体外受精の胚移植は「いつ、どの方法で、何個移植すると」着床率が上がるの?
体外受精の技術や技法は日進月歩のスピードで進化しています。しかし、胚移植のタイミングや個数については、ケースバイケースであることが多く、一概にこれが正解と言うことはできません。では一体、体外受精の胚移植をする場合、着床率を上げるためにはどのような点に気をつければいいのでしょうか。「はらメディカルクリニック」の宮崎先生にお聞きしました。
監修医師:
宮﨑 薫(はらメディカルクリニック 院長)
慶應義塾大学医学部卒業、慶應義塾大学大学院医学研究科修了。国内外における大学病院の産婦人科助教・研究助教授や一般医療機関での産婦人科勤務を経た2020年、東京都渋谷区に位置する「はらメディカルクリニック」の院長就任。医療方針は「最先端の医療で最短の妊娠を」。医学博士。日本産科婦人科学会認定専門医・指導医、日本生殖医学会認定専門医、日本再生医療学会認定再生医療認定医、日本内分泌学会認定内分泌代謝科専門医、日本女性医学学会女性ヘルスケア専門医。
胚移植は「いつ」がベスト?
編集部
体外受精について調べていると、「3日目移植」や「5日目移植」という用語を見かけます。これはどういう意味ですか?
宮﨑先生
「○日目」の意味は、「採卵して受精させた卵子を体外で培養する日数」のことを指します。受精させて培養を開始した日を「培養0日」とカウントします。
編集部
なるほど。つまり「3日目移植」は、培養して3日目の受精卵ということなのですね。
宮﨑先生
はい。受精卵は培養をすると細胞分裂を繰り返し、どんどん成長していきます。この細胞分裂を始めた受精卵のことを「胚」といいますが、受精後2~3日目までの胚を「初期胚」といいます。そして、初期胚の時期を過ぎた培養5〜7日目のものは、「胚盤胞」といいます。
編集部
どの時期に子宮へ戻すのがベストなのでしょうか?
宮﨑先生
一概には言えませんが、報告によると「培養5〜7日目の胚を移植する胚盤胞移植は、初期胚移植よりも妊娠率が高い」とされています。
編集部
それは一体、なぜですか?
宮﨑先生
胚盤胞移植は、子宮に着床する直前まで培養して育てることができるからです。その一方で初期胚の状態で移植した場合、移植時には良好な状態であったとしても、移植後にきちんと着床するとは限りません。そのため、胚盤胞まで育ってから子宮に戻した方が確率は高いとされています。
編集部
そうなると、胚盤胞移植の方が優れているということになりますか?
宮﨑先生
いいえ、必ずしもそうとは限りません。患者さんによっては何回採卵しても胚盤胞まで育たないということも考えられますから、その場合は初期胚移植をおこなうこともあります。
体外受精の移植方法は3つ
編集部
次に、体外受精をおこなう際の移植方法について教えてください。具体的に、どのような方法があるのですか?
宮﨑先生
大きく分けて、「自然排卵周期」、「低刺激周期」、「ホルモン補充周期」の3種類があります。自然排卵周期は、自然の排卵周期に合わせて移植をおこなう体外受精法です。ただし、この場合、月経周期が正常であることが前提になります。低刺激周期は、排卵誘発剤を使って月経周期の安定を図る方法です。最後、ホルモン補充周期ですが、こちらは卵胞ホルモンや黄体ホルモンを使用して、子宮内膜の状態を整える方法です。胚移植の確実性は、「自然排卵周期<低刺激周期<ホルモン補充周期」の順番で高くなります。
編集部
ということは、ホルモン補充周期が第一選択肢ということになりますか?
宮﨑先生
そこは患者さんの考え方によると思います。たしかに、ホルモン補充周期が最も確実性は高いのですが、体にかかる負担は自然に近い状態で妊娠を促す自然周期移植が最小です。自然周期移植は排卵誘発剤を使用しないため、自然に育った排卵直前の卵子を採取することができます。そのため、より自然妊娠に近い状態で、子どもを授かることができます。
編集部
ホルモン補充周期を選択するのは、どのような場合でしょうか?
