不妊治療ってどれくらい辛い!? リアルな話を専門医に聞いてみる
副編集長の佐藤あやが、20~30代女性の気になる医療情報を専門医に聞く対談企画の第3弾。2022年4月から不妊治療が保険適用されることで話題の今、産婦人科専門医・菊地盤先生にここでしか聞けない、リアルな不妊治療話や男性不妊症について解説してもらいました。
監修医師:
菊地 盤(メディカルパーク横浜 院長)
順天堂大学医学部卒業。順天堂大学医学部附属病院の産婦人科での勤務を経て、2019年から現職。これまで多くの婦人科腹腔鏡手術を経験し、婦人科内視鏡手術のガイドライン策定にも携わっている日本産科婦人科学会産婦人科専門医、日本生殖医学会生殖医療専門医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医、日本がん・生殖医療学会理事、日本不妊カウンセリング学会評議員 、ベストドクターズ2018~2019。
佐藤あや(「Medical DOC」副編集長)
モデル。最新医療に関心が高く、2021年8月から「Medical DOC」副編集長に。YouTubeチャンネル『教えてドクター・Medical DOC』でMCとして活動。一児の母としての目線にも注目。
タイミング療法のリアルな話
佐藤あや
不妊治療っていろんな種類があると思うのですけど、それぞれどんな治療するのか教えてください。
菊地先生
よく言われるのはタイミング療法、人工授精、体外受精の3つです。基本的に不妊治療として自費で行われているのは、人工授精と体外受精です。
佐藤あや
タイミング療法から詳しく教えてください。
菊地先生
タイミング療法というのはお二人である程度できるものですから、病院に来てやるというと、違うかもしれません。排卵がうまくいっていない方は排卵障害の治療として薬を使って排卵をさせ、それに合わせてタイミングを持ってもらう方法としてやっていることが多いですね。タイミング療法について、よく皆さんが勘違いされているのは、排卵する日に性交渉を持てば妊娠しやすいなんて思っている方も多いのですけど、精子をたくさん入れることと排卵日の正確な予測というのは難しいと思います。排卵の2日前が一番妊娠しやすいというデータもありますが、排卵の2日前に排卵するタイミングを予測するのはなかなか難しいので、性交渉を普段からある程度の頻度で行って、排卵が起こるというのを後から確認する方が、より正確に当てることができると思います。
佐藤あや
普段からの性交渉の頻度を多くすることが重要なのですね。
菊地先生
市販に排卵検査薬もありますが、そこだけに頼らず性交渉の頻度を上げていくことの方が重要だと思います。精子というのは射精された直後は受精能を持っていないのです。受精できるようになるには、ハイパーアクチベーションというのを起こさないといけないので、少し時間が経ってから受精できるようになります。卵子というのは排卵されてだいたい1日、2日で受精能を失ってしまうのですけど、精子は長いと5,6日ぐらいは生きると言われています。排卵の1週間くらい前から、タイミングを持っておいて、そこに排卵も合わせていく方が妊娠はしやすいと思います。
人工授精と体外受精のリアルな話
佐藤あや
人工授精について詳しく教えてください!
菊地先生
人工授精はタイミング療法の延長線上だと考えていただきたいですね。まずは、排卵の時に合わせて旦那さんの精子を持ってきていただくか、医院に来て精子を容器にとっていただき、その精子を1回確認します。精液所見というのは日によってかなり変動しますので、そこでちゃんと確認をしてある程度濃くして処理をした後に子宮に入れるというのが人工授精です。処理をすることで先述したハイパーアクチベーション受精能を持たせるようにすることができるので、排卵の直前だったり排卵直後であったりしても妊娠率はあまり変わらないとされています。
佐藤あや
最初にやる不妊治療としては良さそうですね。
菊地先生
ただ大事なポイントがあって、タイミング療法にしても人工授精にして卵管が通っていないとダメなんですね。受精自体はおなかの中の卵管というところで起こるわけですから、卵管が詰まっていると受精ができません。先ずは卵管造影という卵管がちゃんと通っているかどうかを確認した上でタイミング療法や人工授精を行います。卵管が通っていなければこの後の体外受精ということになります。
佐藤あや
なるほど。体外受精について詳しく教えてください。
菊地先生
体外受精は先程お伝えしたように、受精が起こる卵管が機能しないわけですから、卵管で起こっていることを外の培養器で行って受精卵が出来たところで子宮に戻すというやり方になります。
各治療法の妊娠率と治療期間
佐藤あや
妊娠率は治療法によってかなり異なりますか?
