妊活って具体的にどのようなことをするの？
妊娠に向けた準備のことを「妊活」と呼ぶようになってきました。ただし、その範囲は限りなく広く、いまひとつ的が絞りきれません。そこで、産婦人科の医師が考える「妊活」にスポットを当ててみました。「五十嵐レディースクリニック」の五十嵐先生が詳しく解説します。
監修医師：
五十嵐 豪（五十嵐レディースクリニック 院長）
聖マリアンナ医科大学卒業、聖マリアンナ医科大学大学院修了。聖マリアンナ医科大学病院での研修医を経て、聖マリアンナ医科大学産婦人科学講師・産科副部長などを歴任。2020年、「女性の美と健康を守り、すこやかな生活を支えていきたい」との思いから、神奈川県川崎市に「五十嵐レディースクリニック」開院。医学博士。母体保護法指定医、日本産科婦人科学会産婦人科専門医、日本女性医学学会女性ヘルスケア専門医・指導医・評議員・学会幹事。
妊活がその後の「人生」を決める
編集部
妊娠のための準備、いわゆる「妊活」って必要でしょうか？
五十嵐先生
中身にもよりますね。私の考える妊活とは「プレコンセプションケア」のことです。「妊娠前からの健康管理が、次世代の子どもと自分の人生を改善する」という考え方に基づいた、自己管理・自己啓発法の一種です。
編集部
「人生」ですか！ ずいぶんドラスティックに聞こえます。
五十嵐先生
そうでもないですよ。例えば、病気の状態で妊娠すると、場合によっては、出産の時期を早める必要が生じます。そうなると、母子の健康はもちろん、その後の人生にも影響を与えてしまうかもしれません。希望する妊娠生活、育児生活にむけて自分の体を管理することが、いわゆる「妊活」なのだと考えます。
編集部
なるほど。「プレコンセプションケア」の具体的な中身について教えてください。
五十嵐先生
詳しくは「国立成育医療研究センター」のサイトなどを参照ください。「プレコンセプションケア」で検索すれば、上位に表示されるはずです。主たる着眼点は、以下の5項目になるでしょうか。
・風疹予防
妊娠初期の段階で風疹にかかると、胎児が「先天性風疹症候群」と呼ばれる疾患を発症する可能性があります。ぜひ、風疹抗体の有無を調べ、必要であれば風疹ワクチンを接種してください。
・子宮頸がん検診の受診
がんが発見されたときのステージによっては、子宮を摘出しなければならないこともあります。妊娠を諦めるだけでなく、ご自身の生命予後にも関わってきます。なお、子宮頸がんのほとんどはウイルス感染によって生じるため、HPVワクチンの接種が有効です。
・クラミジア感染のチェック
性交渉によって感染するクラミジアは、不妊の原因となります。女性では自覚症状が少ないため、知らず知らずのうちに感染していることが多いのです。検査や治療は比較的容易です。
・妊娠前からの体重管理
妊娠してからダイエットすると、胎児に十分な栄養が行き渡らない可能性があります。適正な体重で妊娠することが大切で、妊娠前のBMI（体重[kg]÷身長[m]÷身長[m]）の数値が22前後であることが望ましいです。逆に痩せすぎも好ましくなく、お腹の中の赤ちゃんが大きく育たなくなる可能性が高まります。加えて、妊娠中も適正な体重管理を心がけましょう。
・葉酸と鉄分の摂取
葉酸の摂取は、厚生労働省も推奨しています。他方の鉄分は、胎児の血液をつくるために母体から奪われていきます。出産時の出血も考慮して、十分に摂取しておきましょう。妊娠前から生理の量が多くて貧血気味の方は、その原因を調べておきたいですよね。不妊につながる病気が隠れているかもしれません。
ほか、健康診断の受診や禁煙など、かかりつけの産婦人科から個別に受けるアドバイスがあるかと思います。
必要以上の差別意識をもたず、率直に話しあおう
編集部
女性の健康管理に限らず、家族計画のような話し合いも必要ですよね。
五十嵐先生
もちろんです。例えば、「自分が40歳になるまで子どもを3人ほしい」とするなら、計画的な出産が必要になるでしょう。また、予定外の妊娠を避ける話し合い、つまり「避妊」も、妊活の一形態といえるのではないでしょうか。
編集部
夫婦で目標を同じところに定めることが必要なんですね。
五十嵐先生
「女性と男性の年齢による体の変化には違いがある」ということです。一般的に女性は35歳を過ぎると、卵子の質の衰えが加速します。すなわち、妊娠しにくくなることは事実です。
編集部
一方、男性の妊活についてはどうでしょう？
五十嵐先生
一般的には精液の検査を行います。不妊のカップルの約半分は男性側に原因があるとされています。精液検査では、精子の量や奇形率、運動量などを調べます。なお、精子の状態は、その日の体調によっても左右されます。仮に診断結果が良好でも、ご本人の疲労時には、精子も疲れているようです。
コロナ禍での「妊活」のあり方
編集部
新型コロナウイルスの流行が心配です。とくに気をつけたい点はありますか？
五十嵐先生
新型コロナウイルスの影響は、日本生殖医学会でも話題に上っています。妊娠の見送りにより、適齢期を逃してしまうことが懸念されますよね。今のところ、新型コロナウイルスに、風疹ウイルスのような悪影響は認められていません。他方で加齢は、妊娠率を確実に下げます。
編集部
今の卵子を凍結保存して、様子見するという方法は？
五十嵐先生
新型コロナウイルスがいつ治まるかは、いまだ予想できないですよね。また、卵子が若いままだとしても、受精卵を移植するのは時間の経過したご自身の子宮です。当然、妊娠時の年齢が高くなれば帝王切開や妊娠による合併症などのリスクが高まります。ですから、新型コロナウイルスの流行は、妊娠を見送る理由にならないでしょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
五十嵐先生
まずは、「プレコンセプションケア」の存在を知っていただきたいですね。そして、できることをすぐに始めてみましょう。ご自身で実践していただく内容が多いのですが、不明な点があれば産婦人科や不妊治療の専門医院などにご相談ください。
編集部まとめ
抽象的な「妊活」という言葉に、具体的な内容が伴いました。その一例が「プレコンセプションケア」です。ちなみに「コンセプション」とは「受胎」のこと。日本語に直すなら「受胎前の配慮」といったところでしょうか。しかしその内容は、その後の次世代にもつながる「人生への配慮」です。冒頭に示した5項目がすべてではなく、器質的・医学的な自愛に努めてください。
医院情報
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