【不妊治療】夫婦仲が悪くなるケースも、悪化させないための3つのポイントを生殖心理カウンセラーが解説
子どもが欲しい気持ちは一緒なのに、不妊治療中、夫婦仲が悪くなってしまった、という話を聞くことは少なくありません。一体、どうすればそのような事態を防ぐことができるのでしょうか? 生殖心理カウンセラーの平山史朗先生に教えていただきました。
監修生殖心理カウンセラー:
平山 史朗(東京リプロダクティブカウンセリングセンター/東京HARTクリニック)
日本生殖心理学会 副理事長、 日本の生殖心理の第一人者、大学・米国で指導を受けたのち、20年以上不妊治療専門クリニックで患者さんの心理ケアに携わる。
生殖心理に関わる数々の専門講座の監修・講師なども幅広く務める。
ポイント①パートナーと話し合える関係を築くには
編集部
不妊治療の保険適用には男女揃っての受診が必須になりましたが、相手が治療に消極的な場合、コミュニケーションの取り方にコツはありますか?
平山先生
そもそも「彼が消極的」というのは女性側の言い分であり、男性は「消極的」といわれても、「まだ急がなくても大丈夫だろう」「今はまだ必要ない」と考えているケースが多いのです。つまり単純に、男女間で知識量にギャップがあるということ。そのためまず、女性は「どうやって男性に情報を伝えたら、理解してもらえるのか」を考えることをお勧めします。
編集部
具体的にはどのようなことでしょうか?
平山先生
たとえば、「年齢が上がるほど妊娠しにくくなる」といっても、男性は「ただ感情的に焦っているだけだろう」って思ってしまいます。そうではなく、統計データに基づいて、「年齢が上がるとこれだけ妊娠の確率が下がるから、今、妊活が必要」ということを理論立てて説明するのです。データの出典としては、自治体や学会など公的機関のものを選ぶことも重要でしょう。
編集部
コミュニケーション不足から、パートナーとの仲が悪くなってしまっている場合の解決策はありますか?
平山先生
多くの女性は、「彼は自分の気持ちをわかってくれない」と思いがちです。でも「察して欲しい」と思っても、夫婦だからといって相手の気持ちが読めるわけではないので、そもそも察してもらうことは無理なのです。そのためには話し合いが大切なのですが、話し合うにもスキルが必要で、一方的に自分の意見を伝えることは、ただの押し付けであって話し合いではありません。大事なのは、相手の話を聞いたうえで自分の意見を伝えること。話し合っているつもりでも、ただ自分の意見を押し付けているだけ、ということも多いので、話し合いがうまくいかないと悩んでいる場合はカウンセリングが役立つと思います。
編集部
一緒に考えて欲しいのに、非協力的な相手の言葉に傷つくという話もよく耳にします。
平山先生
よく患者さんから相談を受けるのが、男性に「君の好きなようにしたらいいよ」といわれて傷ついた、という話です。女性は、「一生懸命考えているのは自分だけ。彼は何も考えてくれない」と思ってしまうのですね。でも男性は「これだけ自由を与えているのに、一体何が不満なの」と考えています。そんなときには「ふたりで一緒に考えている感覚をもつには、あなたの意見も聞かせて欲しいし、ふたりの決断につなげていきたい」と伝えること。ちょっと伝え方を変えるだけで男性の心にも届きやすくなると思います。
ポイント②不妊の半分は男性側に原因が
編集部
男性側が原因の不妊の場合、どのような悩みが多いのでしょうか?
平山先生
男性が原因の不妊といっても、無精子症のようにシビアな問題もあれば、治療可能な問題もありますから一概には言えないのですが、ここでは治療可能な問題にしぼってお答えします。男性側に原因があるといっても、不妊治療を受けるのは大抵の場合、女性です。そのため女性としては、「自分は悪くないのにどうして治療を受けなければいけないのか」と不満に思うかもしれません。さらに、男性から「仕方ないだろ、自分にはなにもできないんだから」と言われてしまうと、余計に苛立ちがつのりますよね。
編集部
よくあるケースだと思います。そういうときはどうしたらいいのですか?
平山先生
どのようなことをしてもらえると自分が楽になるかを具体的に伝えましょう。具体的にということが大事で、相手にも理解できる行動レベルにまで落とし込んで伝えることがポイントです。また、男性不妊の場合、自分が傷つきたくないゆえに妻との距離をとってしまうこともよくあります。さらに、問題を抱えるとひとりで殻に閉じこもってしまう男性も多いでしょう。そんなとき、女性が「なんでも話して」としつこく言うと、余計に関係を悪くします。男性の対処方法は女性と違うのだということを理解して、相手の気持ちを尊重することが大切です。もしどうしても関係がこじれてしまってうまくいかない場合は、カウンセラーに相談してみることも役立つでしょう。
編集部
妊活はふたりで行うもの。なぜ、女性の負担ばかりが大きくなってしまうのでしょうか?
