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【闘病】医者の私が気づけなかった「線維筋痛症」 同僚にも仮病を疑われ…

 更新日:2023/05/18
【闘病】医者の私が気づけなかった「線維筋痛症」 同僚に仮病を疑われ…

小学生の頃から体に違和感がありながらも検査ではいつも「異常なし」と言われ、自身が医者になってからもしばらくは自分の病名がわからなかったという、みおしんさん(仮称)。「線維筋痛症」を患う彼女に、ようやく診断がついて治療がはじまり、自らSNSなどで情報発信をするにいたるまでの経緯について、話を聞きました。

※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2023年4月取材。

みおしん

体験者プロフィール
みおしん(仮称)

プロフィールをもっと見る

産科麻酔科医兼tiktoker&Youtuber。「痛みと疲労を可視化」するメディアアーティスト。自身が患者として苦労してきた治療や生きづらさの要因となる社会課題を解消するために、現実科学とコミュニケーションデザインを研究し、2022年5月、自身で立ち上げたポータルサイト「WiTH PAiN」にて疲労度セルフチェックをリリース。歌やダンス、手話などを用いた「わくわく療法」を生み出している。愛車は次世代型電動車椅子「WHILL」。車いす三銃士とコロワくんサポーターズなどの社会活動も行っている。
https://withpain.jp/lecture/

副島 裕太郎

記事監修医師
副島 裕太郎(横浜市立大学医学部血液・免疫・感染症内科)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。

週3回の通院をしながら医師として働く日々

週3回の通院をしながら医師として働く日々

編集部編集部

最初に不調や違和感があったのはいつですか?

みおしんみおしんさん

小学生の頃です。朝、目が覚めても起き上がれず、午前中はあまり元気が出ない。運動すると身体が軽くなるのに、立つ・歩くなどの基本的な動作に苦手意識があり、子どもながらに違和感を覚えていました。

編集部編集部

病院の受診はされましたか?

みおしんみおしんさん

学生時代に何度も検査しましたが、いつも結果は「異常なし」。医学部を卒業し、研修医として働き始めると、すぐに極度の疲労と浮腫に悩まされ、ペインクリニックに週3日通いながら研修を受けていました。しかし、やはり無理を続けることはできず、研修医1年目が終わる頃にカンピロバクターという細菌感染から慢性疲労症候群を発症し、20ヶ月の休職を余儀なくされました。

編集部編集部

診断にいたるまでの経緯を教えてください。

みおしんみおしんさん

復職後は週4回のペースで働いていたのですが、海外の有名なアーティストが「線維筋痛症」を告白しているニュースを見て、「もしかしたら、自分の体調不良もこれが原因では?」と思いました。

編集部編集部

それであらためて病院を受診したのですね。

みおしんみおしんさん

はい。自分でカルテを作成し、有名な専門医を受診し、痛みの程度を測定するペインビジョンを用いて痛みを数値化したところ、「インフルエンザの時の関節痛が60程度」と言われている値が、私は349でした。その日のうちに線維筋痛症であると診断がつきました。

編集部編集部

線維筋痛症とはどんな病気なのでしょうか?

みおしんみおしんさん

線維筋痛症は、脳の炎症によって、全身の広い範囲があちこち痛いと感じてしまう病気です。ナイフで引き裂かれるような、血管の中にガラスが走っているような激痛、自分の声が響いて痛いなど、痛みの症状は人によって様々です。私の場合は、発症から20年以上経って感覚麻痺していて、24時間365日、鉛の鎧を着ているような感覚が基本となってしまっていました。

編集部編集部

慢性疲労症候群についても教えてください。

みおしんみおしんさん

慢性疲労症候群は、十分に休んでも回復することができない、日常生活に影響するほどの疲労感が6ヶ月以上続く病気です。重症になると、頭が重く持ち上げられず、入浴や食事で消耗したり、ほぼ寝たきりで過ごしたりするしかなくなります。免疫系、神経系、内分泌系の多系統の病態が関与すると考えられています。もともとCOVID-19の流行前から存在しており、日本では指定難病の認定を目標に啓発活動が行われてきましたが、今回のパンデミックをきっかけに、コロナ後遺症として併発している患者さんも少なくないため、病名の認知度はあがったように感じます。

体調不良は気のせいではなかった

体調不良は気のせいではなかった

編集部編集部

どのように治療を進めていくと医師から説明がありましたか?

みおしんみおしんさん

まずは点滴治療をし、薬が効くことを実感出来たらそれを内服していくとのことでした。傾向として、発症して2年以内や若めの女性、素直な性格の人は治りやすいそうです。

編集部編集部

そのときの心境について教えてください。

みおしんみおしんさん

体調不良が気のせいではなかったとわかった嬉しさと診断がついた安心感と同時に、医者として自分の線維筋痛症に気づくことができず、恥ずかしいとも思いました。でも、やっぱりホッとしたのが大きかったですね。

編集部編集部

実際の治療はどのようにすすめられましたか?

