不妊治療の保険適用について婦人科医が解説 費用や体外受精、顕微授精など適応範囲はどうなる?
2022年4月に始まった不妊治療の保険適用。「不妊治療は高額な費用がかかる」ということで、これまで妊活をあきらめていた人にはとても喜ばしいことでしょう。そこで新しいガイドラインについて生殖医療専門医が徹底解説。保険を適用する上で気をつけたいポイントを含め、はらメディカルクリニックの宮﨑先生がわかりやすく解説します。
監修医師:
宮﨑 薫(はらメディカルクリニック 院長)
2004年慶應義塾大学医学部卒業、2013年慶應義塾大学大学院医学研究科修了。東京歯科大学市川総合病院産婦人科助教、慶應義塾大学産婦人科助教、ノースウェスタン大学産婦人科(米国シカゴ)研究助教授などを経て2020年5月、医療法人社団暁慶会はらメディカルクリニック院長就任。「最先端の医療で最短の妊娠を」という方針のもと、患者一人ひとりに合った個別化した治療を提供する。日本産科婦人科学会専門医・指導医、日本生殖医学会生殖医療専門医、日本内分泌学会内分泌代謝科専門医、日本女性医学学会女性ヘルスケア専門医、日本再生医療学会再生医療認定医。
目次 -INDEX-
2022年4月に始まった不妊治療の保険適用 厚生労働省のガイドラインをわかりやすく解説
編集部
2022年4月、不妊治療に対する保険適用が変わったそうですね。
宮﨑先生
以前は不妊の原因を特定するための検査や症状の治療、タイミング法のみに保険が適用され、体外受精や人工授精などの不妊治療の場合は、保険の適用範囲外とされていました。しかし今回、厚生労働省により保険制度のガイドラインが改定されたことで、これらも保険の適用範囲となりました。
編集部
保険適用範囲が広がったということですね。
宮﨑先生
そうです。これまで経済的な事情から、妊娠を希望してもなかなか踏み出せなかった妊活中の方たちにとっては、とても喜ばしい診療報酬改定だと思います。
編集部
誰でも保険適用で不妊治療を受けることができるのですか?
宮﨑先生
いいえ、誰でも無条件で保険適用になるわけではありません。治療法によっては年齢や回数に条件があるため、自分が希望する治療が保険適用になるのか、きちんと見定める必要があります。
不妊治療に保険が適用される範囲を説明 人工授精・体外受精・顕微授精は?
編集部
たとえば人工授精には、保険が適用になるための条件があるのですか?
宮﨑先生
人工授精に条件や制限はありません。保険適用で人工授精を行う場合、費用は5460円(患者様3割自己負担額)となります。
編集部
体外受精や顕微授精の場合はどうですか?
宮﨑先生
これらには年齢制限や回数制限が設けられています。保険が適用される胚移植の回数は、女性が40歳未満の場合、子ども一人に対して最大6回まで、40歳~43歳未満の場合は最大3回までとなっています。43歳以上には適応がありません。
編集部
なぜ、そのような制限が設けられているのですか?
宮﨑先生
なぜなら、女性の年齢が上がるにつれて体外受精の成功率が下がるからです。特に43歳を過ぎると、一般的に体外受精で出産に至る割合は5%以下といわれています。不妊治療が保険適用になる目的は、少子化対策なので成功率という点で年齢制限が設けられているのです。
編集部
年齢制限があるのなら、不妊治療を保険適用で行いたい場合は、早めに治療を開始することが大切ですね。
宮﨑先生
そうですね。不妊治療をして子どもを持ちたいと考えている方は、早めに不妊治療専門クリニックを受診することをお勧めします。
不妊治療の保険適用によるメリット・デメリット 高額だった治療費はどう変わるのか?
編集部
不妊治療が保険適用になったことで、どのようなメリットがあるのでしょうか?
宮﨑先生
以前も不妊治療に対する助成制度はありましたが、人工授精は対象外であったり、所得の上限や助成回数に制限があったり、経済的な負担を軽減するには不十分な内容でした。しかし今回、ガイドラインが修正されたことにより、経済的な事情から妊活をあきらめていた人たちも、妊娠を希望できるようになったのは大きなメリットと言えるでしょう。
編集部
ほかにメリットはありますか?
宮﨑先生
高額であるため、自由診療では使うのをためらっていた薬剤が使えるようになりました。たとえば簡単に自己注射できるペンタイプの排卵誘発剤や、あらかじめ注射器に薬剤が入っているプレフィルドタイプの注射などが、今回の保険適用によって「3割負担」で行えるようになりました。これまで当院では人工授精のLHサージ誘起には、比較的安価なヒト尿由来の製剤を使っていましたが、この薬剤はロットにより純度にバラつきがある可能性が考えられました。ですが、ロットにバラつきがなく、純度の高いプレフィルドタイプの注射が保険適用になったことで、人工授精にもこの注射を使用でき、治療の精度を上げることができました。またペンタイプやプレフィルドタイプの注射は、患者さんが自分で簡単に注射できるので、通院回数を減らすことができることもメリットと言えるでしょう。
編集部
反対にデメリットはありますか?
宮﨑先生
あえていうなら、今回の診療報酬改定によって、従来の助成金が廃止されたことがデメリットと言えるでしょう。たとえば、体外受精を繰り返しても妊娠出産にいたらない場合は、保険適用の治療法では対応が難しく、自費による治療が必要になることもあります。そうなるとその周期の治療はすべて自費となり、助成金が廃止されてしまった今では、場合によっては以前より治療費が高額になることもあります。
編集部
確かに、治療法によっては保険適用にならないこともあるので、注意しなければならないですね。
宮﨑先生
それから、先述のとおり治療法によっては保険適用に条件が定められていることにも注意が必要です。子どもを持ちたいとお考えの方は早めに医療機関へ相談することをお勧めします。
編集部
最後に、MedicalDOC読者へのメッセージがあれば。
宮﨑先生
保険適用が拡大されたことで、不妊治療開始のハードルが少し低くなりました。これまで受診をためらっていた方も、ぜひ、気軽に受診していただきたいと思います。受診する際に気をつけてほしいポイントは、まず、妊娠率のデータがウェブサイトなどできちんと開示されているクリニックを選ぶこと。また、採卵件数は胚培養士の技量を確認する目安となりますから、この数値も開示されていることが望ましいでしょう。それから、特定の治療法に固執せず、さまざまな治療法から一人ひとりに適した方法を選択してくれるクリニックを選ぶことも大切です。いずれにしても、不妊治療を成功へ導くために大切なのは、クリニックと患者様の信頼関係です。カウンセリングや相談会などに参加して、クリニックの雰囲気や相談のしやすさなども確認することをお勧めします。
編集部まとめ
不妊治療に保険が適用になったことは、とても大きなニュースです。婚姻関係にある夫婦だけでなく、事実婚の場合も保険適用の対象になりますから、興味がある方は調べてみると良いのではないでしょうか。
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診療科目 | 婦人科、不妊治療 |