「不妊治療」のステップアップの順番はご存じですか? 治療の流れや心構えも医師が解説
不妊治療は、子どもを望んでいるカップルにとって非常に大切なサポートで、「4〜5組に1組のカップルは、実際に検査や治療を受けたことがある」というデータもあるほどです。今回は、不妊治療の主要なステップについて、「ソフィアレディスクリニック」の長谷川先生に解説していただきました。
監修医師:
長谷川 朋也(ソフィアレディスクリニック(長谷川LCグループ))
不妊治療の第一歩とは
編集部
どのくらい妊娠しないと「不妊」なのでしょうか?
長谷川先生
「定期的な性交渉を持ち、避妊していないにもかかわらず、1年以上妊娠に至らない」状態が、いわゆる不妊です。ただ、最近では「1年では長すぎる、その1年間で卵子や精子の質が低下してしまう」ということで、実際は半年ほどで不妊専門のクリニックなどに相談するのが推奨されています。
編集部
不妊治療について教えてください。
長谷川先生
不妊「治療」とは言いますが、まず大事なのは不妊の原因を探るための検査です。男性と女性の両方におこなわれるもので、女性には卵巣や子宮の状態を確認するための超音波検査やホルモン検査、卵管造影検査を実施します。男性には、精子の数や運動率を調べる精液検査がおこなわれます。そして、検査結果をもとに、どの治療法が適切かを決定します。
編集部
検査では何がわかりますか?
長谷川先生
「卵管は通過しているか、閉塞や癒着はないか」「男性の精子の数や運動率は良好か」「感染症がないか」「子宮内膜症や子宮筋腫、子宮奇形などがないか」「排卵があるか、内容の良い排卵か、黄体機能はどうか」などを確認します。
編集部
そこから、どう治療に進んでいくのでしょうか?
長谷川先生
検査で原因がはっきりした場合は、原因に対する治療をおこないます。治療後、もしくは治療と並行して、「タイミング法」を実施します。タイミング法では、排卵のタイミングに合わせて性交渉を持つことで妊娠の確率を高めます。もしホルモンのバランスが問題であれば、ホルモン治療や排卵誘発剤を用いる薬物療法もおこないます。
不妊治療のステップアップ
編集部
それでも妊娠しなかった場合はどうなりますか?
長谷川先生
もしタイミング法や薬物治療で妊娠が難しい場合、次のステップとして「人工授精(AIH/IUI)」」が提案されます。人工授精では、精子を直接子宮内に注入することで妊娠の確率を高めます。特に精子の運動率が低い場合や、女性の子宮頸管に問題がある場合などに有効です。
編集部
人工授精は、体外受精とは違うのですか?
長谷川先生
人工授精は、精子を女性の体内に注入する方法ですが、「体外受精(IVF)」では、卵子と精子を体外で受精させ、数日間培養した後に、成長した受精卵(胚)を子宮に戻します。体外受精は、卵管の問題や重度の男性不妊、または人工授精などで結果が出ない場合に選ばれることが多いですね。
編集部
体外受精でも結果が出なかった場合は?
長谷川先生
体外受精がうまくいかなかった場合、次のステップとして「顕微授精(ICSI)」が提案されることが多いと思います。顕微授精は、精子を直接卵子に注入して受精を助ける方法です。治療を続けるかどうか、どのタイミングでステップアップするのかなどは、当人たちの希望や体調、精神的・金銭的な負担などを考慮して決めていきます。
出口の見えない不妊治療…専門医からのアドバイス
編集部
いくつかのステップがあるのですね。
長谷川先生
そうですね。ただ、全てのカップルが、1つずつステップアップしていくわけではありません。年齢や不妊の原因などによって、最初から体外受精や顕微授精を勧めることもありますし、いきなり不妊治療に入るのではなく、まずは原因疾患の治療に専念しましょうとお伝えすることもあります。
編集部
不妊治療を始めるにあたって、気をつけることなどありますか?
長谷川先生
よくありがちなのは「自力で妊活をする」時期が長すぎて、時間ばかりが過ぎてしまうパターンです。原因が不明なまま妊活を続けているうちに、精子や卵子の質が低下して卵子の数も減っていきます。そうなると、いざ治療を開始したときには成功率が落ちてしまっているのです。妊活を始めて半年くらいで結果が出なければ、夫婦でクリニックに相談していただくことをおすすめします。
編集部
「精神的につらい時期がある」と聞いたことがあります。
長谷川先生
治療がうまくいかないとき、どうしても「自分だけが妊娠できない」と考えてしまったり、SNSなどで周りと比べたり、情報に振り回されたりすることもあるでしょう。いわゆる「不妊うつ」に陥るケースも多いので、インターネットを過度に見過ぎない、信じすぎないよう心がけるのが大事です。ただ、SNSが悪いというわけではなく、そこで同じ悩みをもつ仲間を見つけて前向きになれるという、プラスの側面もあるとは思っています。
編集部
不妊うつという言葉があるのですね。
長谷川先生
はい。実際に、ストレスと妊娠率は関係があると言われており、それを裏付ける研究データも多くあります。ストレスが溜まっていると感じたら休息をとって、まずはストレスを緩和させることが大事です。そして、一番大事なのは「1人で抱え込まないこと」です。パートナーと価値観や意見をすり合わせ、伴走して治療ができたらいいですね。医師や看護師も、治療経過を把握しているので、より親身になって話を聞いてくれると思います。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
長谷川先生
不妊治療は「出口の見えない暗いトンネル」とも言われています。「ストレスを溜めないように」と言われても難しいかもしれませんが、旅行をしたり、美味しいものを食べたりして、適度に休息しながら取り組んでほしいと思います。また、妊娠に至るまでには、「卵子が育つ」「受精する」「受精卵が育つ」「着床する」などの段階があり、1つ階段を登っただけでもすごいことです。妊娠の有無だけを見て「妊娠しなかったから失敗」と考えず、一歩一歩進んだ自分を褒めてあげてほしいと思います。
編集部まとめ
不妊治療は多くの場合段階的に進むため、ステップごとの理解を深めておくことが大切とのことでした。また、「自己流で妊活を続けるよりも、早めに専門クリニックに相談を」「妊娠までのステップを一つ進んだら、そこで自分を褒めてあげる」ことも重要です。ぜひ、不妊治療の心構えとして覚えておきましょう。
医院情報
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アクセス | JR「淵野辺駅」 徒歩3分 JR「矢部駅」 徒歩12分 |
診療科目 | 婦人科、不妊外来 |