睡眠不足で太るのは本当? 医師が寝不足と肥満の関係・対策を解説
「睡眠不足で太る、寝たら痩せる」説には、食欲と関係するホルモンが関係しているようです。はたして、ホルモンは食欲や代謝とどのように関わっているのでしょうか。今回は、この疑問を「リブ再生クリニック」の住吉先生に伺ってみました。
監修医師:
住吉 公洋(リブ再生クリニック)
目次 -INDEX-
睡眠不足だと太るのは本当? 寝不足で太りやすい原因や理由を解説
編集部
今回のテーマは睡眠と体重の関係についてですが、普通に考えると「起きていた方が痩せそう」な印象です。
住吉先生
ところが、健常な人を対象にした研究結果によると、“逆”であることがわかっています。同研究では、睡眠時間が「5時間の人」と「8時間の人」を比べました。すると、睡眠時間の短いグループは睡眠が十分なグループと比べて、食欲抑制ホルモンの「レプチン」の分泌が約16%少なく、食欲増進ホルモンの「グレリン」の分泌が約15%増えていました。いわば、食欲のブレーキを緩めて、アクセルを踏み込んだ状態になっていたのです。
編集部
不思議ですね。なぜ、このようなことが起きるのでしょうか?
住吉先生
いくつか考えられます。例えば、睡眠不足だと日中、睡魔に襲われると思います。そこで、食欲を刺激して「起きていよう」とするのが考えられることの1つです。もう1つは、実際の食事で血糖を上げ、意識がはっきりした状態で「起きていよう」とすることです。また、同研究と別の観点ですが、遅くまで起きていておなかが減って夜食をとると、1日のカロリー摂取量は増えますよね。
編集部
ただし、朝食そのものは「食べるべき」という声が多いですよね?
住吉先生
そうですね。血糖値のことを考えると、一度に腎臓に負担をかけないよう、食事は分散してとるべきだと考えます。ただし、寝起きの状態で食欲にかられてハイカロリーな朝食をとることは控えましょう。やはり栄養バランスが重要で、単純に摂取カロリーを増やしてしまうと、どうしたって太ります。
編集部
長時間の睡眠をむさぼることでも、エネルギー消費量が減って太りませんか?
住吉先生
たしかに、1日の摂取カロリーが一緒なら、動かないと消費カロリーは減って、太るかもしれません。ただ、可能性としては考えられますが、確たる臨床データが乏しいので、なんとも言えないところです。睡眠の機序とは別に、「動いていない人が肥満傾向になる」傾向は、実際に起きていますけどね。
睡眠不足の影響はダイエット以外にも? 太りやすくなる以外の健康リスク
編集部
ところで、睡眠不足がもたらす病気はあるのでしょうか?
住吉先生
わかりやすいのは、すでに何かしらの病気があって、睡眠不足になっているケースです。代表例としては「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」ですね。日中の眠さやだるさに加えて、居眠り運転するようになると危険です。なお、一時的な無呼吸状態は誰にでも起こり得るので、病気かどうかの鑑別は必要です。体を動かせないレム睡眠中に、舌が落ち込んで気道が閉塞するようなことは、誰にでも起こり得ます。つまり、病気とまでは言えなくても、無呼吸状態から睡眠への悪影響を引き起こしている可能性はあるということですね。
編集部
体や脳が酸素不足になるということですから、未病だとしても怖いですよね?
住吉先生
そうですね。脳が酸素不足になるという意味では、脳梗塞と同じ状態です。そして、脳が日々、じわじわダメージを負うと、程度によっては臓器や神経の障害に至ることも考えられます。臓器障害の一例としては心臓疾患ですね。酸素不足で脳が「もっと血液を送れ」と命じますから、心臓に負担をかけてしまいます。神経障害の一例としては、認知症や記憶障害です。
編集部
病気・病的な状態が先で、睡眠不足は後のケースについて、ほかにもあればお願いします。
住吉先生
例えば、「高血圧症」でしょうか。高血圧で血流量が増えると、寝ている間につくられるオシッコの量は増えます。その結果、尿意で起こされ、睡眠不足になりかねません。夜間頻尿の全ての原因が高血圧にあるわけではないのですが、一症例として考えられるということです。
編集部
話を戻して、睡眠不足そのものが原因となる病気についても知りたいです。
住吉先生
糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病、うつ病、認知症など、考えられる不都合は様々です。ですが、「今、すでに起きている不具合」による「将来的な病気」の方が心配です。「今、すでに起きている不具合」なら、内容により各種検査で拾えますしね。
医師が推奨する睡眠の質を高める方法や理想の睡眠時間・生活習慣
編集部
理想的な1日の睡眠時間は「7時間」と聞いたことがあります。実際はどうなのでしょうか?
