失明する恐れがある「緑内障」、治療法や適応について眼科医が解説
日本における失明率第一位の目の病気が緑内障で、60歳以上の発症率は約1割とも言われています。とはいえ、自覚症状が出てきたときには、すでに手遅れという話もよく耳にします。では、一体どうすればいいのでしょうか。今回は早期発見がカギを握る緑内障について、Medical DOC編集部が眼科医の三枝先生(三枝眼科医院)を取材しました。
監修医師:
三枝 佳五(三枝眼科医院)
緑内障とはどんな目の病気?
編集部
緑内障というと、眼圧が高くて発症するイメージです。
三枝先生
ところが、日本人に限って言えば「正常眼圧で発症する緑内障の方が多数派」ということがわかってきました。つまり、眼圧では緑内障かどうかを判断できなくなってきているということです。なので、眼圧検査だけで緑内障を判断することはしていません。緑内障は、誰にでも起こり得る目の病気です。そして、失明に至ることもあります。
編集部
緑内障の症状、つまり「見え方」はどうなるのでしょうか?
三枝先生
大多数の人が片目から発症していくので、症状に気づかないことが多いですね。片目だけに緑内障が生じても逆の目で視野を補うため、自覚はなかなか困難なのです。きちんと片目ずつ調べていけば、「視野の部分的なぼやけ」などに気づくこともあるでしょう。
編集部
緑内障が両目に現れることもあるのですか?
三枝先生
両目が緑内障で「物がよく見えない」となると、かなり進行してしまっている状態ですね。ですが、こうなってから眼科を受診される患者さんは実際に少なくありません。ぜひ、片目ずつのセルフチェックを心がけてください。両目の疾患で、それぞれ進行度合いが異なることもあります。
編集部
全体的にピントや輪郭がボケるのではなく、視野の中の一部分がおかしくなるのでしょうか?
三枝先生
はい。視野の中の一部分がおかしくなります。ただ、見えにくい部分があると、目を動かして「見よう」としますので、なおさら自覚が困難になります。見えにくい部分は目の動きと一緒に動き、その結果として「見えて」しまいます。ともかく、「あれ? 見え方がおかしいな」と思ったら、気のせいでもいいので眼科を受診しましょう。
緑内障に気づくには? 診断・チェックの流れ
編集部
高眼圧による緑内障が少数派だとすると、どうやって検査・診断しているのでしょうか?
三枝先生
もちろん、眼圧も診断基準の1つですよ。そのほか、視野検査など様々な検査を組み合わせて判断するのですが、なかでも「OCT」という機器が緑内障のスクリーニングに有用です。このOCTは、網膜の厚みを測定する器械で、「緑内障の発見率が1桁上がった」印象があります。網膜の厚さは通常の視診でわからないので、大変に重宝しています。
編集部
網膜の厚さと緑内障の関係が、いまひとつわかりません。
三枝先生
統計学的に、「網膜の厚みにムラのある場合、緑内障である可能性が高い」ということがわかっています。緑内障になったから網膜が薄くなったのか、網膜が薄くなったから緑内障になったのかについては、なんとも言えません。いずれにしても、網膜の厚さが緑内障診断のカギとなります。また、OCTの画像を患者さんにお見せすると、治療の必要性に納得していただきやすいですね。
編集部
OCTは、どの眼科にも備えてある機器なのでしょうか?
三枝先生
いいえ、眼科医院によります。ただし、OCTの有用性は周知されてきましたので、備えている眼科医院が大半という印象です。一部ですが、「大学病院などでOCTを受けてきてください」などと依頼されるケースもあるでしょう。
編集部
ところで、緑内障の予防方法はあるのでしょうか?
三枝先生
現状、予防法はありません。そのため、早期発見・早期治療開始に尽きます。ですから肝心なのは「なんでも気軽に相談できるかかりつけの眼科医をもっておくこと」だと考えています。加えて、定期的な眼科検診を受けることですね。目のことは眼科医にお任せください。とくに緑内障の家族歴のある人と近視が進んでいる人は要注意です。
緑内障の治療法を解説
編集部
続けて、緑内障の治療方法についても教えてください。
三枝先生
正常眼圧で発症する緑内障でも、「眼圧を今の状態より低くして、視神経へのダメージを抑えることと血流量を増やすこと」は有効です。そこで、眼圧を下げる目薬が治療方法の第一選択肢となります。もちろん、眼圧が正常値より高いケースも同様です。また、このタイプの緑内障の場合、最近では「SLT」と呼ばれるレーザー治療も選択肢として考えられています。
編集部
眼圧は本来、自然に調節されるものなのですよね?
三枝先生
はい。目の中の水のことを「房水」と言いますが、正常であれば、この房水の抜け道が通じています。緑内障の一種でみられるのは、この抜け道が狭くなって眼圧が高まる症状です。この種類の緑内障の場合は、手術や「LI」という別のレーザー治療も検討していきましょう。ただし、こうした種類の緑内障は少数派であることがわかってきました。
編集部
それらの治療で、緑内障は治るのでしょうか?
三枝先生
一度欠損した視野は、元に戻りません。緑内障治療の目的は、「それ以上の進行を抑えること」です。ですから、なおのこと早期発見が求められます。たとえ片目だとしても「自覚が起きてからでは遅すぎる」印象です。自分では気づけないわずかな予兆を眼科ですくい取って、早期治療開始に結び付けましょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
三枝先生
緑内障は命に関わらない病気なので、看過されがちです。しかし、失明に至ることもある怖い病気と言えます。ぜひ、自覚を待って受診するのではなく、“がん検診”のように無自覚なうちからリスクを拾っていきましょう。「オーダーメイド医療」という言葉もあるように、目に関するお悩みは人それぞれですから、その人に合った治療をご提供いたします。
編集部まとめ
緑内障治療の第一選択肢は、眼圧を下げる目薬やSLTレーザー治療ということでした。また、房水の抜け道が狭くなるタイプの緑内障では、別のレーザー術(LI)や手術も適応になります。とはいえ、こうした治療は発見ができてこそです。むしろ、「目に病気がないことを確認するための眼科健診」が求められるのでしょう。あるいは、個人ごとに異なる見えの不具合や不満を解消する「オーダーメイド医療」も検討してみてください。
医院情報
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診療科目 | 眼科 |