病院で「不眠症」と診断されるのはどんな症状? 睡眠専門医が解説! 睡眠外来受診で受けられる検査・治療とは?
不眠症はさまざまな健康被害をもたらすとともに、QOLを大きく低下させてしまいます。その治療を行うのが睡眠外来。一体どのような検査や治療が行われるのか、日本睡眠学会認定睡眠専門医である、眠りと咳のクリニック虎ノ門の栁原先生にMedical DOC編集部が聞きました。
監修医師:
栁原 万里子(眠りと咳のクリニック虎ノ門)
目次 -INDEX-
夜眠れず日中に眠い昼夜逆転状態だと不眠症? 不眠症になるとどんな症状が表れる? 入眠困難や早朝覚醒とは?
編集部
そもそも不眠症とはどのように定義されるのですか?
栁原先生
不眠症とは「入眠困難、睡眠維持困難、早朝覚醒などの症状があり睡眠に満足できず、そのために日中に支障している状態」をさします。睡眠障害国際分類第3版では、この状態が3か月以上にわたり繰り返されている場合を慢性不眠障害、3か月以内の場合を短期不眠障害に分類されます。
編集部
不眠症になると、どんな症状が表れるのですか?
栁原先生
毎晩適切な臥床(横になる)時間と寝室環境を確保しているにもかかわらず、うまく寝られず、日中の活動に支障のある症状を生じます。うまく寝られていないけれども、日中に支障がない場合には不眠症とは診断されません。「うまく寝られない」の具体的な症状としては、なかなか寝つけない「入眠困難」、眠った後に途中で目が覚める「中途覚醒」、望む時刻よりも早く目が覚めてしまう「早朝覚醒」、眠ったのに爽快感がなく疲れが取れない、ぐっすり寝た気がしないなどの「熟眠感の不足」が挙げられます。
編集部
日中にも症状が表れるのですか?
栁原先生
日中の症状としては以下のようなものが挙げられます。
・疲労感や倦怠感
・集中力や注意力、記憶力の低下
・日中機能の低下(例:業績や成績、家事の作業能力の低下)
・情緒不安定(イライラや気分が優れないなど)
・日中の眠気
・行動の問題(過活動や攻撃性)
・やる気、気力、自発性の低下
・過失や事故を起こしやすい
・眠ることについて心配し不満を抱いている
編集部
たとえば、夜に眠れず日中に眠い場合には、不眠症と定義されるのでしょうか?
栁原先生
実は「夜にうまく寝られず、日中に眠い」という症状を起こす原因や疾患は不眠症のほかにもたくさんあります。たとえば強い入眠困難と起床困難があり、午前中から午後の早い時間にかけて体調不良や眠気が目立つのに夜には調子がよくなる場合には、「概日リズム睡眠・覚醒障害」という睡眠障害の疑いがあります。この睡眠障害は体内時計が遅寝遅起きの夜型になってしまっていることが原因で生じており、不眠症とは別の対策や治療が必要になります。
編集部
不眠症と間違いやすいですね。
栁原先生
ほかにも睡眠時無呼吸症候群では、睡眠中に頻回に呼吸が止まることで眠りが浅くなり熟眠感の不足や中途覚醒、日中の眠気などを生じます。むずむず脚症候群では足の違和感のために入眠困難や中途覚醒、日中の眠気や倦怠感を生じます。アルコールやカフェインといった嗜好品も眠りを浅くしますし、服薬中の薬剤の影響や身体疾患(慢性の疼痛や痒み)などに伴って睡眠が妨げられて上手く寝られず、日中に眠気を生じているケースもあるでしょう。
編集部
上手く寝られないために日中に眠くなる原因は、たくさんあるのですね。
栁原先生
一方でうまく寝られない疾患の代表である不眠症では、典型的には日中の居眠りは目立たない傾向にあります。不眠症の患者さんはたとえ眠気を感じたとしても、横になって仮眠を取ろうとすると上手く寝られないことが少なくありません。眠ってはいけないシーンで居眠りをしてしまうような強い眠気がある場合には、不規則な睡眠や睡眠不足などの睡眠習慣の問題や寝室環境の問題、眠気を生じるほかの睡眠障害や痛みなどの身体的疾患、内科疾患や精神疾患、治療薬などの影響がないか注意深く話を聞き、必要があれば鑑別のための検査を検討します。
編集部
不眠の原因はなんですか?
