【不妊治療】自分にあった心理カウンセラーの探し方、3つのポイントから生殖心理カウンセラーが解説
不妊治療中は心理的に不安定になることが多いもの。そんなときには心理カウンセラーのカウンセリングを受けると進むべき方向性や気づきを与えてくれるかもしれません。しかし、わが国では『カウンセラー』と一口に言っても、心理カウンセラーを指すとは限りません。心理カウンセラーであってもどのような教育や訓練を受けてきたかといった背景や、どのような相談が得意かといった専門性も異なります。では一体、どのようにして自分にあった心理カウンセラーを選べば良いのでしょうか。そこで今回は、生殖心理カウンセラーの平山先生に、不妊治療における心理カウンセラーの探し方について詳しくお話を伺いました。
監修生殖心理カウンセラー:
平山 史朗(東京リプロダクティブカウンセリングセンター/東京HARTクリニック)
日本生殖心理学会 副理事長、 日本の生殖心理の第一人者、大学・米国で指導を受けたのち、20年以上不妊治療専門クリニックで患者さんの心理ケアに携わる。
生殖心理に関わる数々の専門講座の監修・講師なども幅広く務める。
ポイント①意外と多い悩み「医師とのコミュニケーション」
編集部
不妊治療の診察時間が短く、ゆっくり質問や相談ができないという悩みや医師の言葉に傷ついたという声も多いと聞きます。
平山先生
診察時間は限られていますから、その時間内に治療のことや今後のこと、治療に関する悩みなど、すべての話を聞いてもらおうとするのは難しいでしょう。まず考えてほしいのは「医師に何を求めるか」ということです。当たり前のことですが、医師の役割は医療に必要な情報を提供し、診療をすることです。つまり、「医師にゆっくり話を聞いてもらえない。気持ちをわかってもらえない」と感じるのは、当然の流れなのかもしれません。
編集部
不妊治療中に感じたもやもやした気持ちを解消するには、どんな対処方法がありますか?
平山先生
治療に関する疑問や質問を医師に尋ねたいときには、限られた時間でスムーズに質問することができるよう、診察前に要点をメモするなど、話題をまとめておくことをお勧めします。また、医師は時間が取れないけれど、代わりに看護師が回答してくれるということもあるでしょう。
編集部
不妊治療について、病院以外でゆっくり相談したい時にはどんな選択肢があるのでしょうか?
平山先生
まず考えてほしいのは、「何を相談したいのか」ということです。つまり、「情報がほしいのか」「気持ちをわかってほしいのか」で、相談先が異なります。医療情報をもっと理解したい場合には、日本生殖医学会が認定している「生殖医療コーディネーター」や看護師の中でも専門性の高い「不妊症認定看護師」、日本生殖心理学会が認定している「生殖医療相談士」に相談することをお勧めします。また、「不妊カウンセラー」や「体外受精コーディネーター」という有資格者も医療情報への対応ができる場合があります。あとは、治療に伴う不安やストレスへの対処などを希望するなら、心理の専門家で不妊について詳しい「生殖心理カウンセラー」に相談するのがよいでしょう。自分と同じ不妊を経験した人に話を聴いてもらいたい場合には、日本最大の不妊当事者団体であるNPO法人Fineが認定している「不妊ピア・カウンセラー」に相談することもできます。もし、経済的な不安があるなら「ファイナンシャルプランナー」に相談するのも良いでしょう。
編集部
相談内容ごとに、いろいろな窓口があるのですね。
平山先生
それから、意外とみなさんが利用していないのが、自治体が設置している「不妊・不育専門相談センター」です。ここでは助産師や専門医、心理士やピア・カウンセラーなどが相談にのってくれて、無料で利用できます。もちろん、自治体によって取り組み方が異なるので確認が必要ですが、このようなサービスを積極的に利用するのも良いでしょう。
ポイント②カウンセリングのスタートは良好な関係作りから
編集部
生殖心理カウンセラーと不妊カウンセラーは何が違うのでしょうか?
平山先生
一番の違いはもともとのバックグラウンドと訓練の程度です。不妊カウンセラーは日本不妊カウンセリング学会の認定資格を所持しており、主に医療についての説明や情報提供を行い、それをもとに患者さんが意思決定するのを支援します。一方、生殖心理カウンセラーは心理職としての専門資格である公認心理師や臨床心理士をすでに持っている心理の専門家が、不妊特有の心理を理解するために日本生殖心理学会が開催している70時間以上の養成講座での訓練を受け、認定試験を経て認定を受けています。もともと心理援助ができる人が、生殖や不妊の悩みを抱える人に専門的な心理支援をしているのです。
編集部
妊活や不妊治療中に心理カウンセリングを受けるメリットについて教えてください。
平山先生
一般に、体外受精の治療を受けている患者さんの約半数は、軽度以上の抑うつ状態にあるということが最近の調査であきらかになっています。心理状態の悪化は直接的に治療結果に影響するというわけではありませんが、不妊治療を続けられなくなったり、治療から離れざるを得なくなったりして、結果として妊娠できなくなってしまう可能性があります。心理カウンセリングを受けることで心理状態が改善し、自分が希望する不妊治療を納得して続けていくことができるというのが、カウンセリングを受けるメリットの一つでしょう。
編集部
ほかにメリットはありますか?
