寝たきりにならないために! 医師が「寝たきり予防」の運動や拘縮を防ぐ方法・リハビリを解説
年を取ると怖いのが、自力で動くのが難しくなる「寝たきり」。その予防方法や、寝たきりになってしまった場合のリハビリについて、救急医療・緩和ケアに詳しい石黒先生(いしぐろ在宅診療所岡崎院長)にMedical DOC編集部が話を聞きました。
監修医師:
石黒 剛(医療法人白青会 いしぐろ在宅診療所岡崎)
目次 -INDEX-
寝たきり防止には脳卒中・心臓病・認知症にならないことも重要? 食生活も予防になるって本当?
編集部
寝たきりの主な原因には何があるのでしょうか?
石黒先生
寝たきりは、医学的には「廃用症候群」と呼ばれます。明確な定義はありませんが、自力で日常生活を送ることが難しく、1日の大半をベッドで過ごしている状態のことを指すのが一般的です。長い間、寝たきりの原因になるのは脳卒中(脳血管障害)が最も多かったのですが、最近は脳卒中治療の進歩と日本社会の高齢化の影響もあって、認知症による寝たきりが目立つようになってきています。
編集部
寝たきりになるとどんな問題が起きるのでしょうか?
石黒先生
自分の身の回りのことが自分でできなくなりますから、誰かに介護してもらう必要が出てきます。生活の質(QOL: Quality of life)が損なわれ、これまで楽しめていたことが楽しめなくなってしまいます。また、長い時間寝たままの状態が続くと、身体の決まった部分にだけ体重がかかってしまうので、いわゆる「床ずれ」のリスクも高まります。床ずれの部分から病原体が入ってしまうと、部分的に炎症を起こすだけでなく、そこから全身に病原体が回ってしまって発熱などをきたすことも少なくありません。
編集部
寝たきりになるのを防ぐために今からできることはありますか?
石黒先生
寝たきりの原因となることの多い脳卒中や認知症を予防するのが一番です。まず、脳卒中の予防は、高血圧・糖尿病・高脂血症などの生活習慣病や、喫煙・飲酒、ストレスなどが原因で引き起こされるとされていますから、ご自身の生活を見直し、健康に過ごせるような工夫をしてみましょう。一方、認知症は高齢者になるとなかなか避けられない病気ではありますが、規則正しい生活と適度な運動に加えて、家から出かけて積極的に周囲の人たちとコミュニケーションを取ることが、認知症予防に効果的とされています。
編集部
食生活も寝たきりに関係あると聞いたことがありますが、予防に効果があるのでしょうか?
石黒先生
その通りです。先ほどお話しした脳卒中の原因には、食生活が大きく関わっていますし、認知症予防のために1日3食をしっかり取ることも有効です。また、年を取って食べる量が減ってくると、必要な栄養が摂れなくなって筋肉が衰え、身体を動かすのが億劫になり、寝たきりのリスクが高まります。ご自身に必要な栄養をしっかり摂り、身体を元気な状態に保つために食生活はとても大事な役割を担っているのです。
寝たきり介護にならないための運動とは? 骨粗しょう症予防に骨を強くすることも大切?
編集部
寝たきり予防に運動が効果的とのことですが、それはなぜですか?
石黒先生
適度な運動は、身体に筋肉をつけ、過度な脂質や糖質を減らす役割を持ちます。運動の持つ効果はそれだけではなく、同時に骨粗しょう症を予防することにもつながります。
編集部
骨粗しょう症とは何ですか?
石黒先生
若い人や健康な人の骨は、中がしっかり詰まっていて、簡単なことでは折れません。しかし、加齢とともにだんだんと骨密度が下がり、骨はスカスカになっていきます。そうすると、骨が弱くなって、簡単な衝撃で骨折してしまうようになるのです。特に、背骨がつぶれるように折れてしまい、背中が丸まったり、腰に痛みが出たりする方や、足の付け根の骨が折れてしまって歩けなくなる方が多く、どちらの場合も身体を動かしにくくなってしまうため、寝たきりのリスクがぐっと高くなります。
編集部
では、予防のために具体的にどんな運動をするのが良いですか?