栁原先生
不眠の原因は複数あります。完全に特定するのは難しいのですが、不眠になってからの期間が3か月以内の短期不眠障害では慢性不眠障害と比べて、その誘因となる原因が特定できることが多い印象です。私は不眠症状にお困りの方が相談された際には、上手く寝られなくなった時期に遡って、たとえば生活や環境、ストレスの変化がなかったか、心あたりの有無を聞くようにしています。
編集部
実際の診療では、どのような原因が多いのですか?
栁原先生
短期不眠障害でよく見られる誘因は人間関係の変化や対立、仕事のストレス、個人的な喪失体験、死別、新たな身体疾患の診断や発症、知らない場所への訪問や転居、通常の寝室環境や睡眠スケジュールの物理的な変化などが挙げられます。
編集部
慢性の場合はどうですか?
栁原先生
慢性不眠障害は原因によりいくつかのタイプに分類されます。一つは寝られないことへの不安感が強く、そのために目が冴えてしまう精神生理性不眠のタイプ。遺伝的に脳内の睡眠系や覚醒系の神経のバランスが取れずにうまく寝られないと考えられているタイプもあります。ほかにも、不適切な睡眠習慣が原因となるタイプ。たとえば長すぎる昼寝や不規則な睡眠、就寝前のアルコールやタバコ、カフェインの摂取、就寝前の激しい運動や感情を乱すような考え事などが原因となり不眠症状を引き起こします。
編集部
さまざまなことが原因となるのですね。
栁原先生
そのほかにも、不安神経症やうつ病では不眠症状を生じやすいです。痛みや不快感を生じるような身体疾患や呼吸障害、日中の活動量が制限されるような身体疾患でも不眠症状を生じやすくなります。
不眠症や睡眠障害かもしれないときは何科の病院を受診するの? 睡眠外来の検査や診断までの流れを睡眠専門医が解説
編集部
不眠症や睡眠障害かもしれないときは、何科を受診すべきでしょうか?
栁原先生
※日本睡眠学会のHP
https://jssr.jp/list
編集部
睡眠外来では、どのような診察を行うのですか?
栁原先生
当院の場合、まずは30分程度の時間を設けて患者さんのお話をしっかり聞きます。寝られなくなったきっかけの心当たりの有無やその後の経過、既往症や治療中の疾患の有無、今の状態に対する解決方法のご希望などを確認します。
編集部
不眠はうつ病との関連が深いと聞きました。うつ病の合併がある場合はどのように治療を進めるのですか?
栁原先生
うつ病は不眠症状を生じやすいことが広く知られています。不眠を放置しているとうつ病の発症のリスクが高まり、不眠を治療するとうつ病の再発リスクが低くなることも知られています。うつ病による気分障害や身体症状の程度が重度の場合には、まず原因となるうつ病を適切に治療する必要があり、不眠の治療だけでは回復が見込めない場合があります。その場合には精神科医と連携をしながら回復を目指します。
病院で不眠症と診断されたらどんな治療が受けられる? 頭痛・うつなど合併症の心配やお薬についても知りたい
編集部
不眠症と診断されたら、どのような治療が受けられるのでしょうか?
栁原先生
治療の方法は、睡眠薬を用いる「薬物療法」と生活習慣や睡眠習慣、睡眠に対する考え方を改善させる「非薬物療法」があります。それぞれに長所と短所があるのでご自身にあった方法を選択しましょう。不眠の原因が特定されておりその原因が改善できる場合には、そこからアプローチすることが健康的な解決につながります。とはいえ自分では変えられない原因も多いので、その場合にはぜひ睡眠外来で相談ください。ひとりで頑張るのではなく、専門医と一緒に今の辛い症状に対して打ち手を考えましょう。
編集部
薬物療法はどのように進められるのですか?