平山先生
妊娠・出産をするのは女性なので、男性に同じだけ負担してもらうことは物理的にはそもそも不可能なのです。また、辛そうな女性に何もできず、自分の無力感が辛いという男性もいますし、お互いに気を使いあって辛くなるカップルもいます。大事なことはお互いの状況を理解して、「今はふたりとも辛いかもしれないけれど、子どもを授かるというふたりの目標のためにがんばっているんだ」と思いをひとつにすることです。目標を共有しているという感覚を持つことが大切です。
編集部
女性だけでなく男性にも自分のこととしてとらえ、主体的に動いてもうらために取り組める対策はありますか?
平山先生
不妊治療でがんばっている女性に対し、男性に何ができるかというと、女性を観察することなんです。表情や体調の変化など、敏感に気づく人もいるかもしれませんが、大抵の男性は一番身近にいる存在であるにも関わらず、そうした女性の変化に無頓着です。また、女性が通院日なら、クリニックから帰ってきた女性に「おつかれさま」と一声かけるとか、ちょっとした気配りも大切です。男性にはぜひ、そうしたことから始めてもらいたいと思いますし、女性も、「察してよ」と言ってばかりではダメなのです。そもそも男性は察するのが苦手な方も多いので、男性にわかりやすく伝えるスキルを磨くことも大切です。
編集部
女性が男性を誘導した方が上手くいくということでしょうか?
平山先生
察するのが苦手な男性に対してはそうでしょう。不妊治療と同じようなことは、子育てにおいても起こります。「子育てで男性が消極的・主体性がない」という話はよく耳にしますよね。パートナーの特性によっては不妊治療中から女性が男性を巻き込んでおくと、その後も上手く立ち回れるようになると思いますよ。
ポイント③計画について意見のすり合わせを
編集部
不妊治療のやめ時や配偶子提供・養子縁組などの選択肢についても事前に話し合っておくべきでしょうか?
平山先生
そうしたことを事前に話し合うのはなかなか難しいかもしれませんが、ただ、「どれだけ子どもが欲しいと思っても、医療の限界として夢が叶わないことはある」ということは、事前に知っておく必要があります。また、たとえそうなった場合でも配偶子提供や養子縁組などの選択肢がある、と知っておくことも役立つでしょう。
編集部
不妊治療のやめ時を見定めるのは難しいと聞きます。
平山先生
確かに、やめ時で悩むカップルは少なくありません。だからこそ、不妊治療を始めるときに、予算や年齢などの目安をたて、医療の介入を望むのかどうか、ある程度考えておくことをお勧めします。ただし気をつけたいのは、その時点での結論を絶対的な決定事項と考えないことです。人の気持ちは変わります。だから、男女どちらかの意見が変わったとしても、「あのとき、そう言ったじゃない」と責めるのではなく、現状をふたりで正しく共有し、その時々でポイントを決めて話し合うことで、目標を再設定する機会をもつと良いでしょう。
編集部
話し合いの場で気をつけるべきポイントがあったら教えてください。
平山先生
大事なことは、子どもを「欲しい」「欲しくない」で争わないことです。不妊治療を途中で断念するカップルは、子どもが欲しくなくなってやめるのではなく、年齢や予算の問題からやめざるをえなくなってやめる方がほとんどです。だから、たとえやめ時を話し合う場合でも、「欲しい」「欲しくない」の軸で考えるのではなく、「欲しいけれどあきらめないといけないとしたら、どうしたらいいだろう」ということを前提として考え、もしやめる決断をするならふたりの決断を一緒に悲しむということが大切なのです。
編集部
ふたり揃ってカップルでカウンセリングを受ける重要性について教えてください。
平山先生
カップルでの喧嘩は、いつも同じパターンに陥りがちです。でも第三者であるカウンセラーが介入することで、新しい話し合いの展開を期待することができますし、話し合いの場でも、お互いに言葉の裏を勘ぐるのではなく、本音を正しく伝えるコミュニケーションを実現することができます。そうしたコミュニケーションができるようになると、不妊治療の場だけでなく、普段の関係性もよくなり、より良い夫婦関係を築けるようになると思います。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあればお願いいたします。
平山先生
誤解されがちなのですが、感じ方や考え方が同じカップルは、必ずしも良いカップルではありません。どのカップルも価値観や育った環境は違うのですから、考え方や感じ方は異なって当たり前なのです。だから、喧嘩をしないカップルではなく、きちんとお互いを理解し合えるための喧嘩ができるカップルになりましょう。特に、妊活中はふたりがぶつかりやすいシーンがたくさんあります。そんなとき、どうしても相手を言い負かすことに、一生懸命になってしまう人もいるかもしれません。しかし大切なのは、「違いを間違いにしない」こと。違って当然であり、そうした意見のぶつかり合いを重ねることで、カップルはより親密な関係を築くことができるのです。妊活はそのための貴重なチャンスであるととらえ、ぜひふたりでポジティブに頑張って欲しいですね。
編集部まとめ
妊活はふたりにとってとても重要で、辛いことも多いかもしれませんが、同時に今後、長く人生を共に歩むふたりにとって、関係性を育む大事な機会になりえます。そうとらえることができれば、自然とイライラしたり落ち込んだりすることが減り、前向きに不妊治療にふたりで取り組んでいけるのではないでしょうか。