石黒先生
特別なことを意識する必要はありません。運動不足だと感じている方は、ラジオ体操や簡単なストレッチをしてみたり、車や自転車の利用を少し減らして徒歩に変えてみたりすると良いでしょう。骨粗しょう症の予防のためには、骨を作るためのカルシウムが重要ですが、カルシウムがしっかり骨の材料として働くために、ビタミンDも同時に大切です。このビタミンDは、実は日の光を浴びることで作用が発揮される物質です。ですから、例えば日中外に出て家の周りを散歩し、ご近所さんとお話をすると、骨粗しょう症と認知症の両方の予防に効果的と言えますね。
寝たきりにならないためには心臓病・フレイルにも注意 転倒、骨折をしたときに拘縮を防ぐリハビリも知りたい
編集部
脳卒中や認知症、骨粗しょう症のほかに、寝たきりの原因になるような病気はありますか?
石黒先生
寝たきりの原因は様々ですが、心臓病もそのひとつです。心臓の機能が低下すると、血液が酸素を十分に運べなくなるので、息切れや疲労感が出るようになり、ひどくなると入院が必要になります。入院中はベッドでの生活が主体になるので、結果的に寝たきりになってしまう人が多いのです。
編集部
最近は「フレイル」という言葉を耳にしますが、寝たきりとにも関連がありますか?
石黒先生
フレイルも寝たきりと深い関連があります。フレイルとは、高齢者の筋力や心身の活発さが失われている状態を指しています。フレイルの方は、現時点では自分で問題なく生活できていたとしても、何かしらの病気にかかってしまった場合、突然生活レベルが著しく低下して、寝たきりにまで至るリスクが高くなってしまいます。例えば心臓病の患者さんは、息切れ・疲労感が原因で動くことがつらいため、家の中に引きこもりがちになり、フレイルになりやすくなってしまいます。さらにフレイルで食べる量が減ってしまうと、筋力が減って転びやすくなって骨折したり、栄養不足で心臓病がますます悪くなったりして、どんどん寝たきりのリスクが上がってしまうのです。
編集部
なるほど。では、実際に寝たきりになってしまった場合は、どのようなリハビリがありますか?
石黒先生
まずは、日常生活の中で動く機会を短時間でよいので作りましょう。寝たきりの方にはついつい周囲が何でもお手伝いをしてしまいがちですが、例えば着替えなど、ご本人ができることを探し、なるべく自力でやってもらうことが効果的です。また、身体を動かさないことで、関節の拘縮が大きな問題になります。健康な人であれば普段から身体の各所を動かしていて、それに伴って全身の関節が動いていますが、寝たきりになるとそれもなくなるため、関節が動きにくくなったり、全く動かなくなってしまったりすることがあります。これが「拘縮」という状態です。拘縮を防ぐために、関節を毎日少しずつでも自力ないしは他力で動かしたり、関節の周りの筋肉をマッサージしたりして、ほぐしてあげると効果的とされています。
編集部
最後に、Medical DOC読者へのメッセージがあれば。
石黒先生
寝たきりの原因は多岐にわたります。高齢の方になると、様々な病気をお持ちなことも少なくなく、実はそれらがお互いに影響しあって寝たきりの可能性をどんどん上げてしまっている場合が多いのです。寝たきりにならないための予防の第一歩は、運動・食事・睡眠といった日常生活の見直しから。一気にすべてを変えようとするのではなく、できることから少しずつ取り組んで、それを継続していくことが重要です。ご自身の寝たきり予防だけでなく、「家族が寝たきりになってしまって困っている」「認知症になった家族が寝たきりになってしまわないか心配」といったことに関しても、私たち医師にご相談ください。
編集部まとめ
脳卒中や認知症、心臓病などで身体を動かす力が落ちてしまったり、骨粗しょう症が原因で転倒した時に簡単に骨折してしまったりすることが寝たきりの原因です。予防のためには、日頃からしっかり身体を動かし、しっかり栄養を取って、寝たきりの原因となる病気にならないよう工夫していくことが大切ということでした。
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