栁原先生
「薬物療法」の長所は、即効性が期待されることです。困っている症状やご本人の体質と相性の良い睡眠薬が見つかれば、内服したその日から不眠症状が改善されます。一方で短所として、薬の種類によってはふらつきによる転倒のリスクや依存性などの副作用もあります。複数種類の睡眠薬を長期間使用すると、認知症リスクが上がるという報告もあります。近年ではこれらのリスクがないとされる睡眠薬もあります。また睡眠外来では、依存性のある睡眠薬でも経過を見ながら減薬してやがて中止したり、ほかの薬剤へ変更したりする治療も行っています。薬物療法について不安がある場合にはその旨を担当医に伝え、安心・納得のできる治療計画を立てることをお勧めします。
編集部
一方、非薬物療法とはどのようなものですか?
栁原先生
「非薬物療法」は生活習慣や睡眠習慣、睡眠に対する考え方を整えることで、心身を眠りやすい状態へ整える方法です。即効性はありませんが、薬物療法と比較して副作用がなく、一旦不眠症が改善した後の再発率が低いという利点があります。非薬物療法の代表例としては「不眠症のための認知行動療法」という手法による治療があり、不眠症状の改善効果も医学的に認められています。
編集部
副作用がなく、再発率が低いというのはありがたいですね。
栁原先生
しかしながら、現在のわが国では「不眠に対する認知行動療法」は保険適用されておらず費用面の負担が高いこと、さらに治療を担当する専門の臨床心理士の数が少なく、認知行動療法を受けられる病院が全国的にかなり限られる状態です。このため現実的には、担当医が不眠症のための認知行動療法の知識などを参考に、個々の患者さんに合わせて診察時に睡眠習慣や生活習慣について指導を行うケースが多いことが推測されます。
編集部
非薬物療法とは具体的には何をするのですか?
栁原先生
体の仕組みを利用して自律神経を眠りやすい状態に整えたり、起きている時の過ごし方を工夫したり、ベッドの中での過ごし方を変えることによって睡眠を改善させる方法になります。具体的には、寝付けない時に筋弛緩法と呼ばれるリラックスのためのストレッチや呼吸法を取り入れたり、日中の運動量を増やしたり、昼寝の時間を減らしたり、就寝前の飲食に気をつけたり、夜の臥床時間を制限(実際に寝ている時間+30分程度に留める、寝られないのに必要以上にゴロゴロしないなど)したり、寝室環境を整えたり、睡眠に対する不安感やこだわりをカウンセリングによって弱めたりします。
編集部
薬物療法と非薬物療法は組み合わせて行うこともできるのですか?
栁原先生
はい。単独でも、組み合わせても大丈夫です。寝られない日が続き体力的にも精神的にも余裕がない場合には、まずは睡眠薬で寝られる状態を作っておいて、安定して寝られるようになった後に「非薬物療法」を併用して睡眠薬を減らしていき、睡眠薬が要らない状態を目指して調整をするという順番もとれます。現在の不眠症状について、緊急性や過去の経過を考えて治療方法を選択するのが良いでしょう。
編集部
最後に、Medical DOC読者へのメッセージがあれば。
栁原先生
ぐっすりと良い睡眠をとれないことによる弊害は多くあります。日中のパフォーマンスが落ちるほか、抑うつ気分やうつ病などのメンタル疾患、生活習慣病のリスクも増加させます。睡眠薬の依存性に不安や抵抗感があるために、ナイトキャップ(寝酒)をする方もいらっしゃいますが、実はアルコールは睡眠薬よりも依存性があります。また、アルコールは寝つきを良くしますが入眠後の睡眠の質は悪化するため、睡眠の役には立ちません。おひとりで工夫しても上手くいかない場合には、ぜひ気軽に睡眠外来へお声かけください。不安やご希望を聞いた上でできるだけヘルシーな方法で一緒に解決のための作戦を考えましょう。
編集部まとめ
眠れないという症状だけでも、さまざまな原因が考えられます。睡眠は人間の生命活動において最も重要なものの一つ。どのような原因であっても不眠が生じている場合はまず、原因を追求し、原因に応じた適切な治療を早期に行うようにしましょう。
医院情報
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診療科目 | 心療内科・呼吸器内科 |