住吉先生
たしかに、様々な疾患率が低かった睡眠時間は「7時間」という研究結果があります。統計的にはそうなのですが、満足できる睡眠時間には個人差があるでしょう。また、高血圧症による夜間頻尿のように、「抱えている不具合が、満足できる睡眠時間を左右する」こともあります。こうした前提条件や属人性を外して、あくまで一般的なデータとして考えると、「理想的な1日の睡眠時間は7時間」なのだと思います。
編集部
なかなか寝付けない状態は病気なのでしょうか?
住吉先生
それぞれの人の「睡眠のリズム」に左右されるためなんとも言えません。例えば、夜勤などが多ければ、入眠リズムは後ろに引っ張られます。この状態が病気かと言われると、難しいですよね。他方で、寝付けないことで何かしらの不都合が出たら、その中身によっては病気とみなされます。加えて、眠れないことを悩んでうつ状態などに至れば、「こころの病気」とみなされることもあり得ます。
編集部
睡眠のリズムが乱れる原因はなんでしょうか?
住吉先生
一例を挙げると、寝る前にスマホを使うことにより、ブルーライトの光で昼間だと勘違いしてリズムが狂うことが考えられます。また、ブルーライトが睡眠ホルモンと言われている「メラトニン」の分泌を減らしたり、レム睡眠とノンレム睡眠のリズムを狂わせたりするという研究報告もあります。スマホに限らず、例えばパソコンでゲームなどをしていても、脳が興奮します。そのため、就寝の1時間前には、スマホやパソコン操作を控えるようにしましょう。
編集部
ほかにも、睡眠の質を高める方法があったら教えていただきたいです。
住吉先生
朝起きたときに日差しを浴びることでしょうか。これで、1日のリズムが整います。あるいは「朝の味噌汁」ですね。味噌のような大豆食品には、メラトニンの素となる「トリプトファン」が含まれています。また、寝る前に湯船に浸かって体温を高めるのも効果的です。入浴によって上がった体温が“下がるとき”に眠気をいざなうとされています。
編集部
睡眠障害としての治療が必要なのは、どのレベルからなのでしょうか?
住吉先生
日中の眠気が気になるなど、「生活に支障をきたしていたら」相談しましょう。また、肥満の人は、睡眠時無呼吸症候群(SAS)になりやすく、睡眠の質を下げている可能性が高いですね。そのため、自分の睡眠の状態を気にかけてみてください。なお、治療の進め方として、ただちに睡眠薬の処方となるかどうかはわかりません。高血圧のように「今、すでに起きている不具合」の治療を優先する場合もあります。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
住吉先生
睡眠不足を「時間」という軸だけで捉えないでいただきたいですね。睡眠が足りていないかどうかは、ご本人の感覚や睡眠のリズム、抱えている不具合などによって左右されます。ですから、まずは、健康診断の結果に留意してみましょう。何かしらの指摘があったら、それと、自分の睡眠の状態を結び付けてみてください。自営業や主婦の人で健診機会がなければ、「睡眠の不満」を受診動機としていただいて構いません。
編集部まとめ
睡眠不足の人は、食べたくなるホルモンが増えるにとどまらず、食欲をセーブするホルモンも減少するということでした。ただし、「睡眠不足」の感じ方は、必ずしも“時間”で左右されません。抱えている病気や不具合が寝たりなさを感じさせている可能性もあります。ですから、「睡眠の質」を健康の指標の1つと捉え、「睡眠の相談」=「健康チェック」という意識で受診してみましょう。
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