菊地先生
妊娠率は急激に違ってきます。人工授精は1回あたりの妊娠率が7~8%ぐらいです。人工授精でご妊娠できる方の80%以上が4回目ぐらいまでには妊娠すると言われています。人工授精を3~4回やってあまり結果が出ない場合、体外受精に進むというのも一つの考え方ですね。
佐藤あや
やはり体外受精が妊娠率は高いのですか?
菊地先生
体外受精自体は考え方がなかなか難しいのですけれど、卵を採るというフェーズと戻すというフェーズを別に考えることができます。受精卵を凍結して保存しておくことができるので、卵を採って何個か保存しておくと1個ずつ戻していけばチャンスを次につなげることができます。そういう意味ではかなり高い確率でご妊娠を考えることができます。
佐藤あや
体外受精はどれぐらいの期間必要なものですか?
菊地先生
卵を採るフェーズと戻すフェーズを別に考えることができるというお話をしましたが、卵を採るのは月経周期に合わせてやることが一般的なので、卵を採る1カ月、卵を戻す1カ月、その間は1カ月程空くことがありますので3カ月ぐらいかかることが多いと思います。
もちろん卵をとって同じ周期で戻すということもできます。
佐藤あや
はじめから体外受精をされる方もいらっしゃるんですか?
菊地先生
アメリカのガイドラインでは38歳を超えたらもう人工授精を考えず、すぐに体外受精をした方がいいと書いていますね。この年齢というのは非常に難しい部分で一概に38という数字にこだわるのは難しいかもしれませんけれど、やはり年齢が高くなると体外受精でも妊娠率が下がってしまいます。いろいろな統計だと35歳ぐらいから体外受精でも妊娠率が段々下がってきてしまいますので、30代中頃を過ぎたら人工授精を何回かやって難しければ体外受精を視野に入れたほうがよさそうですね。
無精子症の場合は、男性の○○にメスを入れる!?
佐藤あや
男性不妊の場合はどういう治療があるのですか?
菊地先生
不妊の原因の半分は男性ですので、精液の所見が悪かったり精子が少なかったりした際は、泌尿器科的な手術や治療になります。精索静脈瘤という病気の場合は、精子の所見が悪く精子の数が少なくても治療することで良くなる場合があります。ものすごく精子の数が少なくて治療しても難しいという場合は、体外受精になります。その中で顕微授精といって、卵子1個に精子を打ち込む治療があるのですが、精子が少なくても卵子1個に対し精子1個あればなんとかなるので、かなり精子が少ない乏精子症の方に適用されます。
菊地先生
射精された精液に精子がない方の場合、無精子症と言われるのですが、その場合は精巣の中の精子を採って体外受精・顕微授精することもありますね。
佐藤あや
え……その精巣の中の精子はどうやって採るのですか?
菊地先生
これは泌尿器科の先生がやりますが、男性の陰嚢をメスで切り開いて精巣の中から直接 採ることになります。もちろん麻酔しないといけません。
佐藤あや
そうですよね(笑)聞いただけでも痛そうだなって感じなんですが……。注射で直接ピュッと採れるものじゃないのですか?
菊地先生
しっかりと精巣を開いて中にある精細管を見ていかなきゃいけないので、顕微鏡を使いながらやるような手術になります。
佐藤あや
ちなみに男性不妊治療にかかる費用はどうなのでしょうか?
菊地先生
助成金が出る地域もあり、泌尿器科の先生によっても異なりますが数十万円かかる手術になります。
佐藤あや
特に年齢が高い方については、とにかくなるはやで!クリニックを受診していただくのが一番ですね。特に4月以降は不妊治療に保険が適用されているので。今は情報を待ちたいと思います。
菊地先生
不妊は珍しい病気ではなくて、非常に身近なものだと捉えていただいて、検査や治療をお受けになっていただくといいなと思いますね。明日は我が身で考えていただくといいと思います。
佐藤あや
今日お話を伺っただけでも、本当に色々な原因で不妊になり得るんだなというのがわかったので、4月から不妊治療が保険適用されますし、気軽に受診できるといいですね。