みおしんみおしんさん

最初の2年間は、週に1回の通院で、血流をよくする薬を処方してもらっていました。無理をしないよう生活指導を受けたことをきっかけに、働き方自体を変更する方向に舵を切りました。現在は、内服薬は使わず、トリガーポイントへの鍼灸や整体の組み合わせで痛みをコントロールしています。自宅では、鼻うがいやマインドフルネス呼吸をとり入れて症状を改善させていますが、慢性上咽頭炎の症状がひどいときには、耳鼻科でBスポット療法(EAT療法)を受けるときもあります。また、自宅で痛みをコントロールすることができる医療機器エイトも活用しています。

編集部編集部

治療や闘病生活の中で、何か印象的なエピソードなどあれば教えてください。

みおしんみおしんさん

職場で「線維筋痛症の治療に専念したいので定時で帰れるようにしてもらえないか」とお願いしたら、逆に仕事を増やされ、残業も増えてますます消耗してしまったことです。「誤診じゃないの?」とも疑われ、痛みの専門医である麻酔科医の中にも、慢性疼痛に興味の無い人がいることに衝撃を受けました。「選ぶ職業を間違えた……」と後悔した時期もあります。

編集部編集部

診断後の生活について教えてください。

みおしんみおしんさん

診断がついたことで「自分の辛さは甘えや気のせいではなかった。健康な人達と同じペースで生きなくていいんだ」と気づいて心が軽くなりました。やがて、麻酔科専門医の資格を取ってから病院を退職し、自分が本当にやりたい活動にシフトしようと人生プランが固まり、そこからは楽しくて仕方がなかったです。

編集部編集部

自分のやりたい活動とは?

みおしんみおしんさん

自分が患者として経験してきたことと、医者として感じたり学んだりしたことの発信です。どうやってアウトプットしていくか考えていたときに落合陽一さんのメディアアートという概念を知り、「Entertainment. It’s Everything!」や「みんなを生きるな、自分を生きよう。」という言葉に惹かれてデジタルハリウッド大学院への入学を決めました。デジタルコミュニケーションや現実科学、ビジネスプランニング、社会課題解決授業など幅広いジャンルを学び、そこで得たヒントを、自分が運営しているホームページ(プロフィール参照)に凝縮して活かしました。

編集部編集部

現在の体調や生活はどうですか?

みおしんみおしんさん

「通勤」で体調が悪くなるので、麻酔業務は週1回に減らし、在宅で週1回、患者さん向けのオンライン講座を開設しました。ずっとやりたかった、患者さんと医療機関のコミュニケーションを円滑にするための診療補助サービスです。発信活動と大学院が忙しくて大変ですが、自分のやりたいことをやっているので、身体は辛くても大丈夫です。

未来の自分を信じてあげてほしい

未来の自分を信じてあげてほしい

編集部編集部

今までを振り返ってみて、後悔していることはありますか?

みおしんみおしんさん

検査での「異常なし」という結果や、医師や周囲の「頑張っているから仕方ないよ」という言葉を鵜呑みにし、周りにも気をつかって無理をしつづけてしまいました。もっと自分の身体の痛みや疲労のサインを信じて無理をしなければ、もっと早く気づけたかもしれない、もう少し楽な身体になっていたかもしれない、という後悔はあります。

編集部編集部

医療機関や医療従事者に望むことはありますか?

みおしんみおしんさん

検査で異常が見つからない場合でも、患者さんが「痛い、しんどい」と言っている時には、ぜひ信じて聞いてほしいです。診察に長い時間をかけなくても、症状をそのまま聞いて「それはしんどいことだ」と労り、信じてあげてください。最初にそれがないと、患者さんは話を聞いてくれる詐欺医療を頼ってしまったり、根拠がまだ確立していないサプリメントや食品などをあれこれ試し、安静にするべき時期に運動し、あふれる情報の中で溺れてしまいます。症状の増悪や、ほかの病気を診断するタイミングを逸する危険性があることを念頭に、まずは医療不信に陥らせないことが重要です。私自身も、慢性疲労と慢性疼痛の対処法を複数の臨床医とともにYoutubeで生配信番組をつくっているので、医療従事者の方もそうでない方も、楽しく学んでいただけたら嬉しいです。

編集部編集部

最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。

みおしんみおしんさん

自分に合う主治医や治療法が見つかるまでは痛みや疲労、そして孤独で死にたくなってしまうこともあるかと思います。インターネットが発達したと言っても、検索すればするほど余計に不安になったり、健康を害してしまう情報もあふれていることは忘れないでください。そもそも全ての情報を知ることなんて、超天才やAIでもない限り到底難しいですが、世界には自分の知らないことがたくさんあります。今現在、つらい状況にある人には「自分がいま見ている世界、知っている世界だけが全てではない」と少しだけ、心を落ち着けて、焦らずにご自分の体調にあわせた日常をつくってもらえたらと願っています。

編集部まとめ

痛みや疲労で辛い状態にあったみおしんさんを救ったのは、あるとき触れた「情報」でした。「診断名」「自分に合う主治医」「治療法」それらすべてに出会うために、今現在悩んでいる皆さんにもたくさんの情報のなかで、必要な情報を取捨選択しながら大切な人とつながってほしいとのことでした。

この記事の監修医師