【闘病】徐々にできないことが増えていく「三好型筋ジストロフィー」とは
三好型筋ジストロフィーは四肢、特に体幹から遠い筋肉に力が入らなくなる疾患です。国内でも有病者数は300人もいないと予測されているほど超希少疾病と言われています。発症後は10年ほどで歩行が困難になることが多く、長期経過すると呼吸障害が起こることも。現時点では根本的な治療法がないため、対症療法として装具の使用やリハビリテーションが行われます。そんな三好型筋ジストロフィーと闘う松本直之さんに、話を聞かせてもらいました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2022年1月取材。
体験者プロフィール:
松本 直之
奈良県在住の1983年生まれ。3児の父親。診療放射線技師養成学校に通っていたときに三好型筋ジストロフィーと診断される。現在は診療放射線技師として働いている。
記事監修医師:
出口 誠(医師)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
筋ジストロフィーと生きていくことに
編集部
三好型筋ジストロフィーが判明した経緯について教えてください。
松本さん
19歳の時に熱中症になり、血液検査を受けた際に、たまたまCPK(クレアチンフォスフォキナーゼ。心臓をはじめ骨格筋、平滑筋など筋肉のなかにある酵素)が異常高値であることが分かり、三好型筋ジストロフィーが発覚しました。
編集部
はじめに身体に起きた異変、初期症状はどのようなものでしたか?
松本さん
高校3年生のとき、思いっきり走る場面で「なにかうまく走れない違和感」を感じたことがあるので、今思えばそのときから異変が起こっていたのかもしれません。20歳のときに、急につま先立ちが出来なくなりました。でも高校を卒業してからは、全力で走る機会がなくなったことで、気付くのが遅れたということも考えられます。
編集部
三好型筋ジストロフィーが判明したときの心境について教えてください。
松本さん
無自覚だったので、あまりピンときていませんでした。それよりも遺伝疾患と言うことで、母親が僕に「申し訳ない」と謝りながら、わんわん泣いていてそれを励ますのに必死でした。「泣きたいの、僕なんですけど」と言っていましたね(笑)。
編集部
どのように治療を進めていくと医師から説明がありましたか?
松本さん
「根本的な治療方法は無いので、上手に付き合っていきましょう」と言われています。現在はロボットスーツを用いたリハビリが、自分に合うか試しているところです。膝のサポーターなども試しています。治療というより、いかにうまく病気と付き合っていくかに重きを置いていますね。
編集部
セカンドオピニオンは受けられましたか?
松本さん
そうですね、発見してから何軒も病院を回り、いろんな医師の意見を聞きながら今の病院、担当医師に落ち着きました。今はほかのオピニオンの希望はありません。
編集部
Instagramを拝見したのですが、これまでにさまざまな脚のサポーターを使用されていましたね。現在使用されているものはどのようなものなのでしょうか。
松本さん
現在は特に弱っている左膝に「kneemo」というサポーターを使用しています。本来は半身麻痺の方向けのサポーターです。左右前後に4本のゴムバンドを装着できるようになっていて、ゴムバンドには1〜3kgの力があります。前2本は膝の伸展を、後ろ2本は屈曲をサポートしてくれるという作りですね。ゴムバンドの種類を自分で調整することにより、歩行をスムーズにサポートしてくれます。あまり強いゴムを選ぶと逆に歩きづらいですが、症状の進行に合わせてゴムの種類を変更していけるのは良い点かなと思っています。
いつでも周りの人が支えてくれた
編集部
三好型筋ジストロフィー発症後、生活にはどのような変化がありましたか?
松本さん
筋ジストロフィーを発症してから、できないことが増えましたね。しかし「いま自分に出来ることはなんだ?」と考えるようにもなりました。制限がかかった状態ではありますが、できることはやろうと、前向きに物事を考えられるようになった気がします。あと1番の変化と聞かれれば、当たり前ではない「今」に感謝できるようになりましたね。
編集部
症状の改善、悪化を予防するために気をつけていることはありますか?
松本さん
歩行改善のためにロボットスーツ「HAL®」を試しています。あとは転んでケガをしないように気をつけていますね。体調面を考慮して禁酒を目指していますが……。「禁酒しないと」という想いはあるのですが、なかなか(笑)。
編集部
治療中の心の支えはなんでしたか?
松本さん
両親や兄弟、友人、妻、子どもたちの存在です。発症から18年経ちますが、いつの時期だって、その時いてくれる周りのすべての人に支えられています。
編集部
現在の体調や生活の様子について教えてください。
松本さん
体調は良好です。逆に僕の代わりになんでもこなす妻の体調が心配ですね。子どもたちもたくさんお手伝いしてくれていて、「感謝感謝」の毎日です。
障がいを持った人とも一緒に楽しんでほしい
編集部
もし昔の自分に声をかけられたら、どんな助言をしますか?
松本さん
「さっさと現実受け入れて、自分の病気のことや福祉制度のことをもっと勉強せぇ」と言いたいです。これらの知識は本当に大切だと思うので。昔どころか今の自分にも言い聞かせています(笑)。
編集部
三好型筋ジストロフィーを意識していない人に一言お願いします。
松本さん
筋ジストロフィーに限らないと思いますが、なにか困ったことがない限りは健常者として扱って欲しいです。また、ワガママなことを言っているのは承知ですが、困っているときは優しくサポートをしていただきたいです(笑)。
編集部
医療従事者に望むことはありますか?
松本さん
私は三好型筋ジストロフィーになってから歩く、座る、立つ、寝るなどを急かされるのが怖いと感じるようになりました。筋ジストロフィーの方とかかわるときは、動作を急かさず、見守ってあげてほしいですね。
編集部
最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。
松本さん
僕がいま笑って過ごせるのは、間違いなく家族や友人達のおかげです。皆さんの周りにも障がいや病気を持っている方がいるなら、その人に合ったやり方で、今を全力で一緒に楽しんであげて欲しいと思います。
編集部まとめ
松本さん自身、まさか自分が筋ジストロフィーになるなんて思ってもいなかったでしょう。「僕の症状は刻一刻と悪化していくので適応して全力で楽しく生きる!」という松本さんは本当に強い方だと思います。また「なにか困ったことがない限りは健常者として扱って欲しい」という松本さんの言葉も、より多くの方に届いてほしいと感じました。できなくなったことばかりを見るのではなく、できることにも目を向けていきたいですね。