~実録・闘病体験記~ 3つの難病と共に生きる。子宮頸がんも乗り越えて
「現在、3つの難病とともに生きています」と語る野上さん。3つの難病だけでなく、子宮頸がんも発覚。それでも前を向いて毎日を過ごしています。今回は、筋ジストロフィー、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、全身性エリテマトーデス(SLE)を発症したときの話や、病気とともに生きる生活について、話を聞きました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。21年11月取材。
体験者プロフィール:
野上 奈津
現在は夫と2人暮らし。最初に病気を患ったのは15歳で、筋ジストロフィーを発症。現在も経過観察中。その後、38歳で特発性血小板減少性紫斑病(ITP)を発症。こちらもステロイドと投薬で経過観察中。また、ITPで入院した時に子宮頸がんと診断される。子宮全摘の手術をおこない、再発もなく現在は年に一回の検診のみ。2017年に全身性エリテマトーデス(SLE)を発症。こちらもステロイドと投薬にて経過観察中。現在は「com-pass女性筋疾患患者の会」の共同代表として活動している。
記事監修医師:
村上 友太
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
3つ目のときは冷静に「またか……」
編集部
野上さんは3つの難病を患ったと伺いました。それぞれの病気が判明した経緯について教えてください。
野上さん
15歳のとき、両手をあげることができない私の姿を不審に思った母が、病院に連れていってくれました。そのときは、神経内科を受診。そこで「筋ジストロフィー」と診断されました。特発性血小板減少性紫斑病(ITP)は38歳で発症しました。ある日突然、生理の出血が止まらなくなり、顔面蒼白や呼吸困難、足のふらつきがあったため、大学病院を受診。大量出血がありましたが、緊急の輸血で危機を脱しました。また、その時に婦人科検診を受け子宮頸がんが発覚しました。全身性エリテマトーデス(SLE)は2017年に肺血栓塞栓症で入院した際に受けた精密検査で判明しました。
編集部
3つの難病について詳しくお伺いできますか?
野上さん
筋ジストロフィーは全身の筋肉が徐々に衰えて、少しずつ体が動かなくなり、将来的には体が動かなくなる難病です。ITPは、血液を凝固させる血小板の数値が低下し、出血を抑えられなくなる難病。SLEは、自己免疫が自分自身の皮膚、関節、腎臓や心臓など全身の臓器を攻撃してしまう病気です。
編集部
どのような治療を受けましたか?
野上さん
筋ジストロフィーは現在も治療薬のない難病なので、ステロイド投与と経過観察。ITPも同様に根治的な治療法がないので、ステロイド投与と経過観察です。子宮頸がんは開腹手術で子宮全摘。同時にITPの治療のために、脾臓(ひぞう)も摘出しました。現在は寛解状態です。SLEもやはり、根治的な治療薬がないためにステロイド投薬と経過観察です。
編集部
病気が判明したときの心境について教えてください。
野上さん
筋ジストロフィーの告知は、まだ15歳と幼かったので、人生がこれで終わったと思い涙が止まりませんでした。「将来は寝たきりになるでしょう」との医師の言葉に衝撃を受けました。ITPは、結果的に子宮頸がんを早期で見つけてくれたので、ありがたいきっかけとなりました。ただ、告知を受けた瞬間は「2つ目の難病か」と、治療法のない病気に不安を覚えました。子宮頸がんは、主治医に「ご家族を呼んでください」と言われた瞬間から、「これで、おしまいだ」と覚悟していました。実際の告知の際は、目の前が厚く重い扉に閉ざされたような衝撃でした。世の中は絶望に満ちていると思いました。SLEの告知の際は、もう難病に疲れ果て「またか」という心境です。恐ろしい難病も「これで3つ目の難病だな」と意外と冷静でした。
絶体絶命のピンチだとしても、必ず道は開かれる
編集部
発症後、生活にどのような変化がありましたか?
野上さん
筋ジストロフィーは進行性の難病です。私の顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーは比較的、予後がよいとされていますが、それでも体の筋肉は萎縮していきます。今では外出時は車椅子ユーザーとなりました。子宮頸がんは開腹手術での子宮全摘だったので、体と心に対するダメージが大きく、退院後はうつ病を発症しました。そのせいで会社を退職せざるをえませんでした。
編集部
治療中の心の支えはなんでしたか?
野上さん
子宮頸がんと戦っていたとき、独身だった私の支えは仲間でした。それぞれが仕事で多忙な日々を過ごす中、毎日のように誰かが病室に顔を出してくれました。「あなたは一人じゃないよ」、そう話してくれた友人の言葉は今も宝物です。力強い仲間たちに救われました。
編集部
もし昔の自分に声をかけられたら、どんな助言をしますか?
野上さん
「諦めないこと。絶体絶命のピンチだとしても、必ず道は開かれる。不可能が可能になるように、人の助けをぜひ借りてください。甘えてください」と伝えたいですね。
編集部
現在の体調や生活などの様子について教えてください。
野上さん
筋ジストロフィーは告知から45年たって、室内では歩行器で、外出時は車椅子での生活です。私の顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーは、進行のスピードが緩やかで、人の力をお借りしながら日常生活を送っています。現在はコロナワクチン接種を3回終え(取材当時)、体調は良好です。
想像力をもって人と接する世の中に
編集部
3つの難病を抱えて思うことを教えてください。
野上さん
3つの難病とともに生きることは、とても厄介です。特に進行性筋ジストロフィーで、いつまで自分が歩けるのだろうか、いつまで一人で食事ができるのだろうか、考え出すと底知れぬ不安に襲われます。けれど私は絶望していません。難病ゆえに「日々、生かされていること」を実感できるからです。私に関わってくださる全ての皆様に感謝しています。
編集部
あなたの病気を意識していない人に一言お願いします。
野上さん
目に見える障害、見えない障害を抱えている人がいます。想像力をもって人と接していただけるとありがたいです。
編集部
最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。
野上さん
諦めないことです。医師から告知された通りの診断に疑問があれば、セカンドオピニオンを受けることも可能です。自身の納得のいく治療方針に従えば、そこから希望が見えてくるはずです。絶望しないでください。
編集部まとめ
3つの難病を患ってもなお、諦めず前を向いて歩いている野上さん。もちろん、不安だったこともあるでしょう。野上さんのお話を通して、つらい中にも周りの方々の助けによる励ましが強さになることを感じました。あなたの周りに目に見えない病気や障害をもつ人がいれば、少しの想像力をもって接してみませんか?