【不妊治療体験】必ず努力が報われると限らない現実。体外受精は「やめどき」を決めて臨んだ
20〜30歳代の妊娠適齢期の方に多くみられる「子宮内膜症」。痛みが生じるだけでなく、不妊の原因になることがあるといいます。結婚前に子宮内膜症を発症し、手術後に不妊治療に進み、無事に妊娠・出産を経験したゆらさん(仮称)に、当時の出産までの体験について聞きました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2022年7月取材
体験者プロフィール:
ゆら(仮称)
1990年生まれ。治療中の職業は教師。25歳のときに子宮内膜症が発覚し、手術を受ける。再発防止のため生理を止める薬を内服していたが、28歳で結婚をしてすぐに薬の内服をやめ、病院で不妊治療(タイミング法・人工授精)を開始。1年半以上経っても妊娠に至らず、仕事を退職して体外受精に進むことを決意。幸い1回目の体外受精で妊娠し、2021年に出産。現在第二子の不妊治療(凍結胚移植)を行っている。
記事監修医師:
今村 英利(いずみホームケアクリニック)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
妊娠前に「子宮内膜症」を発症
編集部
ゆらさんは、子宮内膜症を発症されたことがあるのですね。
ゆらさん
独身だった2015年頃に子宮内膜症を発症し、不妊予防のために手術を受けました。普段、生理痛は痛み止めを飲めば対処できる範囲だったのですが、あまりにも生理痛がひどいときがあり、念の為婦人科を受診しました。そのときは「卵巣が多少腫れてはいるけど様子をみましょう」と言われたのですが、それから数ヶ月経って再度不調が気になったので、もう一度受診しました。再び卵巣を診てもらうと、今度は卵巣が大きく腫れていたのです。そこで精密検査を勧められ総合病院に紹介状を出してもらい、そちらの病院を受診しました。
編集部
子宮内膜症は、不妊の原因の一つとも言われていますね。
ゆらさん
そうみたいですね。本来は子宮の中にあるはずの「子宮内膜」が子宮以外の場所で増えてしまう病気だそうですが、検査の結果、私の場合は子宮内膜が卵巣で増殖してしまい、左の卵巣の中に血液が溜まってしまっている状態とのことでした。そのため、入院して溜まった血液を除去する手術を受けることになったのですが、仕事の都合で数ヶ月間は手術せずに生活を送っていました。
編集部
その間、痛みなどは大丈夫でしたか?
ゆらさん
痛みはずっと続くというわけではなかったので、通常通りの生活を送れていました。
編集部
そんななか、お仕事を続けるのは大変でしたね。
ゆらさん
そうですね。ただ、子宮内膜症を発症したことは周りに伝えていたので、色々と協力してもらうことができました。
編集部
入院や手術で大変だったことはありますか?
ゆらさん
術後の痛みが一番辛かったです。痛みで全然寝られず、ナースコールを何度も押したことを覚えています。座薬や点滴の痛み止めを入れてもらい、なんとか寝られたという感じでした。
体外受精の一回目で見事妊娠
編集部
術後、妊娠に至るまでの経緯を教えていただけますか?
ゆらさん
術後に結婚や妊娠の予定はなかったのですが、主治医から「手術をしても生理が来るたびに再発のリスクがあるので、すぐに妊娠の予定がないなら生理を止めるお薬を使いましょう」と言われていたので、結婚するまでその薬を内服していました。
編集部
結婚してから、すぐに妊活を始めたのですか?
ゆらさん
術後3ヶ月ごとに地域の婦人科で経過観察を受けていたので、結婚後もそのまま主治医の指示のもと、まずはタイミング法から始めました。なので、私の場合は自己流の妊活はしたことがなく、最初から病院の不妊治療を受けることになったという感じです。
編集部
タイミング法を始め、すぐに妊娠に至ったのでしょうか?
ゆらさん
タイミング法でなかなか赤ちゃんを授かることができず、人工授精に進みましたが、それでも妊娠には至りませんでした。色々と検査を受けたのですが、排卵にも着床にも問題がないと言われ、「原因不明」と言われていました。結果的には、体外受精を受けて、一回目で妊娠に至りました。
編集部
日常生活でも、妊娠のために何かしていましたか?
ゆらさん
体外受精にステップアップすることは私にとってはとても大きな事だったので、体外受精をする前に、一般的に「妊活に良い」と言われる温活や整体など、できることは全て試しました。「これをやったら妊娠した」という口コミを聞くと、飛びついていました。今考えると結果としては、「早く体外受精に進めば良かったのかも」と思いますが、必要な時間だったようにも思います。中でもヨガを習っていた時間は、心身共にリフレッシュできて、とても良かったです。妊娠のためには心のケアが一番だと思うので、無理して何かをするというよりは、自分がリフレッシュできることをするのがよいのかもしれません。
編集部
治療中、大変だったことはありますか?