平山先生
患者さん自身がストレスに対して上手に立ち回れるようになるなど、心理的な対処スキルを向上させることができるというのもメリットです。そうしたスキルは不妊治療においてだけでなく、日常生活全般にも役立つと考えます。
編集部
普段から理解しあえていないと、気持ちを吐き出すのは難しいと感じますが、自分にあった生殖心理カウンセラーの選び方のポイントはありますか?
平山先生
一般的に、カウンセリングのスタートは良好な関係作りから始まります。自分のプライベートや深刻な悩みを打ち明けるのですから、きちんとした関係性を築くことができなければカウンセリングは成り立ちません。そのため、最初の数回は患者さんもカウンセラーも、お互いを知る時期と考えて良いでしょう。最初から「このカウンセラーは合わない」と決めつけてしまうのではなく、しばらくは受け続けてみてほしいと思います。
編集部
お互いの関係性を築くことが大事なのですね。
平山先生
不妊治療中の患者さんの多くは、「周りから理解してもらえない」という悩みを抱えています。そのため、「カウンセリングでも理解してもらえなかったら」という不安を感じるのは当然です。しかし生殖心理カウンセラーは、不妊治療についての知識を持ち、患者さんにどう対応するかという訓練を受けていますので、不妊そのものを体験したことはなくても、専門家として患者さんが抱える不安や悩み、喪失感などを理解しています。ぜひ、信頼できるカウンセラーに出会い、良い関係性を育んで、治療期間中の不安やストレスを軽減してほしいですね。
ポイント③ネット情報との付き合い方も考えてみよう
編集部
最近は不妊治療の専門医がSNSで情報発信するといったケースも増えていて、担当医の先生と異なる説明に混乱してしまう患者さんも多いようです。
平山先生
確かにそういった傾向にある患者さんは多いですね。そうやって混乱してしまう患者さんの場合、現在の治療がうまくいっていないことが大半です。だから「今、自分が受けている治療はなにか間違っているのではないか」という不信感が出てしまうのです。
編集部
ネットやSNSで見つけた治療に関する情報を担当医の先生に相談しても大丈夫でしょうか?
平山先生
そうした情報を医師に相談する場合は、言い回しを工夫するとよいかもしれません。大半の医師は非常に勉強熱心で、信念を持って治療を進めていますから、そこへ「この治療法を試してみたい」「ネットにはこう書かれていたんですが……」などと患者さんから指摘されると、どうしても関係性が悪くなってしまうことがあります。もし、ネット上で見つけた情報が気になり、担当医師に聞いてみたいのであれば、「今の治療に不満があるということではなく、○○という方法があると知り、それが自分にとって有効なのかどうか、先生の考えを知りたい」と伝えれば、医師との関係も悪化することはないと思います。
編集部
ネット情報で過剰に不安になったり、惑わされたりしないために心がけることがあれば教えてください。
平山先生
現実的に、ネット情報に振り回されている患者さんが多いことは、医療者の一人としてとても残念に感じています。何より大事なことはネット上の情報をそのまま鵜呑みにしないことです。まずは「その情報の出どころは信用できるものか」と疑い、情報のソースを確認しましょう。そして、それが正しいと判断するだけの根拠(論文や研究結果など)がどれくらいあるか、探してみましょう。次に、その情報が正しくないと否定している論文や意見はないか、探してみましょう。そうすると、「確かにこの情報は完全に間違っているわけではない。でもこの情報が当てはまるのはこういう場合に限るのだな」と、情報の限定性などがわかってくると思います。
編集部
そうした論理的な思考が大事なのですね。
平山先生
これはビジネスの世界でもクリティカルシンキングやロジカルシンキングと呼ばれる技法で、論理的な思考で判断することで理性を持って行動することができるようになります。たとえば夫婦で「夫は論理的な思考が得意」「妻は新しい情報を見つけるのが得意」というケースなら、「こういう情報を見つけたんだけど、あなた、根拠を調べてくれる?」と、お互いに役割分担するのも良いでしょう。ただし、常に覚えておいてほしいのは、「万人に有効な不妊治療はない」ということです。その点をしっかり頭のなかで意識して、新しい情報を精査してほしいと思います。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあればお願いいたします。
平山先生
現在、日本にいる不妊専門の心理カウンセラーは80人ほどです。以前より増えたとはいえ、まだまだアクセスしづらいかもしれません。しかし今後、どんどん増えていくことが予想されますし、また不妊治療をサポートするアプリなどの開発も続くと思います。心理カウンセリングは決して特別なものではありません。「この程度の悩みでカウンセリングを受けてはいけないんじゃないか」と考えずにぜひ気軽にカウンセラーを頼ってほしいと思います。カウンセリングは「メンタルがダメになってから受けるもの」ではなく「ダメになる前に受けるもの」です。まずは、自分が何を知りたいのか、何について不安に思っているのかを整理して、それに適した窓口を探してほしいと思います。
編集部まとめ
不妊治療に取り組んでいる女性の半数以上が軽度の抑うつ症状を発症しているという事実は、不妊治療が女性にとって大きなストレスや悩みになっている証拠です。だからこそ、カウンセラーなど専門家の力が大切と感じます。専門家の力を借りれば視野が広がり、これまで考え付かなかった解決策が見つかることもあるでしょう。まずは「いま、どんな悩みや不安を抱えているのか」「何の相談にのってほしいのか」を明確にするところから始めてみてはいかがでしょうか。