めていく必要があると学びました。

医院情報

おやなぎアレルギークリニック

おやなぎアレルギークリニック
所在地 〒940-1161 新潟県長岡市左近3丁目61−2
アクセス JR「宮内駅」 徒歩20分
市立劇場前バス停下車 徒歩 5分
三和町バス停下車 徒歩 4分
診療科目 アレルギー科 小児科

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