宮﨑先生
ホルモン補充周期のメリットは、事前に胚移植日を決定して、そこから逆算してホルモン剤を投与できるため、胚移植の予定を立てやすいという点です。そのため、通院回数もほかの移植方法に比べて少なくて済みます。ただし、移植方法に対する考え方は医師やクリニックによって大きく異なるため、相談して決めるといいでしょう。
一人ひとりのケースで違う、「何個採卵すべきか?」
編集部
体外受精をする時には、「卵子をいくつ採卵するか」ということも大きな問題ですよね。
宮﨑先生
これは先ほどお話した「自然排卵周期」、「低刺激周期」、「ホルモン補充周期」のどれを選択するかによっても大きく変わってきます。自然排卵周期の場合は、排卵誘発をおこなわないため、一番成熟した大きな卵子だけを採卵します。しかし、ホルモン剤を使って卵巣刺激をおこなえば、複数の卵子を採ることができます。
編集部
すると、低刺激周期やホルモン補充周期の場合は、もっとたくさんの卵子を採卵できるのですか?
宮﨑先生
卵巣の状態にもよりますが、低刺激周期の場合は5個程度、ホルモン補充周期の場合は10個程度、採卵することが可能です。しかし、採卵数が多ければ多いほど着床率が上がるのかというと、そうではありません。採卵数が多いと、卵巣が大きく腫れたり腹水が溜まったりする「卵巣過剰刺激症候群」のリスクが出てきます。
編集部
だとすると、何個くらいが目安になるのでしょうか?
宮﨑先生
採卵数が6個以上になると妊娠の成功率が上がるというデータがある一方で、先述した卵巣過剰刺激症候群に気をつけなければなりません。そのため、最終的には一人ひとりの状態や年齢、既往症、バックグラウンドなどを考慮しながら決定する必要があります。
編集部
でも、たくさん採卵しても移植するのは1個なのですよね?
宮﨑先生
通常は1つですが、患者さんの年齢が高めだったり、今までの治療経過がよくなかったりする場合には、着床率と妊娠率を高めるために受精卵を2個同時に移植することがあります。ただし、その場合は双子が産まれてくる可能性もあるため、その点の注意が必要です。
編集部
今までの話をまとめると、一概に「いくつの卵子を」「どのように採取して」「どのように移植するべきか」を定義することは難しいということですね。
宮﨑先生
「1回あたりの採卵数が多いと、着床・妊娠に至りやすい」というのは事実です。しかし、それ以外に患者さんの年齢やライフスタイル、既往歴、薬による合併症などの問題も関わってきますから、誰にでも当てはまる正解を見つけることはできません。体外受精は時間も費用もかかる治療ですし、精神的なストレスや悩みもあるでしょう。医師としっかり話し合いをして、前向きな気持ちで治療に取り組んでいただきたいと思います。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
宮﨑先生
当院では、体外受精を検討している人を対象に、無料の説明会や相談会を定期的に開催しており、治療を始める人には必ずご参加いただいています。クリニックによってはこうした機会を設けているので、積極的に参加してクリニックの治療方針や医師の姿勢などを確認するのが理想的です。また、複数の医師の話を聞いて、ご自身の考えに合うクリニックを見つけることをおすすめします。
編集部まとめ
体外受精に唯一の正解はなく、年齢や体質、考え方などによって取るべき選択肢が変わってくるようです。また、体外受精をはじめとする不妊治療は、政府が整備に取り組むほど大きなテーマです。不妊治療を取り巻く社会制度や医療体制はどんどん変わっていますから、不明なことがあったら医師に聞いたり、積極的に新しい情報を調べたりするといった姿勢も大切になってきそうです。
医院情報
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診療科目 | 婦人科、不妊治療 |