ゆらさん
「どれだけ頑張れば報われるのかわからない」という現実に向き合うことが辛かったです。悲観的になってしまい、仕事が辛く感じてしまったり、ストレスから夫に八つ当たりしてしまったりしたこともありました。不妊治療は急に受診の日程が決まることもあったので、スケジュールの調整も大変なこともあり、肉体的にも精神的にも辛い時期となりました。
編集部
お仕事も続けながら治療を受けていたのですね。
ゆらさん
最初は仕事と治療を両立していました。ですが、体外受精を受けるにあたり、きちんと説明を受け、仕事を辞めて治療に専念することに決めました。不妊治療をしながら仕事をしている人は周りにもいました。退職しようか悩んだことがあるという人も多かったです。私は自分の性格上、両立することは難しいと判断しました。退職するかどうかもかなり悩みましたが、退職して体外受精をしたらすぐに赤ちゃんを授かれたので、結果的には良かったと思っています。
編集部
ご主人とは、どんな話をされていましたか?
ゆらさん
主人は子どもが好きで「ほしい」と言っていましたし、私の治療にも協力的で、通院の送迎などもしてくれていました。私が仕事をしているときは、精神的な辛さから主人に当たってしまうこともあったのですが、主人は何も言わずいつも我慢してくれていて、「あの時は辛かったんじゃないかな」と思っています。
編集部
ご夫婦で治療を乗り越えるため、何か配慮したことはありますか?
ゆらさん
夫婦でたくさん話し合いをしたことが良かったと思います。体外受精を始め、回数を重ねても妊娠できなかった場合、ゴールがないなと思ったので、治療を始める前に主人とよく話し合いをしました。話し合いをする中で、「体外受精は5回までにしよう」とか「40歳までに妊娠できなかったら諦めよう」と数字にして「やめどき」を考えていました。
編集部
なるほど。上手くいかない場合の引き際を考えたのですね。
ゆらさん
ただ、体外受精を5回やってダメだったとしたら、正直、それで本当に諦めがついていたかはわかりませんでした。なので、2人で「妊娠が人生の全てではない」ということを再確認した上で、治療を進めながら、心境の変化に応じて話し合いをすることにして、体外受精に進みました。話し合いをする中で、主人から「僕はあなたが好きで結婚したから、もし子どもができなくても構わない」と言ってくれたことも嬉しかったです。
夫婦での話し合いが重要
編集部
不妊治療を振り返って、感想を聞かせてください。
ゆらさん
不妊治療は明確なゴールがないし、努力しても報われないかもしれないという面があるため、それに向き合うことが本当に辛かったです。今、2人目を考えていて、凍結胚を移植する予定なのですが、またその現実と向き合うことになるので、正直しんどさも感じています。今年から不妊治療に保険が適用されたとのことですが、私の場合は採卵したのが保険適用の前だったので、今後の凍結胚保存のための更新料なども保険が適用されず、まだ高額だな、と感じています。
編集部
治療前後でご夫婦の関係性などに変化はありましたか?
ゆらさん
主人と育児や家事の分担をしていますが、それが原因で喧嘩してしまうこともあります。でも、子どもができて生活が変わり、その変化に夫婦で少しずつ慣れてきたので、今では喧嘩も減ってきました。私は母が近くに住んでいることもあり、母の協力が得られていることも大きな救いです。
編集部
不妊治療に対して、もっとこうなったらいいなと感じたことはありますか?
ゆらさん
保険適用になったことは凄く良いことだと思うのですが、併用する薬や治療によっては保険が適用されないことも多々あるようなので、そういったことも解消されれば良いなと思います。
編集部
ありがとうございました。現在不妊でお悩みの方や、これから不妊治療を受ける方に向けて、メッセージをお願いします。
ゆらさん
同じ不妊治療をしている女性同士でも分かり合えないことは多くあると思うし、不妊治療中は孤独な気持ちになりがちだと思います。やはり、夫婦で支え合うことが一番力になると思うので、たくさん対話を重ねて、夫婦で楽しい時間をたくさん過ごし、おいしい物をたくさん食べて、笑顔でいようとする気持ちが大切なのではないかと思います。
編集部まとめ
ゆらさんの場合には、子宮内膜症の手術から不妊治療へと進み、精神的・肉体的な負担も大きかったことでしょう。そんな中、ご夫婦でよく話し合ったことが良かったと話してくれました。不妊治療中は先が見えず、不安やストレスが生じることもあるかもしれません。しかし、治療を進める上では、パートナーとよく話し合い、お互いの気持ちを確認し合ったりゴールを設定したりすることも重要といえるでしょう。