不妊治療が4月から保険適用に 厚生労働省の発表を産婦人科専門医が解説
日本では、夫婦やカップルの5.5組に1組が不妊治療や検査を受け、生まれてくる子供の17人に1人が生殖補助医療(不妊治療)によって誕生しています※。他方、自費での不妊治療は施設によって値段に大きな差があり、経済的な理由で不妊治療を受けられない(続けられない)方も多くいました。そこで2022年4月より不妊治療に医療保険が適用されることになりました。これから不妊治療はどのように変わっていくのか。現在厚生労働省で進んでいる議論を紹介します。
※参照:厚生労働省「不妊治療と仕事の両立サポートハンドブック」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/dl/30l.pdf
監修医師:
柴田 綾子(淀川キリスト教病院産婦人科)
群馬大学医学部卒業。淀川キリスト教病院 産婦人科所属。院内に留まらず各地での後進教育に携わる。性・妊娠・出産について悩む人を減らしたいと、一般に向けた発信も積極的に行う。著書に女性の救急外来 ただいま診断中!(中外医学社,2017)、産婦人科ポケットガイド(金芳堂,2020)。女性診療エッセンス100(日本医事新報社,2021)。日本産科婦人科学会産婦人科専門医。
新しく保険対象になるもの
柴田先生
今でも不妊治療のうち、タイミング法や人工授精の一部、卵管造影、子宮鏡手術などは保険適用となっています。今回、4月から新しく以下のものが保険適用され3割負担になる予定です。カッコ内の診療報酬点数として現在議論されています※1。
・一般不妊治療管理(250点)
・抗ミュラー管ホルモン(AMH)検査 (600点)
・人工授精(1820点)
・体外受精(4200点)
・顕微授精
1個の場合 (4800点)
2~5個の場合(6800点)
・採卵 ※採卵できた卵子の数に応じて異なる
1個の場合(2400点)
2~5個(3600点)
・胚培養
1個の場合 (4500点)
2~5個の場合(6000点)
・胚移植
新鮮胚移植の場合 (7500 点)
凍結・融解胚移植の場合(12000 点)
・胚凍結保存
1個の場合(5000点)
2~5個の場合(7000点)
・精巣内精子採取(12400 ~24600点)
※1:診療報酬は「1点=10円」として計算されます。患者さんの負担は、3割負担が多いため 診療報酬点数x10円x 0.3 = 価格となります。
参照:厚生労働省 不妊治療の保険適用(その3)
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000866793.pdf
参照:中央社会保険医療協議会総会(第516回) 議事次第
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000894888.pdf
保険適用になる対象
柴田先生
不妊治療が保険適用になるのは、2022年4月以降の治療開始時点で43歳未満の女性となっています。医療保険が使える回数には
①40歳未満の女性:1子につき6回まで
②40歳以上43歳未満の女性:1子につき3回まで
という制限があり、患者さんからの自己申告に基づいて決められる予定です。
まだ保険適用になっていない不妊治療
柴田先生
今回の決定で保険適用にならなかったのは以下のようなものがあります。これらは、全額自費になるものと、一部は「先進医療」と認定され保険診療(3割負担)と併用できるものとに分かれる予定です。現在、自費と保険診療をどのようにするか、細かな部分の議論がおこなわれています。
・着床前検査(PGT)
・第三者の卵子又は精子提供による不妊治療
・子宮内膜検査(細菌叢、受容能)
・子宮内膜スクラッチ
・タイムプラス
・二段階胚移植法
・反復着床不全に対する免疫抑制剤
4月までの不妊治療はどうなる?
柴田先生
これまでは自費の不妊治療に対して、自治体による費用助成をおこなっていました(特定不妊治療費助成事業)。現在の助成では、43歳未満の夫婦に対して1回あたり30万円を上限に、支払った費用を返還しています※。2022年3月から4月にまたぐ不妊治療の場合は、その1回分は保険適用ではなく自治体の費用助成の対象となる予定です。
※不妊治療の費用助成を申請するためには、お住まいの自治体から申請用書類をもらい、提出する必要がある
最後に
柴田先生
2022年4月から不妊治療の保険適用が拡大されます。これにより、地域や施設による値段の格差が小さくなる見込みです。他方、保険適用に入らなかった治療を一緒におこなう場合、全額自費になってしまうのか、一部が自費になるのかなど、議論がつづけられています。他にも不妊治療を受ける女性が頻回な通院などが原因で仕事をつづけられずに退職せざるを得ないことが大きな課題となっています。不妊治療を受けている女性の心と体への負担は大きく、抑うつになるリスクや、メンタルヘルスや精神的ケアが非常に重要であることが分かってきています。産婦人科医として、妊娠を望む女性が少しでも使いやすくなる制度ができるよう願っています。